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リアクション
第17章 知らないままでいたいから
(何やら、物騒な事件が起こってるようだな)
未来のファッションを一足先に楽しむというのもいいものだ、と空京に行ってシェリエとショッピングをする中で、フェイはこの世界が普通ではないことに気付き始めていた。だが、何となく空気が違っているというのは感じても何が起きているのかまでは分からない。
「何かあったのかしら。街の雰囲気が良くない気がするんだけど。寂れているような、殺気立っているような……」
「いつの時代でも、何かしら事件は起こるものなんだな」
洋服を選びながら、フェイは周りを気にするシェリエにそう応える。特に自分達が関わることでもないだろうと、それはさておいて彼女は1着の服を選ぶ。
「どうかな、これ」
「え? そうね……」
鏡の前で、シェリエは受け取った服を合わせてみる。きっと、どんな服でもシェリエならよく似合うはずだ――そう思って選んだ服は、フェイの目から見てやっぱりよく似合っていた。
「可愛いわね。ちょっと前衛的だけど」
「未来だからね。現代に戻ったら、20年後くらいまで手に入らないかもな」
「じゃあ買ってこようかな。フェイもそれ、買うでしょ?」
「うん。じゃあ一緒に行こうか」
2人で並んでレジに行って会計を済ませる。洋服の入った袋を手に提げて、彼女達は食事に向かった。
「……ところで、これって持って帰っていいんだろうか」
そして、今更ながらにそこが気に掛かる。まあ、無理とか言われてもどうにかして持ち帰るつもりだったが。
「大丈夫だと思うわよ。何か重大な資料というわけでもないし。気になるなら帰る時にアーデルハイトさんに聞いてみましょう」
「そうだな。せっかく手に入れたのに持ち帰れないとか、そんなふざけた話はないはずだけど……」
そんな話をしながらレストランに入り、適当に料理を注文する。
「未来の食べ物が口に合えばいいが……」
好奇心に任せて定番物を外して頼んでみて、見慣れない料理を一口食べてみる。
「…………」
「どう? フェイ。私のは結構美味しいわよ」
「美味しい……かな? 初めて食べる味だ」
そう感想を言って、向かいに置かれた皿を見てみる。
「そうだ、ちょっと食べ合いっこしてみないか?」
シェリエが美味しいと言う料理の味も知りたいし、何より楽しそうだ。
「いいわよ。私もそれ、興味あるわ。料理の参考になりそうだし」
皿を交換して、お互いに注文したものを味見する。シェリエは最初少しびっくりした顔をしてからうん、と頷いてもう一口食べる。
(シェリエも、やっぱり未来の自分がどうなってるか興味あるのかな……)
彼女のその様子を見ながら、フェイはふとそう思った。それから、聞くまでもないか、と思い直す。未来まで来て、そこに興味を示さない人間はそう多くはないだろう。
「フェイは、この時代のフェイに会いに行きたいと思わないの?」
そう考えていたら、シェリエが再び皿を交換しつつ訪ねてきた。未来の生活を見に行かないで、買い物を選択したのが少し不思議だったのかもしれない。
「……あ、ああ、興味はあるしこの目で見てみたいけど……」
フェイは戻って来た料理の方に視線を落とす。
「それでも、見るのはやめておこうかなって思ってる」
「そうなの? どうして?」
「ほら、あれだ。今の自分と未来の自分が出会う事で起こるかもしれないタイムパラドックス的な現象を防ぐため……なんて、冗談はさておいて」
「冗談なの?」
ちょっと真面目な表情になっていたシェリエに、明るく話していたフェイは声のトーンを落として「うん」と言った。
「……本音はね、怖いからなんだ」
それを彼女に話すのは、やっぱり少し緊張した。
「私が、ある女の子の事が好きだって前も言ったよね。これだけ時間が経っていれば普通だったら結婚して家庭を持ってる。……つまり、イヤでも答えを見る事になる。それが、怖いんだ」
「フェイは、その女の子が男性と結婚してると思ってるの?」
「……うん。その子は、男の子との恋愛に憧れてるから……。未来はいくらでも変えられるなんて人は言うけど、それでも、私の思いが実らない未来を見ちゃうと何もしてないのに諦めちゃいそうで嫌なんだ」
シェリエはその話を、合間合間で相槌を打って聞いていた。食事の手を止めていた彼女の表情を伺いながら、フェイは聞いてみる。
「我ながらすごくわがままな事だと思うけど……こういう考えってダメかな?」
「んー……」
少し首を傾げて考えてから、シェリエは話す。
「そうね……私も好きな子がいて、それで結ばれないまま未来に来ていたら、同じように思うかもしれないわ。きっと、すごい怖いとも思う。恋は人を可愛くしてくれるけど、臆病にもしてしまうもの」
未来を知って、それに引き摺られないで生きるって難しいものね。と更に続けた。
「フェイは本気で恋してるのね。ちょっと、うらやましいわ」