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ホタル舞う河原で

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ホタル舞う河原で
ホタル舞う河原で ホタル舞う河原で

リアクション

「初夏の風物詩って言ったら、やっぱりホタル狩りだよね!」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)はそう言い切るなり、「というわけで」との言葉とともに、中身の入った紙袋をエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)に差し出した。
「え?」
 突然意味が分からないと首を傾げながらもとりあえず受け取ったエレノアは、紙袋の口を開いてなかを覗く。
 濃い水色の着物……浴衣だ。
「それ着て、夜8時に校門前集合ね!」
「え? ちょっと」
「ちょうど近くで夜祭りも開催されてるっていうし。そこ行ってから例の川へ行こう。あ、クラスのみんなにはこれから私が連絡しておくから!」
 じゃあ8時にね! ともう一度言うと、佳奈子はエレノアの返答も聞かず走り去って行った。
 だれがどう見ても、かなり強引だと思う。
(まあでも、律儀に着て待ってる私もどうかもしれないわね)
 浴衣姿で閉じた校門前に立っていると、彼女を呼ぶ佳奈子の声がした。
「エレノア、お待たせー」
 そちらを向くと、紺地に朝顔の花柄の浴衣を着た佳奈子が走ってきている。
「ちょっとあなた、下駄でしょ! 走ったら危ないわよ!」
 あわてるエレノアをよそに佳奈子は2人の間を走り切ると、笑顔ではあはあ息をはずませた。
「ごめんね、待った?」
「待った、って、あなた……。
 まあいいわ」
 けろりとした顔で「んっ?」と見てくる佳奈子に、エレノアは首を振る。
「それでみんなは?」
「さっきそこで合流して……あ、ほら。みんな、こっちこっちー」
 佳奈子と違い、下駄をカラコロ鳴らして歩いてくるクラスメイトたちと合流して、2人はまず夜祭りの会場へと向かった。


 数時間後。佳奈子は夜祭りで遊ぶのを切り上げて、一路ホタルがいるという川へ向かって土手の遊歩道を歩いていた。
 右手には夜店で釣り上げたゴムのヨーヨーをぶら下げて、左手に持った綿あめを食べながら、歩き回って痛くなった足を気にしつつ。でも行くのをやめたりはしない。
 エレノアは彼女が何度も足をさすっているのを目撃していたが、言ったところで聞くわけがないとあきらめて、黙って佳奈子の歩くスピードに合わせて横を歩いた。
「♪ホー ホー ホタル来い
 あっちの水は 苦いぞ
 こっちの水は 甘いぞ
 ホー ホー ホタル来い♪」
 期待に胸をふくらませ、待ちきれない様子で佳奈子が歌う。
「何それ?」
「地球の日本に昔からあるホタルを呼ぶ歌」
「甘い水? ホタルって水を飲むの?」
「さあ? 分かんないけど、水辺にいるってことは、そうなんじゃないかな」
「ふうーん」
 分かったような、分からないような。
 そんなふうに話していると、チカッと光るものが視界の隅で見えた。
「あっ、今の見た? あそこの辺りで何か光ったの。あ、ほら、あそこでも!
 みんな! ホタルいたよーっ」
 それから、みんなで下の河川敷へ下りて、舞い飛ぶホタルを観賞した。
 団扇であおいだり、飛んでいくあとを追ったり。なかにはホタルを追うのを中断して、川に足首まで浸かって暑さをまぎらわす者もいた。
 それを見て、エレノアが佳奈子もそうしなさい、と言う。
「足を浸けていてもホタルは見えるでしょ。それにここならホタルのいる場所から離れているから、彼らを驚かせたりすることもないわ」
「はーい」
 正直、足の痛みが結構限界まできていた佳奈子は、おとなしくエレノアが示す場所へ行って、足を水で冷やした。
「ねえエレノア」
 岸の方のホタルを見ながら言う。
「水がキレイな初夏の河原の近くに、ほんの数週間しか生きられないのが日本のゲンジボタルだったりするけど、パラミタホタルの一生も儚い命だったりするのかな?」
「さあ? でもどうしたの? いきなり」
「んー。私の田舎でも川岸が護岸工事とかで開発されて、なかなかホタルが棲みにくい環境になってるみたいなの。ほら、ここって守る会の人たちが保護してここまで増やしたって言ってたでしょ。やっぱりこっちもそうなのかなぁ、って」
「そうね。きっとホタルの棲息地は、なるべく荒らさないように近くから眺めるだけにするのが一番なんでしょうね。
 それでなくてもホタルというのは2、3週間しか生きられない命だし。静かに見守ってあげるべきだと思うわよ」
 エレノアの言葉に、佳奈子も「うん」とうなずいた。
「そうだね。私たちも、むやみに採ったり、ゴミとか捨てて水辺を汚したりしないようにしないといけないよねー」
 守る会に入って、日々の活動はできないまでも、そういうことで協力することはできる。
 そこまで考えて、ふと佳奈子は思いついた。
「今度クラスのみんなで、川の清掃をするのってどう思う?」
「そうね。2学期が始まったら一度クラス会で提案してみるといいかもね。学園の人たちでもここのホタルを見に来ている人は多そうだから、賛成してくれる人は多いと思うわよ」
「うん! じゃあそうしよう!」
 佳奈子は足を動かして、つま先でパシャパシャ水を跳ね散らす。
 夏休みに入ったばかりだけれど、今からもう2学期が始まるのが待ちきれなかった。






『ホタル舞う河原で 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
 当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。

 新聞で、ホタルが戻ってくる川にしようとしている人の記事を見て、いつか書いてみたいと思っていたテーマでした。
 ホタルっていいですよね。
 わたしの子どものころの夏の記憶には、ホタルがあります。
 とても小さな川でしたが、山から流れてくる川から夏になるとたくさんのホタルが舞って、家のなかへ入ってきたりと大変でした。
 その川も、住宅化でわたしが高校へ上がるころにはもう埋め立てられてしまい、ホタルは見られなくなってしまいましたが……。

 
 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回作はキャンペーン最終話と決まっていますが、その次か次の話で何かできないかと考えています。
 ぜひそちらでもお会いできましたなら幸いです。

▼マスター個別コメント