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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第12章


「……ん」

 物音を聞いた気がして、ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)は目を覚ました。

「気付きましたか」
 そこにいたのはメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)レン・オズワルド(れん・おずわるど)のパートナーだ。

「……あんたは」
 フューチャーXの攻撃で気を失ったブレイズ。どうやらメティスに傷の治療を受けたらしいということに気付いたブレイズは、身体を起こした。
「すまねぇ、助けられたようだな」
 メティスはブレイズの体力が回復していることを確認し、満足する。
「いいえ、礼には及びません。さぁ、行きましょう」
 ここはビルの地下だ。ブレイズは他のコントラクター達と共にアニーを救出するために侵入していたのだが、途中でフューチャーXの妨害に遭ったのである。
「あ! そうか俺、途中であのジジイに襲われて……」
 無意識にダメージを受けた腹部をさする。油断していたつもりはなかったが、一撃で沈められてしまった。
「……どうしました?」
 すぐにでも報復に向かうかと思われたブレイズだが、懐から取り出した金色のペンダントを取り出し、眺めている。
「あのジジイ……これと同じ物を持っていた」
「マジックアイテム……ですか?」
「ああ、そうだ。この世にふたつとない、筈……なのに」
 フューチャーXの攻撃を受けた時、ブレイズが掴んだ胸元から見えたそのペンダント。
 それは、竜の顎と牙をかたどったアミュレットだった。
「単純に同じアイテム、というわけではないのですね」
「……ああ。これは前の持ち主が最後に……俺に渡した物なんだ。他の誰もが持っている筈もねえ……」
 悩むブレイズ。だが、メティスはそんなブレイズを促すように、言葉をかけた。
「それならば、直接聞いてみればいいではないですか」
「……」
「あの老人は未来からの使者と名乗っています。なら考えられる可能性は、いくつかありますよね」
「ああ……」
「まず考えられることとしては、あの老人が未来のブレイズさん自身である、という仮説ですが」
「……いや……言いたいことは分かるが……おそらく違う……。
 いや、もう見当はついてるんだ。
 だけど、その見当は……ありえねぇ……」
 頭を振るブレイズ。メティスは、素直な疑問を口にした。
「何故……ありえないのですか?」


「だってよ……俺にこれを渡したその人は……もう、この世にいねぇんだから」


                    ☆


 その頃、パーティ会場に姿を見せた人物がいた。
 四葉 恋歌だ。

『……』

 その傍らには、亡霊に憑依されたアン・ブーリンの姿もある。
 会場の一角はノア・レイユェイが作った氷の壁があり、その前にはパートナーのニクラス・エアデマトカが立ちふさがっていた。
「……恋歌さんっ!!」
 そのニクラスと対峙していた琳 鳳明が恋歌に気付く。

『……邪魔です』

 だが、振り返った鳳明を襲ったのは恋歌――実際には恋歌に憑依したレンカ――の手から放出された青白い稲妻だった。

「きゃあああっ!!」
 不意を突かれた鳳明は恋歌の攻撃を防ぎきれない。その隙を縫ってアンが二クラスとの距離を縮めようとする。
 恋歌とアンの目的はひとつ、四葉 幸輝の殺害。その為には、氷の壁も、幸輝を説得しようとする人間も、邪魔なだけだった。

「――母様っ!!」

 だが、ニクラスに攻撃をしかけようとしたアンの前に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが割って入った。
「――っ!?」
 パーティ会場にアンが現れたことを察知したグロリアーナは、龍飛翔突のジャンプ力を利用して一気に屋上からの距離を詰めたのである。

「……邪魔しないでいただきたいですわ。
 恋歌さんに憑依したレンカさんから話は聞きました。己の欲望のために女子供の命を使い捨てにするなど、とても許せる所業ではありません。
 ……そう……まるで私の前の夫のよう……」

 アン・ブーリンは英霊である。過去生においてはイングランド王ヘンリー8世の妻であった。
 国王との間に第二王女となるエリザベスを出産するが、男児を待望していた国王の落胆のすえ、様々な嫌疑をかけられ斬首刑に処された人物である。
 その後もヘンリー8世は次々と妻を変え、様々な浮名を残している。
 亡霊に憑依されたアンの目には、己の欲望を満たすために次々と『恋歌』の命を利用している四葉 幸輝が、かつての自分の夫と重なって見えるのだろう。

「そうよ……私の後に娶られた女達もまた、かの王に人生を狂わされた犠牲者。
 なら、四葉 幸輝の能力の犠牲となり死んだレンカさんも、その命を利用された16人の『恋歌』さん達もまた犠牲者にすぎないのですわ……。
 だから、討つべきは四葉 幸輝一人のはず」
 アンは恋歌の亡霊に憑依されたことで過去の記憶にフィードバックを起こし、亡霊やレンカに感情移入してしまっていた。
 そんなアンに答えるように、恋歌に憑依したレンカは呟いた。
『……私は……彼を……四葉 幸輝を救いたいだけ。
 だけど、そのためにはあの能力が邪魔……幸運を操るちから……そしてこの娘、四葉 恋歌が邪魔なの』

 だが、アンと恋歌の前に立ちはだかったグロリアーナは、ゆっくりと手にした槍を構えた。
「……母様」
 グロリアーナもまた英霊である。
 当時はエリザベス1世を名乗っていた。父親は、ヘンリー8世。
 つまり、アン・ブーリンとは過去生において母と娘の間柄なのである。

「なるほど、次々に恋歌という少女を犠牲にしてきた幸輝が、父様……ヘンリー8世に重なってしまうのも致し方ないのかも知れませぬな。
 母様は心無い裏切りや女を弄ぶような男の不実を何よりも嫌悪していたのであった……」
 その娘であるグロリアーナが今、母であるアンに武器を向けている。

「……そうですわ。あんな男、私だってこの手で殺してやりたい……。
 でも、恋歌さんまで殺すことはないのです、レンカさん。殺すべきは四葉 幸輝ひとり。その為になら、私は惜しみなく協力しますわ……」
 そして母であるアンもまた、グロリアーナと対峙する姿勢をとった。
「だって……あの男を殺してやりたいと思う私ですら、自らの娘だけは、幸せであって欲しいと願ったのだから」

 恋歌に憑依したレンカは、アンの横に立ち、グロリアーナの向こうの氷の壁を見つめた。

『……彼を救いたい……彼をあの能力から解放したい……あの力から解放された彼は、ようやくヒトとして解放される……』

 虚ろな視線からは、もはや恋歌本人の意識は感じられない。
 グロリアーナは氷の壁の前に立ち、アンとレンカに向かって宣言した。


「だが母様が今、過去の亡霊に憑依され、利用されているのは紛れもない事実。そのような状態で母様に人殺しなどさせるわけにはいかぬ。
 なれば――妾は娘として、貴方の前に立ち塞がりましょう。母様がかつて愛し、そして憎んだ父王――ヘンリー8世の様に!!」