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第2章 女性2人で……?

 空京の繁華街にある有名な高級洋菓子店。の側。
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、割引券を手にどうしようかなーと迷っていた。
 パートナーの新風 颯馬(にいかぜ・そうま)に誘われて、訪れたのだけれど。
 そのパートナーが二日酔いでダウンして来れなくなったのだ。
 せっかく気合入れて、というか遊び心で着飾って来たのに……。
「あら、有名人1人はっけーん」
 道を歩く大人びた少女を発見した燕馬は、とりあえずその子……雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に突撃することにした。
「雅羅・サンダース三世さんですよね。お一人ですか? 空京へは買い物に?」
 燕馬は蒼空学園の生徒手帳をちらっと見せて希新 閻魔(きあら・えんま)と名乗り、雅羅に近づいた。
「あ、はい。買い物に来たんだけれど……今日はその店、臨時休業でした」
 せっかくだからと一人でウィンドウショッピングを楽しんでいたとのことだ。
「でしたら、少し付き合っていただけませんか?」
「え?」
 燕馬は高級洋菓子店を指差す。
「実はこの店の割引券を持ってるんですけど、二人ペアでないと使えないのに、私の連れがドタキャンしちゃって……よろしければ、私と一緒に入ってくれませんか?」
「そうですか……。でもちょっと今日は持ち合せがなくて」
「もちろん私が奢りますよ」
「でもそれじゃ、割引券の意味がなくなってしまうわ」
「ポイント還元もあるので、任せてください」
 1人じゃ寂しいので、お願いします! と、燕馬は笑顔で頼み込み、雅羅に了承してもらったのだった。

 入口には美しい生花が飾られており、床に敷かれた赤い絨毯は柔らかく。
 天井のシャンデリアは豪華で、綺麗に優しく店内を照らしていた。
「私は苺ショートと、珈琲をブレンドで。……貴女は何にします?」
「ええっと、決めるの早いですね。苺ショートですか……」
 ろくにメニューを見ずに選んだ燕馬に、ちょっと驚きながら雅羅は慌てて選ぼうとする。
「どこでも食べられそうなもの、ですけれど、どこでも買えるような食べ慣れた物だからこそ、本当に美味しい物に出会えた時の感動が大きいと思いません?」
「ふふ、店員さんが緊張してるわ。でも、私も定番のチョコレートケーキと、ミルクティーで」
「畏まりました。」
 ウエイターは注文を繰り返すと、軽く微笑しつつ、厨房に向かって行った。
「今日来る予定だった連れ、実は男の人なんです。……ちなみに雅羅さんは、お付き合いしてる男性とかいたりします?」
 燕馬は『ヒミツの補正下着』と『フェイクバスト』を用い、女装をしている。
 元々颯馬と2人で訪れる予定だったので、年の差カップルを演じたら面白いかなという、出来心からだ。
「付き合ってる人は……いないわ」
 雅羅の目が少し泳いだ。
 燕馬はふふふっと笑みを浮かべて、自らの手を組んで首を傾げて雅羅に問いかける。
「もしかして、気になっている人いるのかな? お姉さんにこっそり教えてくれると嬉しいかなー、なんちゃって」
「気になっている人はいるけど、わ、私体質が……あれだし。学校も……うっ、何でもないです。あ! 店員さん、そのケーキこっちです!」
 真っ直ぐこちらに向かっていた店員を雅羅は手を振って呼ぶ。
(赤くなってる……。かわいー!)
 燕馬は、雅羅が照れながらもすまし顔でケーキを食べようとする姿を、微笑みながら見ていた。
「凄く美味しいわ、このチョコレートケーキ。チョコレートの味がとっても濃くて、スポンジは柔らかで……」
 ケーキを食べた雅羅の顔はより上気した。
 燕馬が選んだ苺のショートケーキも、勿論とっても美味しかった。

 食事後、会計にて。
「タルトの詰め合わせを1つ、テイクアウトで」
 燕馬はパートナー達へのお土産として、12個入りのタルトの詰め合わせを買って帰ることにした。
 タルトだけではなく、今日の偶然の出会いについてもお土産話として持ち帰るつもりだった。
「雅羅さんも何か頼みますか? もちろんこれも奢りますよー♪」
「いえ、悪いですから……。でも美味しそうだから、私も自分とパートナーの分、買って帰ります」
 雅羅も2つ、同じタルトを購入した。

 外に出ると、随分と涼しくなっていた。
「今日は不躾なお願いを聞いてくれてありがとう。おかげでとても楽しい時間を過ごせました」
「こちらこそ。ご馳走様でした。お会い出来て嬉しかったわ、閻魔さん」
「それでは――縁があったら、また」
「ええ」
 笑顔で手を振って、2人は別れた。
 雅羅は燕馬の実性別について、全く気付いていないようだった。