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こどもたちのえんそく

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リアクション

(……なーしてこうなるんかな)
 子兎と化した直後。
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は頭を抱えたい気分になったが、すぐにこれはこれで面白いかと、前向きにとらえることにした。
(風化ー、うさぎとしての世話術を教えてくれー。っと)
 ハイコドはジャンプして、パートナーの白銀 風花(しろがね・ふうか)の背に乗っかった。慣れてないので、滑り落ちそうになったが、なんとかこらえた。
「ハコ兄様、大丈夫ですか?」
 風化は元々白いアンゴラ兎の獣人であり、今は薬の影響ではなく、元々の兎の姿をしていた。
 頭からお尻までの長さはおよそ90cm。小さなハコ兎だけではなく、子犬と子猫も背に乗せていた。
(大丈夫だ。おまえの背の感触、いつもと全然違うなあ……)
 ハイコドは前足で風化の背を撫でる。
 普段は気持ちが良い感触があるが、今は草むらを撫でているような感触だった。
「そこじゃないですよ、せっかくですから、撫で方をお教えしますわ。子供達も見ていますしね」
 風花は3匹を乗せて歩き、兎や小動物を見て回りながら、抱っこの仕方や性格、撫で方などを教えていく。
「兎はなでてもらうのがとっても好きなのです。特に好きなのはもう少し上で」
(ん? こっちか)
 そう言い、ハイコドに肩の方に移動してもらい、両方の前足で撫でる……というより擦ってもらう。
「そう、このあたりをなでてもらうととても気持ちが良いのです」
(そうか……けど、この姿でやるのは重労働だな)
 今は自分より風花の方がずっと大きいため、ちょっと撫でただけで、すっごく疲れてしまう。
「おしゃべりできるうさぎさん? ちっちゃいうさぎさんは、こどもですかー?」
 動物園に訪れていた小さな男の子が風花に話しかけてきた。
「違いますわ。撫でてみますか? うさぎさんが喜ぶ撫で方、教えますわよ。……ハコ兄、手伝っていただけますか?」
(了解だ。撫でられたり、抱っこされればいいんだな)
 ハイコドはぴょんと飛び下りて男の子に近づいた。
「かわいい!」
(わわっ)
 喜んで、男の子は両手でハイコドを掴みあげた。
(こら、抱っこの仕方が不安定だ)
 ちょんちょんとハイコドは前足で男の子の腕を叩いた。
「えっと、えっと……」
 男の子は、片腕でぎゅっと抱き直すと、ハイコドの頭からお尻まで撫であげた。
(気持ちいいけど、なんか押さえつけられてるような感じも……!)
「うさぎさんが気持ちがいいのは、額のあたりと、肩口のあたりなのです」
 風花が男の子に教えてあげると、男の子言われた通り、ハイコドの額と肩口を優しく撫でた。
(おっ、確かに気分が良くなってきた)
 目を細めて、気持ちよさそうにしていると、男の子の顔にも笑顔が浮かんだ。

 ……その間に。
「ミャー(こんな経験出来るなら動物化もいいかものぅ)」
 同じく風花の背に乗っている子猫――エクリィール・スフリント(えくりぃーる・すふりんと)は上機嫌だった。
 目の前には、子犬と化した藍華 信(あいか・しん)がいて、しっぽをフリフリ揺らしている。
「ミャァァー(なんじゃこのワクワクというかウキウキ感は)」
 猫が猫じゃらしを振られた時に受ける感情のようだった。
「ミャー(我慢できん!)」
「ワ、ワン!?」
 ついに、エクリィールは信に飛びついた。
「ミャーミャーミャー♪(たまらん)」
「ワ、ワン、ワン!(エクルやめろ! 何してんだお前)」
 風花の背から転げ落ちても尚、エクリィールは信の揺れる尻尾を猫パンチでちょいちょい弄る。
「ワンワン(そうか、動きを止めれば……)」
 信は尻尾をくたっと下ろして動きをとめた。
「ミャー……(なんだかとっても残念じゃ)」
「ワン……(ふう……。っと、お? ちっちゃなモモンガがいるぞ。空京からついてきたやつか)」
「ミャ?」
 信とエクリィールが目を向けると、小さなモモンガは慌てて飛び立とうとする。
「ミャーッ(捕まえたい!)」
 エクリィールの心に熱い感情が浮かんだ。
 次の瞬間、ぴょーんと飛んで、モモンガに体当たり。
「きゃー、なにするんですの!」
 そのモモンガは、ただの子モモンガではなく、ブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)という名のペロ子だった。
「ワン(やっぱり、空京から来たやつだな。捕まえて帰らねーとな)」
「ミャーン!(大人しくいじらせろー!)」
「ぎゃー、来るなですわ! 私はモモンガじゃありませんわー! 仕方なくモモンガの姿をしてやってるだけですわー!」
 叫び声を上げて逃げるペロ子だが、逃げられれば追いたくなるのが動物の本能? 信とエクリィールはすっごく楽しくなり、ペロ子を追いかけ回していく。
「ああああ、外へ出たいですわー。薬師はどこですの? 人間に戻れる薬をよこせですわー!」
 この辺りは鳥が逃げないようにネットで覆われており、ペロ子も契約者達と一緒じゃないと外には出られない。
「ほらほら、騒がしくしていたら、他の動物さんも子供達もびっくりしますわ」
 子供へのレクチャーを終えた風花が吠え声を上げている信と、モモンガに飛びついたエクリィールに声をかける。
「ワンワン(それもそうだな。迷いモモンガのことはスタッフに任せるか)」
 信はすぐに大人しくなったが、エクリィールは捕らえたモモンガを弄繰り回していた。
「ひゃー、やめろですわ! くすぐったいですわー!」
「ミャンミャン♪」
「ワーン、ワン(ほら、次いくぞ、次)」
 信が走り寄って、エクリィールの首根っこ加えて、押さえつける。
「ミャーン(いいところじゃったのに……)」
 そのまま、ずるずるエクリィールは風花のところに連れていかれた。
「ネコちゃんは、ここがきもちいいんだよねっ」
 風花の肩口を撫でていた男の子が、エクリィールの喉元を撫でた。
「ミャァーン……(なんじゃ、この心地良さは……)」
 エクリィールは気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「っと、ハコ兄様、そんなもの食べて大丈夫ですか?」
 風花はハコが兎の餌だけではなく、草や果物や花を食べている事に気付いた。
(たんぽぽ、美味いぞー。林檎やニンジンも美味かった)
「そうですけれど……人間向けではないものも多いですし、大丈夫でしょうか」
 少し不安に思う風花だったが、ハイコドは気にせず色々な味を堪能していた。
「ワン、ワン(それじゃ、散歩続けよう)」
「ミャーン!(新たな冒険に出発するのだ!)」
 信とエクリィールが風花の背に乗り、ハイコドももしゃもしゃ草を食べながら、風花の背に飛び乗った。
「ミャン、ミャー!(その前に……ハイコド、お主の耳、いじらせろー!)」
「ごふっ(凄まじく猫化してる!? ……まぁ、しょうがないか)」
 猫の習性だから仕方ないと、ハイコドは猫パンチも飛びつきも、エクリィールの好きにやらせておくことにした。
 度を越した時には、信が止めに入るかたちで、3匹の小動物を乗せた兎さんの、賑やかで愉快な旅が続いていく。

○     ○     ○


 幼児と化した契約者達にとって、動物公園の敷地はとっても広かった。
「あーうさぎさんだー」
 3歳児の姿の千返 ナオ(ちがえ・なお)は、とっても好奇心旺盛な子だった。
 柵の入ってはダメという立て看板も頑張らないと読めないので無視して、小さな体をすべり込ませて柵の中に入って、兎を捕まえようとする。
「なーおー、この中は入ったらダメみたいだよ」
 言いながら、5歳児と化したエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)も、柵を越えて中に入ってきた。
「うさぎさん、あそぼー! あうっ」
 走って兎を捕まえようとしたナオは、ぽてっと転んでしまう。
「だいじょうぶ、なお?」
 エドゥアルトが心配そうに聞くが、ナオは「だいじょーぶ!」と元気に答えた。
 芝生の上だったので、そう痛くはなかった。
「ううっ、うさぎさん、あそぼー」
 そしてすぐに起き上がると、よたよた歩いて、真っ白な兎に近づく。
 ちらっとナオ達の方を見ると、兎はぴょんぴょん跳ねて逃げてしまった。
「キャンキャン!」
「ん?」
 犬の声にナオとエドゥアルトが振り向いた。
「さっきから この子犬、ついてきてるんだよね」
 エドゥアルトはしゃがんで子犬を見詰めた。
「わんちゃん、かわいー」
 ナオは飛びつくように、子犬に抱き着いた。
 子犬は兎のように逃げたりはしなかった。
「キャン、キャン(ほら、大丈夫かナオ)」
 なぜなら、その子犬は2人のパートナーの千返 かつみ(ちがえ・かつみ)だったから。
「なんだか、このこかつみに、にてるね……。
 あれ? そういえばかつみは?」
 エドゥアルトはかつみの姿がない事に気づいて、周囲を見回した。
 動物園に一緒に訪れたはずなのに……。
 そう、かつみは2人の保護者として過ごすつもりだったのに、園内で事前に受け取っていたクッキーを食べてしまい、子犬化してしまったのだ。
「キャン、キャーン(俺がかつみだ、わかるか? ……わからないか)」
「さっきからそんなにないてどうしたの? だいじょうぶだよ、こわがらなくてもいいからね」
 エドゥアルトは優しく言って、そっと子犬の背を撫でた。
「クゥーン……」
 力が抜けたかつみの口から、安堵の鳴き声が漏れた。
「クゥーン、クン(2人とも、走り回ったり、無茶なことして心配かけるなよ。迷子になったらどうするんだ。ナオは何度も転んで……ほら、ここ怪我してる)」
 絆創膏もなく、手当てをすることもできないため、かつみはナオの膝の傷を舐めてあげた。
「わんちゃん、ありがとー。かわいー。かわいーよぉ、かわいー!」
 ナオは感激してぎゅーっとむぎゅーっとかつみ犬を抱きしめ、乗っかるようにもふもふ感触を楽しんでいく。
「キャワンワン(こ、こら、ナオ……もふもふしすぎ! く、苦しい……)」
「かわいー、かわいー、ふわふわー、わあーーーい」
「もふもふ、かわって、かわってー」
 エドゥアルトはナオが羨ましくなり、一緒になってかつみをなでて、可愛がる。
「キャン、キャーン(ふ、二人とも。わっ、ちょっとこれいじょうは……あはは、もう、なにがなんだか……)」
 苦しいのかくすぐったいのかよく分からない感覚が押し寄せ、かつみはキャンキャン声を上げ続ける。
「ああでも、これいじょうは……かわいそうかな。なお、おしまいにしよっ、わんちゃんくるしいかも」
 先にエドゥアルトが手を引っ込めたが、ナオはなかなか離そうとしない。
「やだー、このこといっしょにいくー」
「やさしくしてあげたら、このこもなおといっしょにいきたくなるよ、きっと」
「んー……そう?」
 抱き締めながら尋ねるナオに。
「ワン!(少し手加減してくれ……っ。でも、どちらにしてもおまえたちから離れるつもりはないけどな)」
 自分を覗き込む可愛い二人の顔に、かつみも微笑みを浮かべ、自然に尻尾をふりふりしていた。
「よしわかった。やさしくするから、いっしょにいこー」
「キャン!」
 ナオはそっと犬のかつみを下ろして、またよたよた歩きだす。
「うさぎさーん、うさぎさんもさわるー」
「そういえば、どうぶつえんのおねーさんにもらった、エサがあるよ。これあげてみよ」
「うん!」
 エドゥアルトが取り出したエサを持って、ナオは今度はゆっくりと兎に近づいて、エサをあげて観察をする。
「かわいー」
 そしてそっと撫でて。
「かわいー!」
 やっぱり飛びついて、強烈にもふりだす。
「キャンキャン!(ナーオー! やりすぎると……)」
「いたっ!」
 兎はナオの腕を噛んで、逃げて行った。
「キャンキャン……(こういうことになるんだぞ……)」
 噛まれて血が出た手を、かつみは舐めてあげる。
「ありがとー、わんちゃん」
 そしてまたぎゅっとナオはかつみに抱き着くのだった。
「あっちには、茶色のうさぎさんがいるよ! たくさんいるー!」
 ナオよりは大人しいエドゥアルトだけれど、彼も好奇心旺盛だ。
「ワンワン!(こら、走ったら危ないって)」
「まってー……あっ!」
 エドゥアルトを追おうとしたかつみを追おうとして、ナオが転んだ。
「キャンキャン(ナオ、ゆっくりついてこい、ゆっくりな)」
 かつみはナオに吠え声で語りかけると、エドゥアルトを追って遠くに行かないようけん制し、直ぐにナオのもとにもどって、ゆっくり導いて……と。
 とってもハードな1日を過ごした。

 2人の笑顔を沢山見た1日でもあった。