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空の夏休み

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空の夏休み

リアクション


【11】


「悪い遅くなった!」
 日が暮れた頃、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が買い出しから戻ってきた。
 真司は天学の公式水着に黒いパーカーを羽織っている。
「私たちをほったらかしにしてぇ、どこに行ってたんですかぁ……?」
「うえ? ヴェルリア!?」
 身体を密着させた上に、甘えた声で上目遣いに見てくる彼女に、真司もどきっとした。
「遅いのよらぁ! いつまで待たせんのよらぁ!!」
 今度はフレリアが据わった目で絡んできた。
「フ、フレリア!? てか、酒くさっ!」
 真司は砂浜に転がった酒瓶の山にはっとした。
「リーラ!」
「なによぉ〜?」
 面倒くさそうに答えたリーラは、焼きアワビをつまみに一杯やっている。
「お前の仕業だろ、これ!」
「知らないわよぉ〜。勝手に酔っぱらってるのよぉ〜」
「んなわけあるか!」
 するとヴェルリアは、真司の頭をよしよしと撫でた。
「おこらないでくださぁい。一緒にのみましょうよぉ」
 そしてフレリアは乱暴に真司の肩に手を回す。
「そうなのら! のむのよら! しんじ! 肉焼け、肉ぅ!!」
「ど、どうすんのよ、これ……」

……蟻?
 BBQの準備をしていた天音は、バスケットを一生懸命開けようとしている拳大の巨大蟻を見つけた。
「何だそれは? 蟻か、アリえない大きさだろう」
 その巨大さに、ブルーズもおののく。
 天敵の少ない島では、大陸よりも小型の生き物が大きくなる傾向があるというが、それにしてもデカ過ぎる!
「さっきJJに挨拶した時、蟻がどうとか言ってたね。この島の蟻なのかな?」
「ようやくお目にかかれました」
「あ、JJ」
 JJは少年のように目を輝かせて、蟻を見つめていた。
 日が暮れて、皆アワビ家の前に集まって、BBQの準備をしているのだ。
「この蟻、いただいても……?」
「ああ、もちろん。研究が進むといいね……」
 と天音が言ったその途端、JJは蟻を食べた。
「!?」
「はひがとうございます」
 お礼を言うと、満面の笑みで去って行った。
「ああ、“いただく”ってそういう……」
「あいつもまともに見えて時々恐ろしいな……」
 そこに、大漁のニジアジとフウセンウニを抱えた刀真が戻ってきた。
「約束通り、今夜はご馳走だぞ、黒崎、ブルーズ」
「これはすごいね」
「ほほう。美味そうだな、調理し甲斐がありそうだ」
 ブルーズはBBQコンロに、ニジアジと魚と相性バツグンのラビットマツタケを並べ、一緒に焼く。
 ウニは素材の味を活かすため、ふっくらご飯の上に山盛りのフウセンウニ丼に。
「……美味いっ!」
 刀真はどんぶりにガッついて叫んだ。
 濃厚なウニの甘みと塩気が絶妙だ。
「ニジアジも脂がのっててとても美味しいね。まぁ……こっちも美味しそうだけど」
 天音は、雲の水気にしっとりと張り付き、尻の形がはっきり出た刀真の赤褌を凝視した。
樹月の空着、随分セクシーだよね
「そ、そう……?」
 獲物を見つけたライオンのように光る天音の目に、刀真はいい知れぬ恐怖を感じた。
 危険なモンスターに遭遇した時に、ここにいたら殺られる……そんな風に感じるあの感覚に似ていた。
 まぁ“ヤられる”という意味では相通ずる。
「そういえば、以前天音の見舞いに貰ったプリンだが……我も少し相伴に預かってな。あれは美味かった」
 ブルーズはそう言って、冷やしておいた手作りプリンを持ってきた。
「あ……ああ、あれか」
「我が作ったプリンに、アドバイスをくれないだろうか?」
「へぇどれどれ……」

「それでは、戦いの勝利と雲島の自然に乾杯!」
 コウテイマグロと激闘を繰り広げた面々は、戦利品を囲んで祝杯を上げた。
「肉ばかりではなく野菜も食べるんだぞ」
 ガウルは、BBQコンロで肉と野菜、そして焼きそばを焼いていく。
 それから巽の獲ったニジアジは塩をふって網焼きに。
 リンダは新鮮なウニの殻を取って、テーブルの上に並べた。
「ウニもあるから好きなだけ食ってくれ」
「うわああ、たくさんある……!」
 萌黄はため息をもらした。
「マグロはどうする?」
 奈津が言うとは、
「ただ丸焼きにするのももったいないから色々料理してみるか」
 と奇麗に解体して、焼いたり刺身にしたり、頭とあらは味噌汁にした。
「あぁ……美味しいですね」
「海の、いえ、空の香りがします」
 真言隆寛は味噌汁に幸せな顔を見せた。
「どうだ、一杯やらないか?」
 レンバロンに声をかけた。
「ほう、日本酒か?」
「空京は地球との便が良いから美味い酒も手に入る。これは炭酸が入っている酒でな。開けた際に溢れないよう注意が必要だ」
「珍しい酒だな」
「ああ。だが味は保証する。楽しもう」

「出来たーーっ!!」
 美羽が鍋のふたを開けると、雲島の雲のように真っ白な湯気が溢れ出した。
 舞花の釣ったアオゾラウオとカミナリカサゴの入った鍋はとても美味しそうだ。
 ちなみに、イルカは入っていない。
 美羽がケンカしている間にコハクが逃がした。
「夏に鍋と言うのも悪くありませんね」
 舞花は雲の幸に舌鼓を打ちニッコリ。
「あ、そうだ。コウテイマグロのお刺身もあるから食べてねっ」
 ノーンはそう言って、レン達と分けた刺身を並べた。
「どうしたのこれ?」
「へっへーっ、ワタシの獲物だよっ!」
 美羽が尋ねると、ノーンはえっへんと胸を張った。
「コウテイマグロ……。初めて食べたけど、はぁ……トロけるような美味しさだね……」
 一口食べたコハクは、口の中に広がる気品に満ちた旨味に打ち震えた。
「ゴリラくん、美味しい?」
 美羽はちょこんとJJの膝の上に座った。
「ええ、とっても」
「良かったぁ!」
 そして、その横ではアゲハアエロファン子が、缶ビールで乾杯していた。
「男なんてロクなもんじゃないわね、アゲハちゃん……」
「ちょっとぉ泣くなよ、男ぐらいでー。まぁあたしだって今日はイイ男見つかんなくて、全然だったんだから」
「あれ? でも噂になってたわよ?」
「へ? なんて?」
「アゲハちゃんが、鎧みたいなガタイのフツウじゃなさそうな男と薔薇学の金持ちのイケメンと二股かけてるって」
「え?」
「しかもイケメンのほうはワルでムショ送りになったって聞いたけど……」
「ああ……」
 変熊は救出されたあと、全裸だったため警察官に連れて行かれた。
 今頃、空京の警察署で事情聴取をされていることだろう。
「まぁなんか違うけど、その感じの噂なら後輩にナメられずに済みそうね」

「無事、終わったねー……」
 歌菜羽純の空の家ももう店じまいだ。
 2人は雲のテーブルにワインとグラスを置き、浜辺の灯りに照らされ、色とりどりに染まる雲の海を眺めた。
 昼間の喧噪が嘘のように静まり、夜の浜辺は幻想的な空気に包まれている。
「色々大変だったが、充実した時間だったな」
「本当?」
「ああ、本当だ。楽しかったよ。歌菜を見てると飽きなかったし」
「ちょっと、どういう意味?」
 ほっぺを膨らませる歌菜に、
「そういうところが飽きないよ」
 と羽純は微笑んだ。
「ただ、店は楽しかったけど、あんまり2人になる時間がなかったな」
「おかげ様で大繁盛だったもんね」
「今度は2人で遊びに来ようか」
 羽純はグラスにワインを注ぐ。
 天空の夜景を眺めながら、静かにそして、ロマンチックに乾杯した。
「じゃあまた来年」

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございます。

雲島での夏休み、皆さん如何でしたでしょうか。
今回は割りと自由なシナリオでしたので、アクションはほぼ全て採用させて頂きました。
リアクションを書いた手応えとしては、楽しい夏の思い出が作れたんじゃないかな、と思います。

予断ですが、梅村はこの夏は海にもプールにも行かず、レジャー感のあること皆無でした。。。
来年はもっとレジャー感のあることを! と思いつつ、秋の訪れを楽しもうと思います。

次回シナリオガイドの公開日は決まり次第マスターページで告知する予定です。
また別のシナリオでお会いしましょう。