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秋のシャンバラ文化祭

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    ★    ★    ★
 
「コーヒー占いかのう。なんなら、わらわの『萌える! スマホアプリ開発 for Cinema−3D』を使って、アプリにしてしまえばもっと面白いかもしれんのう」
 占卜大全風水から珈琲占いまでのにぎわいを見て、庵堂楼 辺里亜(あんどうろう・ぺりあ)が言いました。
 魔道書である庵堂楼辺里亜の本体はスマートホンです。
「スマートホンですかあ。私、まだ普通の携帯電話なんですよね。どうやって使えばいいんでしょうか?
 ソア・ウェンボリスは、庵堂楼辺里亜の本体を前にして、ちょっと戸惑い気味です。
 パラミタでは、長く従来型の携帯が主流でしたので、スマホを持っていない人もたくさんいます。地球からは10年遅れていますね。イコンなどの最先端技術がある割りには、まだまだパラミタは新旧ごたまぜの世界です。
「うっ、スマホかあ。俺もまだスマホじゃないんだよなあ」
 こっちも分からないと、緋桜ケイがちょっと引きつった顔で、ソア・ウェンボリスに答えました。
「うん。なんだか難しいよね」
 秋月葵も、ちょっと扱いかねています。
「そんなに難しいかのう。簡単だと思うのじゃが……」
 庵堂楼辺里亜が、少し意外そうに言いました。もっとも、機械自体の難しさと言うよりも、中に入っているものがアプリケーションの作り方を解説したものなので、プログラムが分からないとちんぷんかんぷんなのです。
「ふむ、言語学の本の一種だと考えれば、理解できないことはないであろう」
 プログラムのことは分かりませんが、しょせんは命令文のコマンドの解説書です。辞書や文法書と大差ないと、禁書『ダンタリオンの書』が言いました。
「そうは言うけど、やっぱりプログラマーじゃないと、難しいよね」
 機工士の仁科姫月に言われて、ドルイドの成田樹彦が苦笑いしました。
「ツールですからね。分かってしまえば、面白いと思いますよ」
 同じ魔道書で、本体がタブレット型コンピュータである天樹十六凪が、興味深そうに言いました。
「ほう、スマホ単体で、プログラムが可能なのですか。ソースコードの入力を端末で行って、アセンブルはクラウドで処理するのでしょうか。問題は、ユーザーインターフェースが、どのように構築されているかですが……」
「それについては、細かく解説してあるのじゃ。ほれ、ここをタッチすると、わらわのマスコットが、動画で説明を始めてくれる。サンプルに使っているのは……」
「む、難しいです……」
 天樹十六凪と庵堂楼辺里亜の会話を聞いていたソア・ウェンボリスが、なんだか知恵熱を出して、よろよろと雪国ベアにもたれかかりました。
「では、ためしに、コーヒー占いをプログラム化してみようかのう」
 庵堂楼辺里亜が、ちらんと占卜大全風水から珈琲占いまでを見ました。
「凄い、アリルディスも、スマホの中には入れるかもしれないね」
「いや、それは勘弁してくれ。環境が違いすぎる」
 いきなり媒体を変更しないでくれと、占卜大全風水から珈琲占いまでがしっかりと自分の本体を確保して言いました。
 
    ★    ★    ★
 
「別の意味で、こっちも難しいです……」
 スマホから離れて、別の本を手に取ったソア・ウェンボリスが、眉間に皺を寄せながら言いました。
 ソア・ウェンボリスが手に取ったのは、中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)の本体です。紙ではなく、竹をつなぎ合わせた巻物のような形の本です。しっかりかっきり、漢語で書いてあります。
「ち、知恵熱が……」
 横からのぞき込んだ秋月葵が、思わずよろめきました。
「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、ちゃんと漢和辞典を持ってきてあるから」
 準備万端抜かりなしと、中国古典『老子道徳経』が、分厚い辞書をどんと自分の本体の横におきました。
「辞書があれば、翻訳は出来そうだけど、やっぱり古典は難しいよね」
 そんなに苦労してまで読むのはどうなのかと、仁科姫月が分厚い辞書をポンポンと軽く叩きました。
 いや、叩いてどうするのだと、思わず成田樹彦が苦笑します。
「漢字が、ネックですね。中国語、いえ、漢語ですから、日本語と意味が違う物も多いですし」
 なまじ、自分の知識だけで読もうとすると勘違いしそうだと、高峰結和が言いました。
「抄訳と、対訳の小冊子は用意してあるから、漢字が難しいという人は、そちらから読んでみてね」
 用意周到に中国古典『老子道徳経』が、用意した小冊子を机の上におきました。
「これなら、俺にも読めそうだな」
 小冊子を手に取った源鉄心が、そちらを読み始めます。
「私には、道、無為自然といった老子の思想について漢語で書かれているのよ。その思想は、簡単に言うと『人為を持たず柔らかに、地に足を着け名前に惑わされず、ただ人として生来のあるがままに生きなさい』といったものだわ」
「ふむふむ」
 中国古典『老子道徳経』が説明しているそばで、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が、辞書を片手に本体の方を読んでいました。さすがに、竹簡は少し読みにくそうです。
「無為自然ですか。自由とは、本当にすべてから自由であるべきでしょうからね。そう責任からも自由なぐらいでないと」
 非不未予異無亡病近遠が言いました。
「自由とは、責任を伴うものではないのか?」
 その考え方はどうなんだと、佐野 和輝(さの・かずき)が非不未予異無亡病近遠に突っ込みました。
「自分で定義した軽い責任を盾にして、自分勝手を自由と称するのはどうなんでしょう。定義が逆のような気がしますね。ですから、真の自由とは、責任からも自由であるべきではないのでしょうか」
「へえ、そういう解釈もあるというわけか。まあ、単純に、自由と責任は一定の割合があるだろうからな。最低限の責任で、最大級の自由を求めるのは理不尽だろうさ」
 普段パートナーとは出来ないような問答を、ちょっと楽しみながら非不未予異無亡病近遠と佐野和輝が続けていきます。
「そうね、何ごとも等身大ということかしら。あるがままとは、他人ではなく自分自身のことのはずよね。何かに依った行動は、すでにとらわれていることだから。周囲に惑わずに、本来の自分の有り様を辿ることが出来れば、それが自然なのだけれど」
 中国古典『老子道徳経』が、進んで問答に加わっていきました。
「そのようなことが、何千年も前にすでに書かれていたというのは、興味深いものですね」
 感慨深げに、非不未予異無亡病近遠が言いました。
 
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「さあ、規定の時間が過ぎました。各位に推薦してもらった魔道書の集計結果が、こちらに届いています」
 読書会を終了して、アラザルク・ミトゥナが結果発表に移っていきました。
「第二回、魔道書読書会、今回のベストセラーは……。占卜大全風水から珈琲占いまでさんです」
 アラザルク・ミトゥナが、ベストセラーを呼び上げます。
「おめでとー」
 ソア・ウェンボリスが、拍手をしました。続いて、みんながおめでとうを言います。
「やはり、コーヒー占いは大吉だったな」
 さすがに、占卜大全風水から珈琲占いまでは、誇らしげです。
「本当に、本が受けたのか?」
 ちょっと懐疑的に、佐野和輝が言いました。
「うーん、本と言うよりは、コーヒーと占いが受けただけの気も……」
 喜ぶ占卜大全風水から珈琲占いまでに、高峰結和が言いました。まあ、それはそれで、コーヒー占いの普及に役立ったので、ある意味問題ないわけですが。
「記念に、アプリ化するかのう?」
「プログラムするなら、私が請け負いますが?」
 訊ねる庵堂楼辺里亜に、天樹十六凪が乗っかりました。
「ええと、どうすれば……」
「わ、私に、き、聞かないでー」
 答えを求めてきた占卜大全風水から珈琲占いまでに、高峰結和が焦りながら答えました。