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真紅の花嫁衣裳

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真紅の花嫁衣裳
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第1章 こどもたちおりょうりする

 2024年夏。
 日本の軽井沢に、パラミタから子供達が林間学校に訪れた。
 子供達とは……主に、幼児化したシャンバラの契約者達だ。
 今回は、引率として大人の姿のままの契約者も多く訪れている。
「メシー!」
「メシまだかー。おこさまのオレをまたせてんじゃねーぞ」
「ごはん、ごはんー。はらへって、うごけなーい」
 スカートの中身を撮ることだけ頑張っていた悪ガキ君たちが、騒ぎ始めた。
 そろそろご飯の時間だ。
「今日のご飯は、自分達で作るんですよ」
 材料の入ったリュックサックを下ろしたのは、牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)
 この悪ガキ達の悪友であるブラヌ・ラスダーの妻だ。
(この子達には包丁持たせない方がよさそうですね)
 元々は20歳前後の青少年なので、包丁も火の取り扱いも知っているはずなのだが、彼らに関しては普段の姿の時も正しい使い方を知っているとはいえない。
「めんどくせー」
「いまからつくんのかよー」
「はらへった、はらへった〜!」
「お手伝いしてくださいね。そしたら早くできますよー」
 そんな牡丹の優しい言葉に。
「お手伝いしないと、食事きよ」
 教師である祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)がそう続けた。
「やだやだやだー」
「はらへったー!」
「うまいメシくわせろ〜。おれらがつくったんじゃおいしくなんねーじゃん」
 イヤイヤ期のように、足をばたつかせて嫌がる悪ガキ達に、牡丹は優しく微笑みかける。
「大丈夫です。美味しくできる魔法の薬持ってきましたから!」
 といって取り出したのは普通のカレーのルーだ。
「美味しく作れたら、写真撮影、協力してあげようかなー」
 祥子も悪ガキ達に微笑みかける。悪ガキ達は売りさばくための写真撮影のために、この林間学校に参加していると言ってもいい。
 ちなみに今回ブラヌは、売りさばく側に徹しており、日本には訪れていない。
「……ふろでとってもいいか?」
「ぱじゃまのしゃしんもほしいぜ……」
「いいわよ、カメラ持ち込んでも。ちゃんと林間学校のメニューこなしたらね(但しお風呂も寝室も男女別だから、撮れるのは自分達の写真だけだけどね☆)」
 祥子が内心舌を出しつつそう言うと、悪ガキ達はやる気を出していく。
「よし、やってやるか」
「はやくくいてーしな!」
「おなかとせなかがくっつくー」
「それじゃ、材料を洗うところから始めましょう」
「おー」
 そして牡丹を取り囲むかのように近づいて、一緒に定番のカレーライスを作り始めた。
「普段料理してる子達は、違うものに挑戦してみましょうか」
 牡丹に悪ガキ達の世話を任せ、祥子は普通の幼児化した契約者を集めて、料理を始める。
「使う食材は、勿論……」
「さちこせんせー、これたべれる?」
「あたしのは?」
「これはこれはー!?」
 子供達が持ってきたのは、直前の自由時間に採ってきた植物や魚だ。
「そう、みんなで採ってきたもので料理しましょう。……ええっと」
 雑草が多いが、食べられるものもあった。
 オオバコやウドなども混じっている。
「こっちのは、天ぷらにしたら美味しく食べられるわ。キノコはこれとこれは大丈夫。毒があるものもあるから、絶対勝手に料理に使ったらだめよ」
「はーい」
 可愛らしく返事をして、子供達は祥子に教わりながら料理をしていく。
 山菜やお米を洗って、祥子の元に持って行って、切ってもらったり、あげてもらったり。
「出汁のとりかた、わかるかな?」
「わかるわかるー! あわみたいなの、おたまですくうの!」
「それは灰汁の取り方かなー? その前に出汁をとるのよ」
「ボクはしってるよ! だしのこなをいれるんだ!」
「だしがはいってるみそをいれればかんたんだよ!」
 男の子たちが得意げに言う。味噌汁の出汁の事を思い浮かべているようだ。
「今日はそれよりももっと美味しくできる方法、教えちゃおう」
 祥子が、とても簡単な昆布での出汁の取り方を教えると、子供達は楽しそうに実践していく。
「かき揚げの衣の作成もやってみようか」
 と言って祥子が取り出したのは『柿の種』だった。
 これを荒く砕いて衣にしようというのだ。
「わー、おかしがごはん?」
「やるやるー」
 子供達は率先して柿の種を砕いての衣づくりを楽しんでいった。
「ふふ……可愛いわね。ま、普段の学生の姿も可愛いけれど」
 微笑んで小さな声でそう言い、子供達を見守りながら祥子は刃物や火を使った調理を行っていくのだった。

「お料理とっても上手ですね」
 牡丹は悪ガキ達を見守りながら、野菜を切っている女の子――ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)に話しかけた。
 ネージュは元々幼い外見をしており、普段でも子供に見えるけれど、今日はさらに小さく――4歳くらいの女の子になってしまっていた。
 小さな手の中にあるのは、子供用のセラミック包丁。
 手が小さくなったことと、慣れない包丁のせいでいつもより少し時間がかかってしまっているけれど、丁寧に野菜をカットしていた。
「できないこともありゅの……だから」
 ネージュは持ってきていた料理のレシピ手帳を牡丹に渡す。
「カレーのね、かくしあじとかおそとでのおいしいおこめのたきかたとかもかいてあるよ」
「とてもしっかり書かれてますね……。それじゃ、こちらを参考に皆で美味しいお料理作りましょう」
「うんっ!」
 ネージュは嬉しそうに笑って、切った野菜を鍋の中に入れた。
「んー」
 そして炒めようとするけれど、子供の手ではすっごく重い。
「あちっ」
 跳ねた油もいつもよりとっても熱く感じた。
「それじゃ、少し交換しましょう。ネージュちゃんは、こちらのサラダお願いできますか?」
「うん、サラダのつくりかたも、ネーしってりゅよ! じゃがいも、ちゃんとつぶせりゅよー」
 牡丹と交代して、ネージュはポテトサラダ用にジャガイモをホークで潰していく。
「ほんと、上手ですねー」
 牡丹は4歳時のとっても小さな手で一生懸命料理をするネージュに感心しながら、肉と野菜を炒めて水を入れた。
 それからもう一つ鍋を用意して、野菜スープを作っておく。
「んー、マヨーネーズ、こんなにかたいなんて〜っ」
 ネージュはマヨネーズを入れるのに苦戦していた。
「あじみだあじみー」
「せんせー、だっこしてーーー」
「おんぶでもいーぜーーー」
 飯盒を見ているのに飽きた悪ガキ達は、祥子や牡丹、ボランティアの女性たちにべたべた触れたり、料理のつまみぐいを始めていた。
 ぶひゅっ
「わっ!」
 ネージュが絞り出したマヨネーズが悪ガキ達の顔にヒット。
「わ、しみるー」
「せんせー、おふろー。いっしょにふろー」
「ちょっと、ああっ」
 悪ガキ達にだきつかれ、祥子の服が汚れてしまう。
「ほら、顔洗ってきなさい。もう……」
 そうこうしているうちに、料理やカレーは煮込まれ、出来上がるのだった。

 ご飯の時間は予定より少し遅れて始まった。
 野外のテーブルには、カレーライスに、皆で採ってきた山菜やお魚で作った「川魚のおかき揚げ」「山菜やキノコの天ぷら」「山菜やキノコの炊き込みご飯」が並べられていた。
 それから、ネージュと牡丹で作った、サラダとスープも。
「「いただきます!」」
 元気に言うと、子供達は一斉に食べ始めた。
 よほどお腹が空いていたようで、スプーンを口まで運ぶことさえ煩わしそうに、顔を料理に近づけて食べていく。
「うん、おいしくできてりゅ!」
 ネージュの顔がぱっと明るくなる。
「ええ、サラダもちょどよい味付けでとっても美味しいです。ふふ……」
 可愛らしいなあと子供達を見守っていた牡丹の皿に……。
「せんせー、はい」
「せんせー、ぱす」
「ぷれぜんとだ!」
 悪ガキ達がカレーの中に入っていた「人参」を入れていく。そして代わりに肉を持っていってしまう。
「もー、皆さん、人参嫌いなのですか?」
「あじないから」
「なんとなくー」
「にくのほうがすき!」
 悪ガキ達は鍋からも肉ばかり自分達の皿に入れようとする。
 他の子の迷惑になるとか、他の子も食べたいからダメだとか諭そうとしても、この子達には理解できないことはわかっている。
 じゃあそいつらも、奪いに来ればいいじゃんと、幼子の姿でも、普段の姿でも思うだろうから。
「他の皆さんはお行儀よく食べてますね。皆が食べられる物を食べられないなんて、カッコ悪いですよ〜。お肉を沢山食べるのなら、野菜ももっとどうぞ。それに、バランスよく食べた方が強くなれますし」
 にこにこ微笑んで、牡丹は悪ガキ達の皿に人参を戻していく。
「ちぇーっ、しゃーねーな」
「せんせーもたくさんくって、まるくなって、ぶらぬがっかりさせろよー」
「そーだそーだ、のこさずたべろよ〜」
 などと言いながら、悪ガキ達は牡丹の皿にも料理を乗せていくのだった。
「これ以上は食べられませんよー。でも皆さん、ちゃんとバランスよくよそれましたね。エライエライ!」
 そんな風に褒めてあげると、悪ガキ達はちょっと大人しくなった。
「ぼたんせんせー、こっちのもたべてー。さちこせんせーとつくったの」
 子供達が炊き込みご飯と天ぷら、おかき揚げを牡丹に差し出した。
「あとね、このころも、かきのたねなの!」
 目をキラキラ輝かせて子供が言う。
「すごい。おもしろいですねー」
 牡丹は驚いてみせながら、川魚のおかき揚げを貰って、口に入れて「美味しい」と微笑んだ。
 子供達はとっても嬉しそうに祥子に笑みを向ける。
「上手に出来たわねー、エライエライ」
 祥子も子供達を褒めてあげた。

 仲良く食事を楽しんだ後、子供達はお休みタイム。
 その間に、祥子、牡丹達引率で訪れた大人達は、子供達の顔に癒させらながら、台風の後のような状態になっているテーブルを片付けていくのだった。