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リアクション
13
遠野 歌菜(とおの・かな)の誕生日と月崎 羽純(つきざき・はすみ)の誕生日は同じ日で、十二月二十三日である。
なので毎年クリスマスになると、ふたりは誕生日とクリスマスを祝い、一緒に過ごしていた。
今年もそうだ。ただ、ひとつ違うことがある。
去年も一昨年も、クリスマスのプランは歌菜が考えていた。けれど今年は羽純が考えてくれるという。
羽純がそういったことをしてくれるのはたぶんきっと初めてで、歌菜は当日までをそわそわとした気持ちで過ごした。
羽純くんは何をしてくれるんだろう。何があるんだろう。
期待のまなざしで羽純を見ると、羽純は「当日まで秘密」と優しく笑って歌菜の頭を撫でた。
「はーい。楽しみにしてまーす」
「プレッシャーだな」
そして、迎えた当日。
着ていく服は、念入りに選んだ。メイクも、普段と違って少し大人っぽいものを意識してある。髪もきちんとセットした。
鏡に映った自分が、きちんと『綺麗なお姉さん』になれていることを確認してから、歌菜はプレゼントの確認をした。
小さな箱に入ったそれは、ストラップのカラーや素材、ムービングモチーフの種類や数で選んでカスタマイズしてもらった、世界にひとつだけの時計だ。
喜んでもらえるだろうか。喜んでもらえたら、嬉しい。喜んで、笑いかけてもらえたら、とても。
ふっと時計を見ると、待ち合わせの時間が迫っていた。改めて鏡で自分の格好を確認し、鞄を持って外へ出る。
夕暮れの街を、歌菜は足取り軽く歩き出した。
羽純がクリスマスディナーにと選んだ場所は、和食レストランだった。
「素敵なところだね」
掘りごたつで暖まりながら、歌菜は庭園の方を見てうっとりと呟いている。羽純も、歌菜の視線の先に目をやった。雪の積もった坪庭が見える。下見に来た時に、一発で気に入った景色だ。歌菜はこういう景色が好きだと思って。実際に、喜んでもらえているようで満足だ。ほんのり頬が上気しているのが、妙に色っぽい。
「個室だしゆったりできるね」
「その方がいいよな」
「うん。ふたりきりで、嬉しい。……メリークリスマス、羽純くん」
「メリークリスマス」
言葉を交わしてから日本酒で乾杯をし、料理を食む。
温かい鍋、刺身、寿司。
用意された料理はどれも絶品で、ふたりは舌鼓を打った。
「美味しい〜!」
「ああ。美味い」
「幸せだよ〜。私、和食大好き」
「知ってる」
だからここを選んだのだ。歌菜が、気に入ると思って。
料理をすべて平らげると、女将が食後のデザートを持って入ってきた。
「あっ……」
それを見て、歌菜が驚いた声を漏らす。どうやら、サプライズ成功のようだ。
「『Sweet Illusion』のケーキ? どうして?」
テーブルに置かれた、『Sweet Illusion』のクリスマスケーキを見て目を丸くしている。その反応が可愛くて、羽純は小さく笑った。
「なんで笑うの」
「驚いてる様が、な」
「うー……恥ずかしい。でも、驚くよね? まさか出てくると思わなかったもん」
「それが狙いだしな」
驚かせたくて、両方の店に掛け合って頼んだのだ。大成功だ。羽純が満足してもう一度笑うと、歌菜も笑った。
「やられたーって感じはあるけど……嬉しいな」
「そうか。良かった」
「えへへ。ケーキ、食べよう?」
『Sweet Illusion』のケーキはやはりクオリティが高かった。味わいながらもあっという間に平らげたふたりは、食後のコーヒーを飲みながら一息つく。
「美味しかった〜……幸せ」
と呟く歌菜を見て、喜んでもらえて良かった、と心の中で思う。お互い和食が好きだから、とこの店を選んだが、当初、戸惑わないかどうか心配だったのだ。
ふっと会話が切れた瞬間を狙って、羽純は歌菜の隣に座った。歌菜は、アルコールが入ったせいか潤んだ目をしていた。
「歌菜」
「……うん?」
「メリークリスマス」
言って、包みを渡す。歌菜は数拍の間黙り、それからはっとした顔で包みを見た。
「さ……」
「さ?」
「先、越されちゃった……」
それから、おずおずとした様子で鞄の中から包みを取り出した。
「私も、羽純くんに……メリークリスマス」
「ありがとう。開けてもいいか?」
「うん。私も、開けていい?」
「もちろん」
同時にふたりが包みを開く。すると、中から出てきたのは。
「あ」
という呟きも、同時だった。顔を見合わせる。
「羽純くんも……時計?」
言葉に、羽純は顎を引く。羽純から歌菜への贈り物は、時計だった。
「同じ時を過ごそうという願いを込めて。……言葉にすると恥ずかしいな」
勢いで言ってみたものの、なんだか照れる。ふいとそっぽを向くと、抱きしめられた。
「……歌菜?」
「嬉しい。……私たち、同じこと考えてたんだ……」
どうやら歌菜も、同じ想いで時計を選んだらしい。それはそれで、気恥ずかしい。が、それ以上に愛おしさが勝った。歌菜を抱きしめ、頬にキスをする。
「歌菜、手、貸してみろ」
「ふぇ」
「時計、つけてやる」
細い手首を取って、時計をつける。見立て通り、よく似合った。
「私も、つけてあげる」
同じように、歌菜が羽純の手を取って時計をつけた。初めてつけたというのに、なんだかすごく手に馴染む。デザインも色の選びもとてもいい。
「これ、選ぶのにすごく時間かかったろ」
「うん。でも、楽しかったよ。羽純くんはどんなのが好きかな、どんなのが似合うかな、って……羽純くんのこと考えてると、なんだか幸せだし」
「歌菜」
「……えへへ。なんだか恥ずかしいね」
歌菜が、はにかんで笑う。それから羽純の肩に寄りかかって、目を閉じた。
「また来年も、その先もずっと。こうしてプレゼント交換していこうね」
約束だよ。
囁くような小さな声に、ああ、と頷いた。
いつまでもこうしていられることを、ただ願いながら。
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