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【西暦2024年 10月某日】 〜英雄の慨嘆〜
「たっだいまぁ〜!あ〜、疲れた〜!!」
「何よセレン、ノックも無しに。しかも『ただいま』って……。ココは家じゃないのよ」
部屋に入るや否や、荷物をその辺におっぽり出して椅子に身体を投げ出すセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)を、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、書類から目すら上げずに咎める。
セレンとセレアナが、軍事顧問として四州に赴任したのは、昨日の事だ。
セレンは兵の訓練が、セレアナは軍務官の指導が、その任務である。
「何よ〜、もう!そんな細かいコトどうでもいいじゃない!疲れてるのよあたしは〜!」
「疲れてるのは、アナタだけじゃないんだけどね――まあいいわ。それで、どうしたの?」
この状態のセレンには、何を言ってもムダだろうと判断したセレアナは、大きなため息を一つ吐くと、聞き役に徹する事にした。
「どうもこうも無いわよ!2年ぶりの四州島勤務だと思って、気合入れて来てみれば、どういう事!屯田だかなんだか知らないけど、あれじゃまるでお百姓さんそのものじゃない!全然気迫がカンジられないのよ!」
「うーん、そうねぇ……。今の四州には仮想敵も無いし。国庫の現状を考えたら、食糧増産を優先しても仕方ないかもね」
「軍人の本分は戦よ!常在戦場よ!敵はいつ来るかわからないのよ!『いざ鎌倉』って時に役に立たなくちゃ、何のための国防軍かわからないわ!!」
「確かに、セレンの言う事はもっともだわね」
「でしょう!どうかしてんのよ、全く!!」
「うーん……。でもねぇ――……」
「でも、何よ」
セレアナの同意が得られたと思って気を良くしかけたセレンだったが、セレアナの「でも」という言葉に、途端に不機嫌な顔になる。
「私なんかは、だからアナタが選ばれたんだと思うけどね」
「どういう意味?」
「兵に活を入れるには、アナタが一番適役だって事よ」
「……なんで?」
「なんでって……。あなたは、『二岡関(におかぜき)の戦い』と『中ヶ原(あたるがはら)の戦い』で名を馳せた、いわば英雄なのよ?」
「ああ!そういう事ね!」
セレアナの言わんとしている事にようやく気が付き、セレンがはたと手を打つ。
「教官が英雄で、しかもこんな美女ともなれば、男たちのやる気に火が付かないはずはないわ。いい事セレン。あの腑抜け達を真の男に鍛え直せるのは、あなただけなのよ」
ことさらに『美女』の部分に力を込めて、セレアナは言った。
「そ、それもそうね……。まぁ、あたしにしか出来ないって言うんじゃ、しょうがないわね。せいぜい付き合ってあげますか!」
セレアナに持ち上げられて、セレンはあっさりとその気になった。
見る人が見たら、げんなりしそうなやり取りではあるが、この単純さ――と言って悪ければ純真さ――が、セレンの一番の魅力だと、セレアナは思っている。
「ところでセレアナ。なんかさっき忙しいような事言ってたけど、そんなに大変なの?」
機嫌が直ったお陰で、セレンはようやく、セレアナの置かれている状況に目が行った。
セレアナのデスクの上には、書類が山と積まれている。
「軍務官か素人同然でね。まるで使い物にならないから、一から再教育してるんだけど、その間事務が滞っちゃうから、私が代わりにやってるのよ」
「……なにそれ?先生が勉強教えるだけじゃなくて、生徒の宿題もやってるってコト?」
「何よその例え……。まぁ、大体合ってるけど」
「は〜……。大変ねぇ〜、セレアナも」
自分の事でもないのに、ウンザリした顔をするセレン。
「正直、教練の方がよっほど楽だわ――なんなら、変わってあげましょうか?」
「いえいえいえ、結構でございます!」
ブンブンと首を振って、全身で拒否の姿勢を表すセレアナ。
セレンは、それを見てクスリと笑い――
「ウソよ」
と短く言った。
「私も頑張るから、アナタも頑張って、鬼軍曹さん?」
「ウン、わかった!頑張るから……ご褒美ちょうだい?」
「もう……しょうがないわね。まだ職務中なんだから……少しだけよ」
セレアナは、するりと自分の膝の上に滑り込んで首に手を回して来るセレンを抱き締めると、熱い口づけを交わす。
二人はこの6月に結婚したばかり、まだ新婚ホヤホヤなのだ。
『少し』なはずの二人の口づけは、その後部屋の扉がノックされるまで、たっぷり10分以上は続いた。
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