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太陽の天使たち、海辺の女神たち

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太陽の天使たち、海辺の女神たち
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●Only You - Epilogue

 夫婦宛に届けられた二枚の招待状。
 たまには、夫婦水入らずはどうでしょう……? そんな風に誘われているように感じた。
「じゃあせっかくなので、一晩だけ」
 子どもたちの世話を託児所に頼むと、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は久々の新婚気分を味わうことにしたのだった。
 暑い、本当に暑い一日だった。
 昼間から夕方にかけては、同様に招待された友人たちとバーベキューや花火を楽しんで、貴重な時間はまたたくまに過ぎた。
 そして夜。やはり暑い夜を、ふたりはすごしている。
 昼間が嘘のよう、空調を効かしているのではないかと思えるほどに冴え冴えと涼しい夜なのだが、朱里とアインの抱擁は、シーツの下を熱帯夜に変えていた。
 ともに、生まれたままの姿である。
 汗だくになってはいるが、それでも二人は離れず抱き合っていた。波を鎮めつつ、互いの呼吸を耳で聞く。
「久しぶりね……こんな夜は」
「ああ」
 睦言は、甘い。ある意味口づけ以上に。
 朱里は身を起こした。彼の表情に、かすかな翳りを見たから。
「アイン……もしかして、先日のソノダ女史との会合のこと、心配してくれているの?」
「どうして……?」
「最愛の人のことだもの」
 シャワー、浴びない? と朱里は彼に呼びかけた。
 シーツだけをまとってベッドに腰掛けた。月と星のほかに灯りはないが、闇になれた目は互いの表情まであきらかにする。
「会合の当日は言わなかったけど、たしかに私の耳にも聞こえていたの」
 朱里は静かに告げた。
「……取り巻きの女性が投げかけた『機械と交配するなんて』という心ない言葉が」
 そうか、とアインは呟いた。
「朱里が聞いていなければいいが、と懸念していた。ああいった偏見が、主たる意見だとは思わない。けれど僕は……」
「大丈夫。気にしてないから」
 朱里は、アインの言葉をさえぎる。
「いつも私や子供たちのことを大切にしてくれるあなたと、そのあなたや娘のユノをまるで実験動物かなにかのようにしか見れない人の、どちらの言葉がより信じるに値するか、答えはもう分かっているでしょう?」
 彼女の目には微笑があった。
「でもね、昔の私だったら、きっとこんな風には思えなかった。
 周囲にいじめられても逆らえなくて、うつむいて泣くことしかできなかった……あなたと契約する以前の私だったら。
 あなたがいたから、私は今日まで生きてこれたの。
 そして、きっとこれからも」
 アインの胸にこみあげるものがあった。
 その表現の仕方がわからなくて、彼は彼女を抱きしめた。さらに口づける。
「その言葉は、そのまま僕にもあてはまる。
 ……君がいたから、僕はここまでこれたんだ」
 大きく息を吸って、吐き出す。
「機晶姫でありながら僕に生殖能力があるのは、万が一の時に人類の種を絶やさぬようという意図があるからなんだろうね。
 だけど『過ち』を犯さぬよう、必要になる時まで厳重なプロテクトがかけられ、自分にそんな機能があることを知らずに生きてきた。
 その封印を解いてくれたのは――」
 アインは彼女の瞳を見つめた。
「暖かな愛情と獣じみた欲望……この相反する心の矛盾に一つの答えを導いてくれたのは、君だ」
 朱里は彼の体に手を伸ばした。人間そっくりの皮膚も、人間にはない固い装甲部分も、同じように慈しみをもって愛撫する。最初は指で、
「今日まで私や人々を護って、何度も戦って傷ついてきたこの鋼の身体を、あなたはもっと誇っていい」
 いつしか、唇で。
 たしかめるように、ひとつひとつなぞっていく。触れていく。
 頬に、唇に、首筋に、
 蒼い機晶石の輝く胸に、更にその先に。
「あなたを形作る、そのすべててが愛おしい」
 普段は穏やかなアインが、ますらおのように一声、荒々しく吼えた。
「――朱里!」
 こらえきれなくなったのか、雄の本能で雌を寝床に押さえつける。
 でも猛々しいのは一瞬、
「愛している。君が、愛おしい」
 小鳥をつつむようにして、朱里に愛を、与える。
 これからも、二人で幸せになろう。
 いつまでも、幸せでいよう。
 感謝しよう。
 かけがえのないあなたに、出逢えたことを。
 地球とパラミタの間に、一度きり起こったそのその奇蹟を。


 
 ――『太陽の天使たち、海辺の女神たち』 了

 

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 ご参加ありがとうございました。マスターの桂木京介です。
 今回はちょっと、書きすぎてしまったかもしれません、オーバーヒート気味で現在、ちょっとばかりへばっております。
 それだけ充実したアクションが集まったということであり、嬉しい気持ちもあるのですが。

 のんびりアクションが主かと思いきや、バリエーション豊かになったことを面白く思いました。
 思わず笑ってしまったもの、じんと胸にこたえたものもあります。鬼気迫るものも……。
 どこまで私が再現できていたかはわかりませんが、一生懸命書きました。私が受けた感銘や驚きなどが、少しでも届いていたとしたら、こんなに光栄なことはありません。

 いつも書いていることですが、マスターの原動力というのは、かなりの部分、皆さんのご感想に左右されるものがあります。アクションの余白に、ご感想いただけて嬉しいです。掲示板の感想も嬉しいです。いすれもお待ちしております。
 それでは、またお会いできるそのときまで。


―履歴―
 2013年8月3日:初稿