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リアクション
第12章
「マスター明けまして御目出度う御座います!」
2024年になってから初めて顔を合わせたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、お正月用の振袖を着てベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の前に現れた。彼女は普段から和装が多いし、いつもとそう変わらぬ挨拶風景の筈なのだが。
(か、かわいいじゃねぇか……!)
普段よりも気合の入ってるっぽいフレンディスの艶姿に、ベルクは衝撃を受けてつい見入った。露出が多くなくても、彼にとっては充分に鼻血ものだ。文句なしに可愛らしい。
「おお、明けましておめでとう」
「お参りと御神籤が待っております故、早速初詣に参りましょう。私、その後は露店で色々食べたいです!」
ベルクの内心を知ってか知らずか、フレンディスは天真爛漫な笑顔で言う。
「よし、んじゃあ行くかー」
異論があるわけもなく、ベルクは一も二もなく立ち上がった。
「パラミタに来て、そしてマスターと3回目の初詣なのです!」
人で賑わう神社の中を、フレンディスとベルクは連れ立って歩く。自分から誘っただけあって今日は何を警戒するでもなく、元気いっぱいに耳と尻尾をピンと立てて彼女は楽しそうだ。そして、ベルクもまたのんびりとした気分で境内の雰囲気を楽しんでいた。土産物屋で縁起物を買う人々や、甘酒を楽しむ人々を見ていると新年を迎えたのだという実感が湧いてくる。
「前回の初詣からもう1年経過したのか。月日が経つのは意外とあっという間だな」
気付いたら、フレンディスと出会ってもう3回目の新年だ。だが、恋人である彼女とは未だキス止まりでそれ以上先に進んでいない。いやもう、ベルクとしては準備万端、いつでも先に進めるのだが――
「ふゃっ!?」
そんな事を考えていたら、隣から変な声が聞こえた。下駄履きのフレンディスが躓いて、このままでは地面に激突必至である。和装には慣れているのに、戦闘以外だと彼女は何故か何もない所でこけっ、とよく転ぶ。実に不思議な天然ぽやぽやアホの子ドジッ娘忍者である。
「あ、ありがとうございます、マスター」
咄嗟に腕を出してフォローすると、フレンディスはほっとした顔でほわんとした笑顔を浮かべる。腕の中で、至近距離からのその表情に、ベルクはついどきりとする。帯を支えている手をもう少し上にずらしたくなる誘惑に駆られるが、そこでフレンディスは慌てたようにわたわたとして歩き出す。
「…………」
「マスター、マスター、こっちですよー!」
まだ立ち止まっているベルクを手招きする。そちらに向けて歩きながら、彼は内心で溜め息を吐いた。
(我ながらよくここまで1人我慢大会出来てるよなー)
何となく感じる胃痛にしみじみと思う。1年以上前に手を出す承諾も得ているし2人きりの宿泊デートも何度かしている筈なのに、いざ手を出そうと思っても中々チャンスが巡ってこない。
「お賽銭を入れて、鈴を鳴らしてー」
順番がまわってきて賽銭箱の前に立ち、フレンディスは楽しそうに尻尾を振りながら手を合わせる。落ち着いた尻尾がふ、と垂れ、彼女は今年1年良いことがありますようにと祈る。
――今年もマスターとご一緒にパラミタで新年を迎える事が出来て大変嬉しく思います。願わくば、これからも……
これからも、こうして過ごしていきたく――
『マスターと一緒に居たい』。それが、フレンディスの初詣の願いだった。以前、『どこに居たい?』とベルクに問われて答えた、彼女の本心でもある。
そうは思っていても“それは叶わぬ願いかも”という不安と恐怖が心の何処かで拭いきれていなくて、半ば無意識にそう願ってしまうのかもしれない。
一方、目を閉じて、真っ直ぐな気持ちで彼女が祈っている隣でベルクは『フレンディスと結婚できますように』と願っていた。
今年は、彼女が結婚するのに親の同意が必要なくなる年齢になる。多少無理矢理にでも、結婚にこじつけたい。
――でも、その前に既成事実を作っておきたいです。
――ていうか、ぶっちゃけ今すぐにでも手を出せれば出してしまいたいです。
……等々。
「……マスター?」
どこかきょんっとしたフレンディスの声が聞こえるまで、ベルクは残念な男心をあれやこれやと祈り続けていた。残念だが、切実でもある。
(……長いお祈りですね。何をお願いしているのでしょう?)
だが、それは邪さとは無縁なフレンディスには想像もできない事だった。
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