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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出

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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出
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リアクション

 
 ■ 失い難き世界 ■


 病を患い、療養の為に地球に帰った早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だが、アールキングのことが気になってパラミタに戻り、トカゲの尾のような状態の根の最期を見届けた後、この機会に、他にも行っておきたい所があったのを叶えておきたいと思った。
「大丈夫? コユキ……」
 案じるヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)に微笑む。その微笑みが透明すぎて、ヘルは不安になる。
「大丈夫。“根”の効果で、病は癒えているのだし」
「……けど」
 元々、呼雪の病は、精神的なものよるところが大きい。
 身体的な部分が癒えても、ヘルの不安は少しも消えない。
 けれど、呼雪のしたいことを、止めることもできないのだった。

「うりゃー! トオル、久しぶり!」
 待ち合わせの場所に、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)磯城(シキ)、ぱらみいと共に現れたトオルに、ヘルの方からハグをする。
 ハグというか、ネックホールドに近かったが。
「ギブ、ギブ!」
「締まってるよヘル!」
 ファルが慌て、笑いながらヘルは手を放す。
「シキ達も久しぶり」
 ところでコユキは、と訊ねようとしたトオルは、ヘルの隣にいる子供を見て驚いた。
「え、これコユキ!?」
「わぁ、コユキがちっちゃい! 暫く会わない間にどうしたの?」
 ファルも目を丸くしている。
「……失敗した」
 呼雪は気まずそうに、一言だけ言う。
 外見年齢を操作できるタイムパトロールの能力を、呼雪は時々、寝ぼけて無意識に使ってしまうことがあるのだ。
 現在の、呼雪の見た目は7歳程。何もこんな時に、と、呼雪は自己嫌悪で、普段から多い方ではない口数が、更に少なくなっている。
「すぐには元には戻れないからさー。
 今日の呼雪の服装は、僕のコーディネートでっす」
 えへん、と、ヘルが自慢げに胸を張った。
「可愛いでしょー」
「ああ、うん、可愛いな」
 成程、と事情を聞いたトオルは笑う。
 特徴的な紋様の、北海道の民族衣装風。シキも物珍しそうに見つめている。
「まあそれはともかく、呼雪がね、『空の遺跡』に行きたいんだって。もう、行けるようになった?」
 ヘルはぱらみいに訊ねた。
『空の遺跡』への門は、以前に破壊されてしまったが、あれから、もうすぐ一年が経つ。
 ドワーフによる修復がもしも終わっているのなら、ぱらみいに案内を頼みたいと思ったのだ。
「『空の遺跡』!」
 ファルの目が輝く。
 以前に呼雪達からその話を聞いて、行ってみたいと思っていた。
 そこにいる、パラミタの守護神、ウラノスドラゴンに会ってみたい、と。
「どうかなあ? わたしも知らないの」
 死の門の、門の鍵となるつもりだったぱらみいは、元々パラミタに降りた時点で、戻る予定はなかったので、門の遺跡の修復状態については解らないらしい。
「行けたらいいな。とりあえず行ってみようぜ」
と、トオルも言って、門の遺跡に向かってみることにした。
「ちなみに今日のお弁当は僕のお手製でーす」
「ヘルのご飯も美味しいけど、コユキのとはちょっと味付けが違うんだよね……」
 久しぶりなのに、呼雪のお弁当が食べられないのは残念……とファルが思うと、ヘルはお弁当の包みを後ろ手に隠す。
「……嫌な人は食べなくていいです☆」
「わーウソウソ!」


 しかし、『空の遺跡』には未だ行けるようになっていなかった。
 天井は塞がれ、水は抜かれて、天井を補強する為の柱も元通りに、内部の修復はほぼ終わっていたが、舞台から空の遺跡に転送する為の魔法が壊れたまま、失われてしまっているのだ。
 遺跡には丁度、ドワーフが一人だけいて、訪れた呼雪達に説明した。
「あとは転移魔法を敷くだけじゃがな。まあ、最難関じゃな。
 形を戻すのはわしらには簡単じゃったが、何しろ巨人族の魔法じゃからのう」
「直らないの?」
 ファルがしょんぼりと訊ねる。
「いや、修復が終わった時点で、ミュケナイの選帝神様がいらしてな。
 丸二日程、ぶつぶつ呪文やら歌やらを呟きながら、内部を色々調べておったよ。
 かつての方法を再現した転移の為の魔法を構築すると言っていたが、お忙しい方じゃしのう」
 緊急性が皆無であるこの遺跡のことは、色々と後回しにされるのだろう。
 そっかあ、とファルは残念がる。
 今日は無理だったけれど、いつかはきっと行けるようになるだろう。その時を楽しみにすることにする。
「歌?」
 トオルが訊ねた。
「知らんのか?
 シボラに、この門を通る為の鍵のある遺跡があるんじゃ。巨人族の歌じゃよ」
「ああ、そういえばそんな話を聞いたような」
 そう言ったトオルの視線を受けて、呼雪も頷く。
「うーん、じゃあ、どうせだから、まずはそっちの遺跡に行ってみねえ?
 行ってみたいんだけど」
 トオルが誘った。
「そうだな……。
 話を聞いて知ってはいるが、直接その歌を得たわけではないし」
 呼雪もその気になる。
 そうして、いつか『空の遺跡』で、ウラノスドラゴンに色々な歌を捧げたい。
 地球の歌、パラミタの歌、そして、アトラスとの約束を歌にして。

 だって辛いものばかり背負ってしまって、パラミタという世界は、呼雪の負担にしかならない。
 コーラルワールドに向かったことも、救いたいものを救えなかった呼雪の心に痛みをもたらすことになって。
 そんなヘルの心配を、解ってはいるけれど。



 ――会いたいと願う人達がいる。
 その多くは、きっと再会は叶わないかもしれないが、それでも、ここで、この世界で、彼等を待ち続けたいと、呼雪は願うのだ。