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リアクション
★ ★ ★
「誰か、料理の上手そうな人はと……」
いい女の子はいないかと周囲を物色していた戦部小次郎の目に、立川るるの姿が留まった。
「むっ、あの胸は……残念だな。それに、料理は下手そうだし……」
立川るるの胸を見て、おっぱい星人の戦部小次郎は視線を別の方向へとむけた。
「今、戦部さんは立川さんの胸を見たよね」
その行動を見逃さず、すかさず司会席のティア・ユースティが突っ込みを入れた。画面には、【戦部小次郎。おっぱい星人。貯金190万ゴルダ】とテロップが入った。
「見ましたねえ。おっぱい星人の習性としては、しかたないところでしょうか」
うんうんと、シャレード・ムーンもうなずく。
まさか、そんな話のネタにされていると気づかない戦部小次郎が、女の子を見比べながら会場内を移動していった。
壁の花と化して、ポツンとしているララ・サーズデイの姿が目に入るが、やはり、こちらも家庭的という雰囲気ではない。つきあってから、まして結婚してから、料理ができないというのでは、戦部小次郎としてはちょっと困るというところだ。そのため、おっぱいは当然としても、家庭的な人がいいと心に決めている。
「やっぱり、おっぱいと言ったら、ゴチメイかなあ……」
そうつぶやいてそばを通りすぎる戦部小次郎に、ベアトリーチェ・アイブリンガーがちょっと顔を顰める。あからさまにいやらしい男は、最初に対象外だ。
「いいじゃない。そこのおにいさ〜ん」
おっぱい星人もさることながら、所持金が200万ゴルダ近くあることに目を輝かせたミネッティ・パーウェイスが、くねくねと科を作って戦部小次郎に声をかけた。
「えっ?」
どう見ても、ブランド物を買ってくださいと顔に書いてあるミネッティ・パーウェイスを見て、戦部小次郎が本能的に防御行動をとった。だてに、財産管理して小金を持っているわけではない。一目で、財布から搾り取られると実感したようだ。
「あっ、逃げられた。もう!」
素早い反応に、ミネッティ・パーウェイスがちょっと悪態をついた。
振り返ると、今度は東朱鷺の姿が目に入る。
「ピッ。1000万超えですって!? ああ、これで性別が男だったら……。とても、女の子とのデートに湯水のようにお金を使うようには見えないよね」
もの凄く残念そうにミネッティ・パーウェイスがつぶやいた。
「おかしいわね。パンフレットのプロフィールには知的と書いてあるのに……」
一連の戦部小次郎の行動を見た御神楽舞花が首をかしげる。さすがに、おっぱい星人は知的とは言いがたい。
「あれでは、知的と言うよりは痴的ですね」
知的な会話のできる人を探していた東朱鷺も溜め息をつく。
他に知的な会話ができそうな人物はいないかと御神楽舞花と東朱鷺が周囲を見回したが、近くには御空天泣ぐらいしか見あたらない。とはいえ、天学生ではどうしても話題がメカの方に行ってしまいそうだ。
「お互い、まともな会話をしたいですね」
「ええ」
うなずき合う御神楽舞花と東朱鷺だったが、今ひとつ趣味は一致しなさそうだ。それでも、何か話題があるかなと思われたとき、突然高笑いをあげながらドクター・ハデスが割り込んできた。
「ハハハハハ、知的な会話だと。それこそは、知的な俺にこそふさわしい。何が聞きたい? 世界征服の方法か? それとも、合体改造人間の作り方か?」
思いっきり自慢げに言ったドクター・ハデスだったが、気がついたら周囲には誰の姿もなかった。
★ ★ ★
「エメネアさん、やっと見つけ……ぶふっ!」
エメネアを見つけたと思った坂下鹿次郎が、それが立川るるだと気づいて、飲みかけた紙コップの中の緑茶を盛大に噴きそうになった。思わず、激しく咳き込んでその場にうずくまる。
悪夢が甦る。
以前、意を決してエメネア・ゴアドーに告白したのだが、それは立川るるの変装であったのだ。さらに悪いことに、その現場をエメネア・ゴアドーに目撃されてしまった。完全に誤解されたに違いない。いや、絶対に誤解された。この誤解を解くためにも、今日はエメネア・ゴアドー一筋で臨んでいるのだが、混み合う会場内で肝心のエメネア・ゴアドーがまだ見つけられずにいたのだった。
会場を回りながら周囲を見回すと、巫女服姿のフレロビ・マイトナーの姿が目に入る。
「巫女さんでござるか、いいなあ……。いかん、いかんでござる。拙者は、エメネア殿一筋のはず……」
雑念を振り払おうと、坂下鹿次郎が軽く頭を振った。それが功を奏したのか、やっとエメネア・ゴアドーを発見する。
壁際を見ると、エメリヤン・ロッソーが一方を見てもじもじしていた。
「可愛いいなあ」
同じ方をリョージュ・ムテンも見つめてほんわかしている。
はたして、そちらの方向に、エメネア・ゴアドーがいた。
すでに、笹野朔夜(笹野桜)が一緒に会話をしている。あわてて、坂下鹿次郎はそちらへとむかった。
「……そうですか。それはいいバーゲンを見つけましたね。今度御一緒にどうでしょうか」
――ああっ、誘うなあ。二人だけでバーゲンに行くなんて、刺激が強すぎます!
頭の中で笹野朔夜の意識が叫ぶが、身体の主導権を握っている笹野桜はガン無視して、親しそうにエメネア・ゴアドーとの会話を続けていった。
男なら異性との会話にちょっとはにかむかもしれないが、笹野桜は同じ女性である。ガールズトークになっても、まったく平気だった。むしろドンと来い。
「笹野さんって、その、いろいろと詳しいんですねえ」
――うわあああ……。
「ああ、こんなとこにいらしたでござるか。お久しぶりでござる」
そこへ、坂下鹿次郎が割って入ってきた。
エメネア・ゴアドーとの間に入られるのは本来不本意だが、今は笹野桜の暴走を止めてほしいと、笹野朔夜は内心ありがたく思った。
「坂下さんですかあ。その後、立川さんとは仲良くしてますかあ」
開口一番、エメネア・ゴアドーが言った。
今度は、坂下鹿次郎が心の中で悲鳴をあげる番であった。
「ああ、二股ですか」
ライバルを蹴落とそうと、笹野朔夜(笹野桜)が容赦なく指摘した。
「おおっと、二股らしいですよ」
ティア・ユースティが司会席で観客全員に聞こえるように言う。
「らしいですね」
うんうんとシャレード・ムーンが相づちを打った。
「それは、誤解でござる」
あわてて、坂下鹿次郎が弁解する。本来、今日の目的はこの誤解を解くことなのだ。
「ああ、こんな所にいた。るるは、ここで正式にライバル宣言するわよ!」
そこへ、運の悪いことにエメネア・ゴアドーを見つけた立川るるがやってきて、ライバル宣言をした。もちろん、いろいろな意味でのライバルであって、坂下鹿次郎などは本来含まれてはいないのだが……。
「うわ、思いっきり三角関係の泥沼だよ。二股なんかかけるからあ」
ティア・ユースティが、一般人に悪い方悪い方へと刷り込みをしていく。
「まあ、でも、ここで精算するというのも一つの方法ですね。はたして、どうなるのか。ちょっと、話を聞いてみますか。日堂さん、ちょっとひったててきなさい」
「ガッテン承知」
シャレード・ムーンに言われて、日堂真宵が坂下鹿次郎を会場から引きずり出してきた。
「なんの用でござるか。拙者は今正念場でござる!」
当然のように邪魔された坂下鹿次郎が文句を言う。
「で、実際のところ、どうなん?」
雷霆リナリエッタがマイクをむけた。
「拙者は、エメネア殿一筋である。寝ているときも、エメネア殿バージョン1からバージョン4までの抱き枕を毎日取り替えてだいて寝てるほどでござる」
「変態だわ……」
観客席で、ユーリカ・アスゲージがドンびいた。
「いや、その抱き枕は、拙者にとってタリスマンのような物なのでござる。決して、やましい意味はない!」
坂下鹿次郎がそう抗弁した。
「そうなのでございますか?」
アルティア・シールアムが非不未予異無亡病近遠に訊ねた。
「まあ、そういうこともあるかもしれない……かなあ?」
非不未予異無亡病近遠が、やや答えに窮する。
「いずれにしても、立川るる殿は、無関係でござる。拙者は、エメネア殿だけなのでござる」
「じゃあ、これをあげるから、しっかりと渡してきてアピールしなさいよ」
雷霆リナリエッタが、薔薇の花束を坂下鹿次郎に渡した。
「分かり申した。見ていてくだされ」
息巻いて、坂下鹿次郎が会場に戻っていく。
「ところで、エメネアさんは、どうしてここに参加したのですか?」
「ええっと、このビルでいいバーゲンがあると聞いて、ちょうど長い列があったんでならんだら、合コンの受付待ちの列だったんですう」
笹野朔夜(笹野桜)に聞かれて、エメネア・ゴアドーが答えた。そこへ、坂下鹿次郎が舞い戻ってくる。
「エメネア殿。拙者からのプレゼントでござる。それから、このスクラップブックも……」
そう言って、坂下鹿次郎が、雷霆リナリエッタから押しつけられた薔薇の花束と一緒に、何やら大事そうに用意しておいたスクラップブックを手渡した。
「全パラミタの、バーゲンセールの年間予定と、チラシのコレクションでござる。エメネア殿のために、頑張って集めたでござる」
「まあ!」
もらった薔薇の花束をさっさと立川るるに手渡して、エメネア・ゴアドーがスクラップブックを凝視した。もはや、坂下鹿次郎の姿も、眼中にはないと言った様子だ。ただ、過去のバーゲンのチラシなどは、期限が過ぎていては本来なんの価値もないわけなのだが。
「ありがとう、この花束大事にするね。ドライフラワーにして、永久保存だよ。わーい、坂下さんからこれもらっちゃったあ〜!」
邪悪な微笑みを浮かべると、立川るるが坂下鹿次郎がエメネア・ゴアドーに渡した薔薇の花束を持って走り去って行ってしまった。
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