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バカが並んでやってきた

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バカが並んでやってきた
バカが並んでやってきた バカが並んでやってきた

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第19章


「あ、あれ!! あれだ!!」


 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は叫んだ。闇の柱へと向けて何か、眩しい光を放ちながら飛来する物体を視界の端に捉えたのである。
 それはスプリング・スプリングが放った『破邪の花びら』なのだが、彼女にそれを知る由はない。強いて言えば、直感のようなものなのであろう。

 あれこそが、現状を打破する鍵となるものだと。

「おい、わしをあそこまで飛ばせ!!」
 ヒラニィはパートナーである琳 鳳明に言った。
「え、いやヒラニィちゃん、今そんなこと言ってる場合じゃ」


 ところで目下、暗黒秋将軍との交戦中である。


 暗黒秋将軍の放った闇の触手をさばきながら、鳳明は答えた。しかし、ヒラニィにとってはそんなことは些細な問題でしかない。
「やかましい、それこそそんなこと言ってる場合ではないっ!!
 このままじゃ触手と魔法で押し込まれるだけだ!!」
 自身も触手の攻撃を避けつつ、高く跳躍する。
 確かにヒラニィの言うように現状は悪い方向に向かっていた。この街の結界は暗黒秋将軍を中心に展開されているがゆえ、彼女の至近距離であればあるほど効果が高い。他のコントラクターのように『融合』の効果がまだこの戦場では起こっていなかったのである。

「ほほほ……このまま手もなく我らが軍門に下るがよろしいですわ」

 四つの腕がひらめき、衝撃波を発する。
「あうっ!!」
 それは鳳明の至近距離で地面をえぐり、背中に破片を当てる。
「鳳明っ!!」
「――ヒラニィちゃんっ!!」
 しかし、空中のヒラニィの呼びかけに応じた鳳明は、ダメージをものともせず手にした『六合大槍』を振り回した。

「――うわあああぁぁぁっ!!!」
 裂帛の気合を込めて、長身な槍の先端がヒラニィの足の裏を捉える。ヒラニィは器用なことに空中でその槍を足場にして、闇の柱のそびえ立つ頂点――『破邪の花びら』が飛来するであろう方向へと高く跳ね上がった。

「とりゃあああぁぁぁっ!!!」


                    ☆


「行くぞ――歌菜。
 周囲の闇の力が増大している――これを取り除けば、カメリアの覚醒を促すことができるだろう」

 闇の柱の上空では、月崎 羽純と遠野 歌菜が闇の結界の力が増したことにより、闇の触手を相手に苦戦を強いられていた。
「はいっ、羽純くんっ!!」
 しかし今、ようやくこの付近にも『融合』の力が届きつつある。確信に近い直感を得て、羽純は歌菜の手を取った。

『――狙うのはあそこだ……特に闇の触手のガードが固い』

 二人は、まるで男性と女性の中間――中性的な魅力を持った外見の男性に融合していた。
 元より美男美女の二人、外見的な中間点を取れば美しい青年へと融合するのも、納得であった。

 それどころか、歌菜と羽純はやたらとキラキラした効果を飛ばしている。ある意味でのスター性のようなものを兼ね備えていた。

『さあ行くぜ――俺の歌、聴きやがれっ!!』

 透明感のある声で、二人は呟く。やや気合が入っているのは、歌菜の熱血っぷりが表に出たせいだろうか。

 ともあれ、二人が融合して合わせた歌声は、徐々に頭上に巨大な槍を形勢していく。
 『エクスプレス・ザ・ワールド』――先ほどは無数の魔法の槍を降らせた歌菜の魔法が、今度は巨大かつ強力な一本の槍を形成していた。


『起きろ、カメリア!!!』


 歌菜と羽純は、博季・アシュリングがエバーグリーンでこじ開けた闇の柱の根元へと、巨大な槍を突き立てた。
『行っけーーーっ!!!』
 幾重にも張り巡らされた闇の触手の結界を、その槍は一点集中で突き破っていく。


「触手が……?」
 その闇の柱の根元、成長させた巨樹で内部からの柱の破壊を試みていた博季・アシュリングは外側からの力を感じていた。
 内部に入り込んだはいいが、秋将軍が暗黒秋将軍へとパワーアップしたことで力を増した闇の触手に閉じ込められていたのだ。
「よし、これなら……外界と繋がることができそうですね」
 闇の触手に閉じ込められては、せっかく開けた柱のほころびをこじ開けることができない。しかし今、歌菜と羽純の攻撃により闇の触手の力が弱まったことで、再び巨樹の力を成長させることができた。

「待っていてくださいね、カメリアさん……!!」

 博季が祈るような気持ちで魔力を集中する。
「……?」
 ふと、不思議な感覚に博季は捕われる。
「闇の触手が晴れただけではない……これは……?」
 歌菜と羽純の攻撃の他に、大きな光の力を感じるのだ。それは巨樹の成長を更に助け、内側から闇の柱をこじ開ける力を増していった。


「ぬ〜〜り〜〜か〜〜べ〜〜」


 闇の柱の近くでその光の力を増していたのは、アキラ・セイルーンのパートナー、ぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)である。
 ウィンターの分身によるブーストで、天候操作による極光――オーロラを発生させていたのである。
「が、頑張るでスノー!!!」
 柱の根元に到達したお父さんとアリスはウィンターの分身とともに、極光のブーストで街全体に光の結界のようなものを張り巡らせたのである。
 それが、暗黒秋将軍の闇の触手の力をさらに弱めていた。

「ぬ〜〜り〜〜か〜〜べ〜〜!!」

 お父さんの巨体を覆った雪だるマーが輝きを増し、お父さんに力を与える。アリスは護国の聖域を張り、それを助けた。

「さあ、頑張って!! ワタシたちはここで光の結界を死守するのヨ!!」

 徐々に、歌菜と羽純が開けて博季が押し広げた闇の柱の穴が広がっていく。
 そこにお父さんとアリスが張った光の結界が加わり、さらに闇の力を弱めた。

「よっし、行くぜーー!!」
 その穴へと突撃するのが、アキラ・セイルーンであった。

「やれやれ、仕方ない。協力してやるか――ここは維持しておいてやるから、さっさとあの娘を助けてくるのだな」
 行きがかり上でつれてこられた悪魔 バルログはため息交じりに闇の柱を切り裂いた。
「――」
 機晶姫 ウドもその巨体を活かしてバルログをサポートする。

「おお、サンキュー!!」
 アキラは狐の獣人 カガミと狸の獣人 フトリを連れて闇の柱の内部へと侵入していく。その後を一匹の山羊が追いかけた。

「めへー」

 その後姿を眺めて、バルログは呟く。

「……あの娘と縁の深い獣人二人はともかく……今やただの山羊となったあいつを連れていってどうするつもりだ……?」


                    ☆


「よっし、レイ! アレやるよ、アレ!!」


 ところで意気揚々とパートナーに持ちかけたのは、ライカ・フィーニスである。
 ブレイズやウィンターを助けに街に入ったライカだったが、アシガルマの群れに妨げられて進行もままならぬ状況であった。
 闇の結界によって能力が著しく制限されていたライカとパートナーのレイコール・グランツは苦戦を強いられていた、のだが。

「アレ……とは、何かね」

 レイコールは呟いた。
 圧倒的な数で迫るアシガルマに追われ、時に正面突破、時にゲリラ戦と戦い抜いてきた二人だったが、特にとっておきの作戦があるとはレイコールも初めて聞いた。

「アレったら決まってるよね! ……合体だ!!」


「いつから私達は合体できるようになっていたのかねっ!?」


 レイコールは突っ込んだ。

「あ、ついさっき『融合』できるようになったみたいでスノー」
 ウィンターの分身がライカを補佐する。


「突然できるようになるものなのかね、それはっ!?」


 あくまで常識人の枠をはみ出ることは少ないレイコールだけに、突然合体できるといわれても戸惑うしかない状況だ。
 だが、逆に常識人の枠にとらわれることのないライカは、ウィンターの分身からの情報に飛びついたのである。

「レイ、ゆっくり説明してる暇はないよ、やろう!!」
 だが、ライカの瞳は真剣そのものだった。
 ライカとてこの街を救いたいという気持ちは他の誰にも負けてはいない。その眼差しを受け止めて、レイコールはやがて頷いた。

「よし……確かに手段を選んでいる場合ではないな。
 それが本当なら悪くない――賭けに出ようではないか!!」

 ライカの求めに応じて、レイコールは手を差し出した。
「よっし、行くぞーーっ!!!」
 その手を握り返したライカ。二人は柔らかな光に包まれたかと思うと、赤い長髪の男性に融合していた。
 どうもベースはレイコールに、ライカの特徴を加えたような融合をしたようだ。

『おお……本当に合体できたよ……かっこいい!!』
『できると思ってなかったのかねっ!?』
 律儀に突っ込むレイコールだが、今まで感じたことのない感覚に、ライカは少なからず戸惑いを見せた。

『なんだろう……あったかい力が沸きあがってくるよ……これが、魔力が強くなるっていうこと……?』
 基本的に魔力に恵まれなかったライカは、今までも魔法の術式のみでは魔法を発動できず、補助の道具やルーンの力を借りてようやく魔法を発動させることができている状態だった。
 それが今、レイコールと融合したことで、生まれて初めて自分のものとして魔力を感じることができたのである。
『そうか、ライカには初めての経験だな。
 ライカ、術式を錬るのだ――魔力の放出は私が修正しよう』
『うん――ってレイ、あれは何っ!?』
 レイコールの言葉に空を見上げたライカの視界に、眩い輝きを放つ光の塊が映った。
 それは、スプリングが投げた『破邪の花びら』である。

『あれは……こっちに……向かってくる……?』
 空を一直線に闇の柱の頂点へと向かっているように見えたその光は、まるで何かを見つけたかのようにこちらに方向を転換した。
『ラ、ライカっ、あれは何なのだっ!?』
 レイコールは驚きの声を上げた。まだあれが何なのかはっきりと分ってはいない。
 見たところ光輝の力を宿しているであろうその塊には敵意は感じられないが、果たしてその力をどう使っていいか二人には分らないのだ。
 だが、ライカはそれを直感によって感じ取った。

『レイ……大丈夫……あれは、私達みんなの希望だ……心配いらない……』

 ライカは静かに自らの槍――天貫龍牙『蒼月』を差し出した。
 空中から飛来した『破邪の花びら』は真っ直ぐにその槍の穂先に命中する。

『――お、っとっと!!』

 思っていたよりも反動が強く、槍の先端に光輝の力を宿したまま、ライカはその場で回転した。
 光の軌跡が闇の中に浮かび上がり、美しい光の螺旋を描く。
『これ……すごい……!!』
 スプリングの光輝の力のほとんどが込められた『破邪の花びら』は荒削りな力の塊で、うっかりすると制御を失って霧散してしまいそうなほどの、ただの力の塊だった。
 今の融合したライカには、それを感じ取ることができた。
『うん、レイ――これならいけるよ!!』
『そうか――なら、細かい修正は私に任せて、思い切りやるがいい!!』

 ライカは槍の穂先に『破邪の花びら』を乗せたまま、ゆっくり身体ごと円を描いた。
 見上げると高くそびえ立つ闇の柱、その頂点付近から張り巡らされた闇の結界がある。それはまるで、街を覆う闇の空のようだった。

『空を割れ――『天貫龍牙』!!』
 ライカは『蒼月』を逆手に構え、闇の結界の中心に狙いを定めた。

『レイ――準備おっけー?』
『無論だ、ライカ!!』


 融合した二人の力を合わせ、投げ槍の要領で構える。はるか上空の一点を狙い、全力で槍を放った。

 崩落する空――溢れるほどの光輝の力をもって、この街を覆う闇の空を砕く。


「この希望、受け取れえええぇぇぇーーー!!!」


 槍ごと射出された『破邪の花びら』は、ライカによって空高く打ち上げられた。
 同時にライカとレイコールの崩落する空が発動し、闇の空にヒビを入れる。

『いけるか……?』

 レイコールとライカは空を見上げ、その成り行きを見守った。
 そして見た。


『あ……あれ……!!』


 砕けた空の向こうに、一人の少女が現れたのを。