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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出

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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出
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リアクション

 
 ■ New Horaizon ■


 訪れたその遺跡は、特別な謎や宝物が隠されているところではない、普通の遺跡だったけれど、彼等には充分、特別で素敵な場所だった。
 山頂の神殿から、雲海を臨む。夜を秘めていた雲の海の東の果てが、柔らかい光を含み始めている。
 夜が明けようとしていた。

「ねえねえ、皆! お日様が出てきたよ! 新しい一日の始まりだね!」
 完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)が、やがて出でた一筋の光が、次第に一帯を照らす光となり、雲海を白に染め上げて行く様を見て歓声を上げた。
 それはまるで、空に浮かぶ神殿のよう。
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は、雲海の朝日をじっと見詰めて、ふと笑みを浮かべる。
 何を思っているのだろう、その傍らでは、つい先日、永遠に共に歩もうと誓った人生のパートナー、シルフィア・ジェニアス(しるふぃあ・じぇにあす)が、嬉しそうなアルクラントの表情に自分も暖かい気持ちになりながら、共に朝日を見つめる。


 遥か天空に大陸が現れた時、アルクラントはまだ、少年だった。
 それは、少年に様々な世界の話を語った彼の曽祖父すら知らなかった、遥か未知の世界だった。
 少年は、パラミタへの憧れを、大容量メディアである日記、「素敵八卦」に書き連ねた。
 空想の中で、自分は、英雄で。

 やがて多くの人々が、様々な思いを胸にパラミタへと移植して行った頃、アルクラントは曽祖父の伝で軍の事務の仕事についていた。
 それはやりがいのある仕事ではあったけれど、空への憧れは胸の内に留まり、消えることなく、そして、旅立つことを決意したのは、共にパラミタへ行こうと言い合っていた友人が、事故で死んだ時。二年前のことだ。
 彼はついに、憧れの地へと足を踏み入れた。


 シルフィアは幸せを噛み締める。
 ずっと、この人と一緒にいるのだと、立てた誓いを思い出す。
(今のこの幸せと、思い出と、未来と……隣にいる人と)
 護っていかなくてはならないもの。誰もが持つ、祈り。
 守護天使として在る自分が、母から受け継ぎ、次代へ伝えるもの、それが祈りなのだと、シルフィアは思う。
 世界を包む想いが自分達を護り、そして、自分達の想いが、世界を包んで行くのだ。
 シルフィアは、そっとアルクラントに寄り添った。
「ん?」
「……人って、素敵だね」
 今を見つめて、シルフィアは言う。

「明日は、ずっと続いて行くんだね」
 朝日を見つめて、ペトラは笑った。
 機晶姫であるペトラは、アルクラントによって封印を解かれ、目覚めた時、何も憶えていなかった。
 けれど、だからこそ、見るもの全てが新鮮で、素敵なことだと、そう思えた。
 悲嘆に落ちず、そう思えたのは、きっとアルクラントに出会えたからだろう。
 目覚めたペトラに「マスター」と呼ばれた時、アルクラントもまた、それを当然のように受け入れた。
「僕は未来に目覚めてよかった。
 過去……どれくらい昔かは憶えてないけど、お父さんやお母さん……僕を生み出した人達も、きっとそう思って、僕を眠らせ、未来に送り出したんだね」
 自分は、未来を託され、希望を託されて送り出された。きっとそうなのだと信じている。
 だから、未来を見続けていたいと、そう思う。
 辛いことも苦しいこともあるけれど、未来はそれだけじゃなくて。沢山の楽しいことが待っているから。
「ああ、わくわくするなあ! ほら、行こうよ!」
 いつまでも、立ち止まっているのは勿体無い。
 アルクラント達を急かして、ペトラは未来へと、駆ける。

 そんな彼等の一番後ろから、魔道書エメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)は、アルクラント達の背中を見つめながら、ついて行く。
 エメリアーヌは、アルクラントの日記だった。
 パラミタに来て、何らかの魔力を得た彼女は、魔道書として覚醒し、以来、アルクラントと共に居る。ある意味で、ずっと彼と共に居た存在だ。
 アルクラントの過去の全てを知る彼女が意思を持った時、彼は、そんな彼女と言葉を交わせることは、とても素敵なことだと言った。
 日記だったエメリアーヌは、「過去」の象徴で、今を生きること、未来を夢見ることを、知識として知っていても、感情が理解はしていなくて。
 それを別に悪いこととは思っていなかったし、自分は、そういう役目を持って生まれてきたのだと思っていた。
「……けど、未来は、いつか過去になる。……きっと、素敵な思い出に」
 そういうことなのね、と、最近は感じる。
 ただの義務であった「過去を綴ること」を、嬉しく思うようになっていた。
 自分の目で、足で、身体で、世界を感じたかった。密かな願いは叶い、自分は今、ここにいる。
「ええ、そうね。全部、見届けようじゃない」
 三人の姿に目を細め、やがて過去へと移る未来を、全てエメリアーヌは受け入れる。



 雲は何処までも続き、空は無限に広がっていた。
 大地にはきっと果てはなく、彼等はこの世界を、彼らの速度で一歩一歩、歩いて行く。
 数多繋がれた、絆と共に。

 きっと、世界は素敵で満ちている。