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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 今日の桜井 静香(さくらい・しずか)はとても忙しかった。
「ええとええと、チョコの数、足りなくないよね、大丈夫だよね」
 バレンタインに静香校長を訪ねたいという生徒がたくさんいたからだ。
 静香はそれぞれに不平等が無いように、みんなに同じチョコを用意し、彼女たちが来るのを待った。


 静香の作ったチョコは、アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)と一緒に作りに行ったものだった。
「静香さん、一緒にチョコを作ってみない?」
 そう提案された静香だったが、あいにくアピスは料理経験がほとんど無く、静香もと言うことで、水城真菜のチョコ作りに一緒に参加することにした。
 シリル・クレイド(しりる・くれいど)も参加し、チョコ作りに参加していたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちとも合流した。
「誰に作ってるの?」
 アビスの質問にメイベルはにっこり笑って答えた。
「あづささんに作っているのですぅ」
 メイベルは同じ演劇部の先輩である井下あづささんにあげるために、チョコ作りにきたのだ。
「公演でお世話になった方ですし、仲の良い演劇部の友人ですから……色々聞きたいこともありますし、これを機会に会いたいので」
 実はチョコ作りに来る前、メイベルも自分でチョコレートケーキを作ってみたのだが……。
「残念なチョコが出来ちゃったんですのよね。メイベル」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はメイベルを慰めるように言った。
「まぁ、それでも上達してきてるからさ。手伝うからがんばろう!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が励まして、メイベルのために製菓用チョコレートを割ってあげる。
「そうだったんだ。それじゃ、みんなでがんばろうね」
 静香もメイベルを励まし、全員で一緒にチョコ作りを開始した。
 
「修学旅行のときはありがとう」
 アビスはチョコを刻みながら、静香にお礼を言った。
 夜眠るときに繋いでくれた手が……あの時はとても暖かかった。
「ううん、役に立てたなら」
 静香は、はにかんだような微笑を浮かべた。
「順調ですか?」
 真菜が声をかけてきて、作り方のコツをそれぞれに教えていく。
 それから数時間後……。
「できた!」
 冷蔵庫から取り出したチョコはなかなかの形になっていた。
「わぁ、おいしそう。わけてほしいなあ」
 覗いてくるシリルに静香はニコッと笑みを見せた。
「数がたくさんあるから、シリルさんにもあげるよ」
「ありがとう!」
 シリルがハートをいっぱい飛ばしながら、静香に感謝した。
 そして、アビスは出来上がったチョコを、綺麗にラッピングして静香に渡した。
「静香さん、いつもいつもありがとう。これ私からの感謝の気持ちよ。受け取って」
「わあ、ありがとう。大きいね」
 静香が楽しそうに箱を開けると、そこから小さなハート型のチョコがたくさんたくさん出てきた。
 アビスは心を表すハート型のチョコが、感謝の証として最も最上級の物だと思っていたのだ。
「メイベルたちは、できたー?」
 シリルが味見させてもらおうと、そそそっと寄ってみると、メイベルはふふっと笑った。
「はい、チョコトリュフがチョコレートケーキみたいに焼いたりとかがなくて楽だよって、真菜さんに教えてもらったので、チョコトリュフにしてみましたぁ」
 メイベルは微笑みながら、スプーンでチョコトリュフを差し出した。
「おひとついかがですか?」
「ありがとうーー!」
 シリルは喜んでチョコトリュフを受け取り、パクッと食べる。
 出来上がったチョコを持って静香はアビスやシリルと帰り、メイベルたちは演劇部に向かった。

「お久しぶりですぅ」
 メイベルの訪問を井下あづさは喜んだ。
 あづさはメイベル一行を迎え入れ、フィリッパはあづさに許可をもらって、お茶を入れさせてもらった。
 百合園女学院と言うと、女の子同士の恋もあるのだが……メイベルはあづさのことを友人と思っていたし、あづさもノーマルなので、お友達同士のほのぼのお茶会になった。
「イルマさんとはパートナー契約なさったんですかぁ?」
 メイベルの問いにあづさは首を振った。
 先にも書いたとおり、あづさはノーマルだが、イルマはあづさが恋愛対象、というちょっと複雑な状態にあった。
 しかし、メイベルはそれぞれの事情もあるだろうと思い、「そうなのですか」とだけ言って、あづさにチョコを渡した。
「チョコトリュフですが、どうぞ。私もシリルさんも味見したので、大丈夫ですよ〜」
 メイベルのその言葉に、あづさはくすっと笑う
「うんうん、本当に上達した」
 セシリアはそう褒めながら、みんなの前にチョコレートケーキを出した。
 メイベルが作って失敗したチョコレートケーキは、後でセシリアとフィリッパとメイベルで食べることにして、このチョコレートケーキはセシリアが作ってきたのだ。
 フィリッパが入れてくれた紅茶の手をつけ、あづさはメイベルたちにお礼を言った。
「ありがとう、とても楽しいバレンタインになりました。うれしいです」
 あづさのお礼にメイベルたちもうれしそうに笑顔を返すのだった。