校長室
バカが並んでやってきた
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第15章 『こ……これは……っ!?』 フェイミィ・オルトリンデは驚いた。 『フェ……フェイミィっ!?』 パートナーのリネン・ロスヴァイセも同様の声を上げた。 それも無理からぬこと。何しろ、フューチャーXがかざした二つの『覇邪の紋章』が空中で一つに融合したかと思うと、近くで灼熱夏将軍と戦っていたパートナー同士が突然引力のようなもので引かれ合い、気付いたら一人の人間に『融合』していたのだから。 『それに……これ……!!』 ヴァルキリーであるフェイミィと融合した影響か、リネンとフェイミィは6枚3対の翼を持つ大天使の姿になっていた。 『セラフィックフォース……!!』 闇の結界の中、二人の放つ光がまばゆく輝いた。この結界の中、通常であれば発現しない筈の能力が、二人分の力を合わせたことで限定的に発動したのだ。 『これなら……いけるかもしれない……!!』 禍々しく巨大な炎を揺らめかせる灼熱夏将軍を前に、リネンとフェイミィは確かな手応えを感じていた。 ☆ 「――!!」 一方、八神 誠一と冬将軍の戦いは続いていた。 誠一の大降りの一撃を狙った冬将軍のカウンター、それは確実に誠一の喉元を捉えたはずだった。 「――残念だったねぇ」 しかしそれは、最初から仕組まれていた誠一の罠だったのだ。 お互いの手の内をある程度晒したうえで、誠一はわざと大降りの一撃を見せつけ、冬将軍のカウンターを誘ったのである。 冬将軍の振るった刃を逆に喉元ギリギリのところで避け、誠一はそのままその場で跳ねるように宙に舞った。 その回転を利用して身に纏った漆黒のコート『影衣』の裾が翻る。それは伸ばしきった冬将軍の右腕を確実に捕らえていた。 「――ぬぅっ!」 『影衣』には誠一の刀と同じ様に鋼糸が仕込まれていて、僅かながらその形状を変化させることと、鋭利な刃物のような殺傷能力を発揮することができる。 冬将軍の斬撃をすり抜けた『影衣』の裾は誠一の回転に合わせて冬将軍の右腕を切り落とした。 「貴様ぁっ!!」 激昂する冬将軍に、誠一は軽い笑みを投げかける。 「いやぁ、予想よりも上手くいったねぇ。まぁ、勝負はこれからってところ――」 と、誠一が次なる手を仕掛けようとしたその時。 「そこまでだっ!!」 誰かの声が響き渡った。 次の瞬間、ウィンターの分身のブーストで強化されたパイロキネシスが発動した。その炎は周囲を取り囲んでいたアシガルマを更に遠ざけ、冬将軍と誠一、そして風森 巽を視認しやすくする。 声の主は狩生 乱世、パイロキネシスを放ったのはパートナーのグレアム・ギャラガーだ。 「……乱世、あの敵……冬将軍は確かに以前もこの街に侵攻してきたらしいが、ここまで残忍な手段に及んだとは聞いていない。 おそらく、何らかの闇の力の作用があるものと思われる……怒る気持ちはわかるが……」 ギャラガーは過去の情報から冬将軍のデータを閲覧し、現在の状態との比較に務めた。 だが、肝心の乱世はグレアムの言葉に耳を貸す様子はない。 「ウィンター……」 冬将軍の持つウィンターの両脚。それを見た乱世の心にふつふつと湧き上がる強い怒り。 「ひでぇことをしやがる……!!」 情報として『ウィンターがバラバラにされた』ということを耳にしていることと、それを目の当たりにすることでは、意味合いが違う。 人間は感情の生物だ。特に乱世のような激情家がそのような事実を目の当たりにして冷静でいられる筈もなかった。 「許さねぇ……いくぞ、グレアム……!!」 「……いや、乱世……これは……!!」 だが、グレアムはその乱世に引き寄せられる強い力を感じた。 次の瞬間、乱世の傍らに立っていたグレアムの姿が消える。 『――え?』 フューチャーXの持つ『覇邪の紋章』によりもたらされた『融合』の効果がここでも現れたのである。もとより『契約』によって強い絆を持っているパートナー同士であれば、今の状況下では『敵を倒す』という目的の共有で、充分に融合が可能であった。 『おぉ、何だか良く分らねぇが、やることはひとつだ――あいつをぶっ倒す!!』 気合を入れる乱世。その姿はグレアムと融合したことで、著しい変化を遂げていた。 グレアムの美しい銀髪が乱世のようなロングヘアになり、すらりとしたボディは黒革のボディスーツに覆われた。溢れんばかりの激情を秘めたその瞳は、しかし冷徹かつ静かに燃えるのだった。 その内面において、グレアムは戸惑いを隠すことができなかった。 今や乱世とグレアムは同一人物であり、乱世の持っている考えや感情が、全てグレアムに流れ込んでくる。 それはまるで、感情の洪水だった。 『これは……これが今、乱世が感じている……感情なのか……』 強化人間であるグレアムは、一部の感情がまるで欠落したかのようなドライさを持っていた。そのグレアムにとって、隠そうともしない乱世の感情の嵐は強烈で、その奔流にただ戸惑うばかりであった。 『今まで僕が感じたことのない何か……激しい怒り……そして、敵に対する悲しみ……弱者への義侠心……』 乱世はそんなグレアムにはお構いなしに、手に入れた新しい力を高めていく。 『おらぁっ、いくぜぇ!!』 乱世の真空斬りにグレアムのパイロキネシスを乗せた強力な攻撃が、冬将軍を捉えた。 「ぬうううぅっ!!!」 指向性を持った強烈な炎はしかし周囲に被害を及ぼすこともなく、またその場にいる敵以外のものにダメージを与えることもなく、狙った相手だけを焼き尽くす。 『裁きの炎』とでも呼ぶべきその炎は、あっという間に冬将軍を包み込んだ。 『――どうだっ!!』 声を上げる乱世の中で、グレアムはまだ心の流れに戸惑っていた。 『……強く、そして熱い……これが……『人の心』……!!』 「これで勝ったと思うなよぉっ!!」 だが、その思考は冬将軍の叫びに中断された。 炎の包まれて瓦解するかと思われた冬将軍の身体だが、その内部からより強力な冷気が噴き出して乱世の炎をかき消してしまった。 「――!!」 「うわぁっ!!」 その冷気は一瞬で周囲を覆い、衝撃波がコントラクター達を襲った。 比較的優勢に事を運んでいた誠一はともかく、ずっと冬将軍の足止めをしていた巽はそのダメージで変身が解けてしまう。 『何だ……ありゃあ……』 乱世の呟きと共に、炎が消えた後から巨大な氷の塊が立ち上がった。 「――極大、冬将軍!!」 一度は炎に焼き尽くされた冬将軍だが、他の将軍たち同様に、内に秘めた力を解放することで真の姿を取り戻したのである。 かつてウィンターとの対戦に登場した巨大氷像『DX冬将軍』とはこの身長50mにも及ぶ冬将軍の真の姿『極大冬将軍』を模していたのである。 『おもしれぇ……そっちがそう来るなら、こっちも巨大化だ!!』 グレアムと融合した乱世が叫ぶと、巨大化カプセルの効果が発揮された。 融合した銀髪の美女の姿のまま、乱世もまた身長50mほどの姿に巨大化する。 『さぁ……本番はここからだぜ!!』 ☆ その様子をレン・オズワルドは眺めていた。 「……大きいな」 その傍らには、ブレイズ・ブラスと物部 九十九の姿がある。 「……でけぇっすね」 ブレイズの呟きに、九十九は返した。 「でも、だからこそボク達が戦わないと――行こう、ブレイズ!!」 差し出された手を、ブレイズは自然に取る。 「ああ、行こう――って……?」 「……え?」 ブレイズと九十九が重ねた手が次第にひとつになり、あっという間に二人は『融合』した。 「何だこりゃあっ!?」 ブレイズは叫ぶ。元よりマブダチの鳴神 裁を介して共闘してきたブレイズと九十九がこの状況下で融合したことには不思議はなかった。 『これが、『融合』……不思議な感じだね、ブレイズ。 なんというかこう……視覚や聴覚以外にも、想いや魂みたいなものが……感じられるというか……』 ブレイズの中で、九十九は語りかける。 『ああ……伝わってくるぜ、九十九、お前の魂の叫びが……。 ……あれ……お前……その……』 『――!!!』 「わっ!!!」 叫び声を上げて、突然ブレイズと九十九の融合が解除された。 「……どうした? 失敗したのか?」 その様子を見ていたレンが語りかける。 しかし、ブレイズと九十九は少し顔を赤らめたまま黙っているばかりだ。 「その……ブレイズ……?」 九十九は余所を向いたまま呟く。ブレイズもまた九十九の方を見もせずに応えた。 「ああ……その……今はまず敵を倒そうぜ……話は後だ」 なんだかギクシャクしている二人を見ていたレンだが、やがてブレイズへと手を差し出した。 「何だか妙だが、まあいい。今度は俺と融合を試してみないか、ブレイズ」 「――先輩と!?」 ブレイズがその言葉に表情を変えた。もとより尊敬するヒーローの先輩であるレンとの融合であれば、文句のあろう筈もない。 「ああ、それを通じてお前に伝えられることがあるだろう……ブレイズ、そもそも何故、お前が負けたか、だ」 サングラス越しのレンの視線がブレイズを射抜く。 「それは……俺が弱いから……」 「……違うな」 ブレイズの言葉に、レンは首を振る。 「いいかブレイズ、お前が負けたのは力が弱いからか、本物のヒーローじゃないからか。 どちらも否。確かに敵は強大だ。しかし、この戦いでお前は大きな何かを掴まなければならない。 行こうブレイズ。答えは戦いの名にある」 「……はい!!」 ブレイズがレンの手を取り、二人は融合した。 「――!!」 眩しい閃光に九十九が目を瞑ると、次の瞬間には、レンとブレイズはひとつになっていた。 そこには、黒と紅を基調とした一人のヒーローが立っていた。 頭部は完全にヘルメット状の仮面に覆われて、表情を読み取ることはできない。振り返って極大冬将軍を見上げると、黒いロングコートのような衣装が翻った。 ブレイズの紅と、レンの黒。二人の特徴を兼ね備えたその男は、九十九に向かって呼びかけた。 『待っていてくれ――すぐに、戻る』 「……」 九十九の返事も待たずに高らかに跳ねる。 残された九十九は、二人を見送った後で、誰にも聞こえないように呟いた。 「……さっき融合した時……やっぱり伝わっちゃったよね……うう……告白はもっとロマンチックにする予定だったのに……」