リアクション
○ ○ ○ 東シャンバラのロイヤルガード宿舎、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の部屋にて。 「うーん」 「むー」 ソファーに座り、優子は肘をテーブルについて、手を組んで。 ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は深く腰掛け、腕を組んで考え込んでいる。 「ええーと、何かマズイところがあったら、伏せて提出してもらえば」 考え込む2人と一緒に、ちょこんと座っているのはリン・リーファ(りん・りーふぁ)だ。 「いや……」 「うー……」 リンが作成した報告書を前に、優子とゼスタは先ほどからずっと考え込んでいる。 ダークレッドホールの事件にて。 リンはゼスタを追ってダークレッドホールに飛び込んでいた。 その時、百合園生の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)に助けてもらったこと。 そして、ゼスタと合流してから、地上に戻ってくるまでのことを書き記して持ってきていた。 「知ってもらいたいことも、知っておいた方がいいこともあると思うからね」 「しかしな……というか、聞いていないことも書かれてるんだが」 優子がじろりとゼスタを睨んだ。 「話す必要もないことは話してない」 ぷいっとゼスタは顔をそむけた。 (ぜすたん、地上に戻った時、カッコ悪いって嘆いてたもんね。総長さんに知られたくないこともあったのかな?) ゼスタがちょっと照れているようにも見えて、リンはにこにこ笑みを浮かべながら彼を見ていた。 「学生には、踏み込まれなくない部分もあるからな」 リンが作成した資料の中には、首謀者の一人であったと思われる女性についても書かれていた。 この辺りのことは、白百合団には知らせてないことのようだ。 「といっても、関わった人は知ってるんだよね」 「そうだな」 深くため息をついた後、優子はリンが作ってくれた報告書をそのまま、白百合団の役員に渡すと約束してくれた。 話しを終えると直ぐに、リンはゼスタと共に優子の部屋を出て、宿舎近くの喫茶店でお茶にすることにした。 「ぜすたんはなんで迷ってたの? 白百合団に知られたくないことあった?」 「……みっともないじゃないか。スマートに解決できてねぇし」 「そっか」 ふふふっと笑いながら、リンは注文したチョコレートケーキを食べる。 彼も同じものを頼み、美味しそうに食べていた。 「なんかもう全部夢だった気さえするね」 「忘れてもいいぞ」 リンを見ずに、ゼスタは紅茶に砂糖を入れてかき混ぜる。 「ちゃんと憶えてるけどね」 「でもまあ、余計なことは書いてなかったと思うぜ」 「うん、ぜすたんとふたりきりの時にあったことは、元からふたりの秘密だよ」 そう笑うと、ゼスタも軽く笑みを見せて。 「それじゃ、これからまた神楽崎には報告できないようなこと、しようぜ?」 「ぜすたんこれから、総長さん達とお出かけするんでしょ」 だからそれは、帰ってからね。 そうリンが微笑むと、彼は屈託のない笑みを浮かべて頷いた。 ○ ○ ○ 異空間へのテレポートが行われる日。 「いえーい、みるみちゃんすきだけっこんしよー」 むぎゅっとミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)を抱きしめたのは、勿論牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)である。 「アルちゃん……」 しかしミルミの反応はいつもとは違った。 ぐいっと手をつっぱねて、アルコリアをんんっと睨む。 「それはミルミには言っちゃいけないんだよ! 冗談でも言っちゃだめなんだよっ!」 「え? ああ、うん、良いトコのお嬢様と、私みたいなあやし……普通の家系の人じゃね〜」 「そうじゃなくて、アルちゃんには恋人いるでしょ。そいういうのは恋人にしかいっちゃいけないんだよ。ミルミが本気にしたらどーするのっ」 ミルミは頬を膨らませて、怒っていた。 「あー、ごめん、ごめん、ごめんねミルミちゃん。もう言いませんよー。なでなでなでなで」 アルコリアが優しく優しくミルミを撫でると、ミルミの顔の膨れが取れて、笑顔が戻ってきた。 「さて、今日はどこいこっか? ケーキ食べる? それともパフェが美味しい店がいいかな?」 「んーと、アルちゃん行かなくていいの?」 「え?」 ミルミに問われて、アルコリアは軽く目を逸らした。 「んー……異世界の探索手伝うのが、筋なのかもしれないのだけど……時間の流れが違うとかちょっと誤算だったかなぁというか。割と出にくい場所だったので」 「うん」 「ええと、ほら当時、ミルミちゃんも忙しいのかと思ってね? 厳しそうだし、なんか私行けって雰囲気が自分の中であったというか……えと」 「うん」 ミルミはじっとアルコリアを見ている。 アルコリアは目を泳がせ、自分の髪の毛をくるくる指に巻く。 「可能な時間はなるべく一緒にいようかなと、そういう事です。つおい子だから、調査に行くって言っても平気なんでしょうけど」 「ミルミなら平気だよ! ……アルちゃんが行くのなら一緒に行こうかなって思ってた。火がぼうぼうだった時には近づけなかったけどね」 そんなミルミの言葉に、アルコリアはちょっと戸惑って。 こほんと咳払いをすると。 「つ・ま・り いつも通りだ。たべちゃうぞー、がおー」 照れ隠しのように言って、ミルミを強く引き寄せて、その柔らかな頬に頬を当て、唇を当てる。 「アルちゃんはー、もぉ〜」 ミルミはいつものように、笑みを浮かべて笑い声を上げる。 「あ、そういえばー。ぜすたさんが、なんかすごい本どっかに隠したとか、そういう話って知ってる?」 「ん? 本。……えっちなの?」 「いやそういう凄いのじゃなくてね。……ま、いっか。ぜすたさんおマゾっぽいし、お嬢様にいぢめられるなら喜んじゃうだろうし」 ミルミ経由で知った鈴子達が、ゼスタを拷問して吐かせる姿をアルコリアは妄想する。 「ん? お嬢様にいぢめられるのって嬉しいの? アルちゃんも?」 「え? 私? ミルミちゃんならいぢめるのもいぢめられるのもおっけだよぅっ」 ぎゅーっとアルコリアはミルミを抱きしめる。 「むしろ、私がミルミちゃんにいぢめられてるとか、斬新? ほらいぢめていいのよ? できない、できないならくすぐちゃうぞー うりゃー」 「あははははっ、きゃはははは。アルちゃんくすぐったい、あはははは、あははは、仕返しー、あははははっ」 ミルミがアルコリアの脇腹をくすぐり、アルコリアも笑い声を上げる。 とっても楽しそうにくすぐりあう2人の姿を、通りかかった男性達もまた、楽しそうに見ていた。 |
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