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リアクション
【歌】
フレイムブースターが周囲の空気を揺るがし、白く輝くメタルボディを推進させる。
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がパートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)と空を駆るのは、友人のジゼルに会うためだ。
快晴のツァンダの空はまだ青いが、もう学園は一日の授業を終了している。このまま行けば学園か、その付近のアルバイト先の間で彼女をつかまえられるだろうと踏んでいたところで、ハーティオンの視界に海色の翼がひらめいた。
ジゼルが校舎の屋上に立っている。
「はろはろ〜ん♪ ラブちゃんが遊びにきてあげたわよ〜♪」
ゆるりと此方を向いたジゼルは腰に制服のブラウスを巻き、上半身はアクアマリンの欠片のついたチョーカーとキャミソールだけだ。
「げ、あなたそれ寒く無いの?」
ラブは暫く此処に立っていた様子の彼女に、翼をしまって服を着れば良いのにと眉を顰めるが、ジゼルは苦笑して首を振る。
「羽根出してる時は平気なの。私、人間じゃないもの」
けろりとしているのは暗い意味がある訳では無くただの説明だからだ。良い友人と愛する家族に囲まれた結果、今は自分の存在を認められるようになっていた。
「でも私みたいにパラミタで作られたり、産まれても、地球からきた人と真ん中の部分は変わらないって思ってたのに、
……私って皆の事分かった気になっていて、根本的なところが分かってなかったのね」
浮かない様子を見せる彼女に、ハーティオンとラブは顔を見合わせる。
「ジゼル、どったの?」
ラブが首を傾げると、ジゼルが眉を下げた。
「地球の人は何時かは地球に帰る時がくるのかなって……。
アレクやハインツからも、他の友達からもそんな事聞いた事無かったから、全然考えた事無かった」
隣に寄り添うように腰掛けたハーティオンとラブに、ジゼルは静かに話し始める。
「ふむ、なるほど。
キアラが地球に帰るというのは、今日だったのか」
以前に話の触りを聞いていたハーティオンが頷くと、ラブも戦いの最中に見たジゼルの友人のプラヴダのあの子かと理解して相槌を打つ。
「人は友人に中々会えなくなると、『心に穴が開いた』ように感じるという。
君も今、それを感じているのだな」
「心に穴があいた……うん。うん、そう……そんな感じ」
まさにその通りだと、ジゼルは何度も頷く。
「……君が別れが寂しいように、キアラもきっと寂しいはずだ。
だが「この場所では出来ない何か」を叶えるため彼女は地球に帰るのだろう」
「地球の軍隊の学校に入って、一から勉強し直したいんだって。
きちんと勉強する事で、皆を守れるくらい強くなりたいって言ってたわ」
「へーすごいじゃん! 立派立派!」
ラブはぱちぱち手を叩いて感心するが、ジゼルが「あとお給料が変わってエリートコースで昇進出来るよってハインツが教えてくれた!」と折角のエピソードをぶち壊しにしてしまうので、暫くきゃいきゃいと高い声が屋上に響いた。
ハーティオンはジゼルが思った程に落込んでいなかったのだと安心して、折を見て話しを続けた。
「それは君の大切な友人が寂しさを覚悟しても叶えようとする道だ。
成功を祈ってあげたいものだな」
「じゃあ、歌って祝福してあげないとね♪」
「歌……?」ジゼルがラブの言葉を繰り返した。
「……なにキョトンて顔してんのよ。
だってあんたも歌大好きでしょ?
あたし達歌が大好きで大好きで大好きで仕方ないアイドル軍団は、心を伝えるには歌うしかないでしょ♪!
大事な友達なら一番伝えたい気持ちを届けないと!
その為にはあたし達は歌うっきゃないっしょー♪」
ラブのからっと晴れた笑顔を見て、ジゼルはハッとしたように口を噤んだ。遠くを見たまま何かを考え込んでいる様子の彼女の肩をそっと叩いて、ハーティオンは「ジゼルよ」と、優しく呼び掛ける。
「例え遠く離れる別れがあったとしても、それは「別離」ではない。
どんなに距離があっても『心』が繋がっていれば何時だって友を感じることが出来る。
私はその事を地球やパラミタで出会った友人たちに教えてもらった。
君もきっとそうだろう」
ハーティオンの言葉を聞きながらジゼルがすっと立ち上がる。
彼女の視線の向く先には瞳と同じ海と空が有り、キアラが居る場所と繋がっていた。
姫星が『人は出会いと別れを繰り返して成長する』と言っていた。羽純が言うように『また会える』のだから、その日までにジゼルに出来る事は新たな道へ進む友人を応援をする事。歌を伝える事だ。
「忘れないで欲しい。
例えどんなに遠く離れる事があったとしても、私たちは皆君の友人だ。
君の幸せと笑顔を願っている。
そして君が笑顔ならば、いつだって君の『心』を感じられるのだ」
唇を開いて、冬の空の空気を吸い込んで、それがどんなに滓かな音でも想いが大切な友へ届くように――。
いってらっしゃいの気持ちを乗せた歌は、蒼い空へと溶け込んでいく。
「この蒼空の空の下、私たちは『心』で『繋がって』いるんだ」
*
風に舞う髪を抑えて、ジゼルは珊瑚色の唇をきゅっと上向きに結ぶ。
「――ハーティオン、ラブ、有り難う」
振り返って伝えた声は相手にぶつかる前に落ちた。そこにはすでに二人の姿は無かったのだ。
「きっと誰かのところへ行ったのね」
――さっきの自分のように助けを必要とする友達のところへ。
ふっと微笑んでいると、下から呼びかける声が聞こえてきた。弾けるような笑みで返事をすると、ジゼルはつま先で地面を蹴って翼を広げる。