校長室
【2024VDWD】甘い幸福
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35.二人だけの、時間を 空京の街。 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)と アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、 今日は、コスプレアイドル<シニフィアン・メイデン>としてではなく。 プライベートのデートを満喫するために、 変装を行っていた。 さゆみは、ツインテールの髪を下ろしてストレートのロングにし、 服装も少し大人しめの清楚なものにしている。 また、細かな部分をいろいろと手を入れ、どこにでもいる普通の女の子の姿になっていた。 一方、アデリーヌは、 さゆみにロングウェーブのウィッグを借り、 普段の落ち着いた容姿とはがらりと変わったカジュアルな印象の服を着ていた。 そのため、いつもよりも緊張感が増している。 「服って、なんだか、気持ちまで変えてしまう魔法みたいよね?」 「ええ、なんだか、いつもよりも、開放的な気分になった気がしますわ」 さゆみとアデリーヌは、 いつ、誰に見つかるかわからないドキドキ感を楽しみながら、空京の街を歩いた。 二人は、お菓子作り体験をやっているお菓子屋に入って、 そこで、クッキーとチョコムースを作ることにする。 「なんだか、食べるのがもったいないくらいね」 さゆみが、クッキーを犬や猫やアニメキャラの形など、かわいい形に成型しながら言う。 「そうですわね。でも、やはり、できあがりが楽しみですわ」 アデリーヌは、丁寧にチョコムースを作りながら言った。 完成したお菓子をそれぞれ、分け合って食べながら、二人は笑い合った。 食べさせあって、ふざけあって、また、笑って。 そう、一瞬の出来事だけれど、これは、永遠の思い出になるに違いない。 二人は、一緒に過ごせる時間が有限であることを知っている。 まるで、今の楽しさは、そのことを暗示するようだと、 口には出さなかったけれど、二人とも思っていた。 吸血鬼のアデリーヌと、地球人であるさゆみ。 不死の存在と、寿命のある存在。 その二人が愛し合った時、いつか、永遠の別れが訪れる。 それでも、二人の時間を一秒でも大切にするために。 二人は笑い合った。 ■ 空京の雑踏の中。 「ねえ。大好きよ」 「急にどうされたんですか?」 「ふふ。言いたくなったから言ってみただけ」 アデリーヌがさゆみへそっと寄り添う。 「なんだか、うれしいですわ。 バレンタインにそう言ってくださって。 わたくしも、あなたが大好きですわ」 「ありがとう」 さゆみは、アデリーヌにそっと口づける。 人混みは、二人の少女の存在を覆い隠してくれる。 見つかるかもしれない、ドキドキは、恋の炎を加速させ、 二人は、熱く口づけを交わすのだった。