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リアクション
■ 壊れた機晶姫 ■
機晶姫である小芥子 空色(こけし・そらいろ)は、双葉 朝霞(ふたば・あさか)にとっては、美しい等身大の人形である。
空色は、ほぼ完全に機能を停止していて、朝霞には死んでいると思われている。
キャスターのついた椅子に座ったまま、動かない空色に声を掛けて愛で、稀に散歩に連れ出す。
空色の世話は、引きこもりのニートで、生きるのすら面倒、という駄目人間の朝霞の、数少ない楽しみのひとつだ。
けれど、アイ・シャハル(あい・しゃはる)は、空色は生きている、と信じた。
「無駄なことはやめたら」
と、朝霞は面倒くさそうに言うが、前向きなアイは、朝霞や空色を外に連れ出すことを諦めなかったし、眠ったままの空色が、いつか意識を取り戻して、笑い、話す日が来ることを願い、その為の行動を惜しまなかった。
「やっぱり、機晶技術っていったら、ヒラニプラかな」
機晶技術に明るい人物を探して、シャンバラ中を、機晶姫の工房や職人を訪ね歩く。
「あのね、活動を停止しちゃった機晶姫がいるの。
死んじゃったって言われて売られてたんだけどね、本当は死んでないのっ。
機晶石がね、ぼろっぼろなんだって。全然反応とかないの。
でも、生きてるんだよ! ボク知ってるんだってば!」
話を聞いた者の大半は、諦めた方がいい、と言った。
機晶石は、機晶姫の魂であり、寿命だ。
それが痛み、壊れ、機能しないということは、つまり機晶姫の死である。
「機晶姫は、死ぬまでその容姿を維持するが、永遠に動き続けられるものじゃない。
受け入れることも、大切だよ」
「でもっ……でも、ソラはまだ、生きてるんだ……」
動けないけれど、死んでいない。
それなのに、死と判断することは、空色を殺してしまうということだ。
アイにはそんなことはできない。
だからずっとこのまま置いておけばいい、と、朝霞の声が聞こえるようだ。
死んだ機晶姫を売りに出すなんて酷いことを、と言った者もいる。
でも、そのお陰で自分は空色と会えたとも言える。
「きっと、空色を助ける為に、ボクは出会ったんだ。だから、諦めないっ……」
稀に診てくれるという者が居れば、朝霞と空色を引きずり出して、その人に会わせた。
けれどいつも結果は不可能で、アイはその度に、期待をへし折られてしまうのだ。
「だから言ったじゃない。
希望なんて無いし、変われることなんてない。出来ることなんて無いのよ」
朝霞はそう、言い放つ。
アイはしょんぼりと項垂れて、けれどすぐに、ぐっと顔を上げた。
自分が諦めてしまったら、もう、空色を助けようとする人はいないのだ。
(ソラの為に、ボクが頑張らないと……!)
「あ、あの、他にも機晶石に詳しい人がいたら教えてください!
ボク、何処へだって行っちゃうんだからねっ」
朝霞はだるそうに溜息を吐き、それ以上は何も言わない。
「ボク、諦めないよ! 絶対、ソラとお話したいんだもんっ!」
「ああそう」
勝手にして、と、朝霞は興味もない。
そんな朝霞に、少し寂しく思いつつ、アイは、渡されたメモを参考に、次の機晶研究者の元に向かうのだ。
いつか。いつかきっと手にする未来を信じて。