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リアクション
生徒達の出し物
可愛らしい壁紙の部屋に机、椅子が並んだ喫茶店には、可愛らしいエプロンをつけたメイドさんたちがいた。
「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ!」
客が入れば、赤いハートに『しのぶ』と書かれた名札を付けた下川 忍(しもかわ・しのぶ)の声が教室に響き、ポニーテールが揺れる。
挨拶に気合が入っているのは、今日の出し物が投票で好評だったら、ヴァイシャリー家が夢を叶えてくれるという話を聞いたからだ。
百合園女学院で、「男の娘がもっと大手を振って過ごせるようにしてほしい」──。
いや、しかし、だ。校長の性別が公然の秘密と化していても、ここは女子校である。故に生徒の中に男の娘、つまり男性は表向きはいないことになっており……。
「おいしくなーれ♪」
接客係の忍は、にっこり笑ってオムライスにお絵かきをしている。
彼女の担当は、お絵かきつきの「ケチャップオムライス」と、安いけどお絵かきが無い「ハヤシオムライス」。
それからハート型のご飯の間にソースがある「ハヤシライス」と、ハートが描かれているダンプラーに乗った「メロンソーダ」だ。
せっかくだからと、お絵かきつきを頼む生徒が多いため、忍は忙しいけれど笑顔を忘れない。
「メロンソーダお待たせしました」
運ばれてきた緑色したしゅわしゅわの液体。ストローを手にして、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、
「展示とか屋台とかいっぱい出てるしひますることはなさそうだね」
言いながら、妻の様子を伺った。
「大丈夫、日奈々?」
身体が弱いため人の多い場所が苦手な冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は、ゆっくりと頷く。
「うん……せっかくの学園祭だもん。思いっきり楽しまないと」
日奈々は千百合を気遣ってかすぐにソーダを呑み終えてしまうと、屋台の間を縫って歩いた。
手をつなげるように、日奈々は綿あめ、千百合は林檎飴を片手に手をつないでぶらぶら歩く。
「千百合ちゃん、あーん」
日奈々はピンク色の綿あめを千百合の口に近づけると、彼女はぱくっと頬張る。同じように林檎飴をしゃくしゃく食べた千百合は、さっき買った袋に詰めてもらったプチシュークリームを日奈々の口に入れる。これなら手も汚れないし、と思っていたけれど、
「ついてるよ」
日奈々のほっぺたにちょこっとカスタードクリームが付いているのを見付けて、千百合の唇がついばんだ。
そんな風に楽しく歩いていた二人だったが、日奈々には少々辛かったようだ。
(あ……でも結構人、多いなぁ……ちょっと、きつい、かも。でも、せっかくのデートなんだし……台無しにしたくないから我慢しないと)
我慢していた日奈々だったが、手を頭に当てた彼女に、千百合は真剣な表情で、
「日奈々、大丈夫?つらそうだけど」
「人が多くてちょっとつらい、かも……」
「休憩室があるみたいだしそこいこ? ね?」
自分のせいで千百合の楽しみを邪魔したくない、という思いから無理しようとするのが、千百合には解る。
「でもせっかくのデートだし……」
「だ〜め、日奈々が倒れたりしたら余計に台無しになっちゃうよ。それにあたしは日奈々がいればどこだって楽しいから」
「え、千百合ちゃん……でも……」
彼女がまだためらうのを見て、
「というわけで行くよ」
千百合は有無を言わせず、日奈々をお嬢様抱っこで抱え上げた。
「え、わ、きゃっ」
日奈々が小さな悲鳴を上げる。
千百合はそのまま臨時保健室に向けて、注目を浴びるのも構わず、日奈々を運んで行った。