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涙の娘よ、竜哭に眠れ

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涙の娘よ、竜哭に眠れ
涙の娘よ、竜哭に眠れ 涙の娘よ、竜哭に眠れ

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「チッ、寺院の連中か。わざわざご苦労様だな、おい」
 吐き捨てた恭也が、戦闘態勢をとる。
 地上部隊は、氷結に対する策を施しておらず、鋭い雨粒に疲弊しているようだった。さらには、降り注ぐ氷の槍をまともにうけ、殉教者のように磔になった者もいる。
 防御はもろい。
 だが、敵の武器は侮れそうになかった。
 地上部隊が携えるのは、ワイヤークロー。機晶爆弾。オニキスキラーといったパラミタ製の武器。それも、少なからず改造されているようだ。
 敵もまた、契約者たちの存在を察知すると、ところかまわずに一斉射撃をはじめた。


「長曽禰中佐! 大丈夫ですか!?」
 いきなりの戦闘開始に、心配になったローズが、長曽禰のもとへ駆けつけた。
「ああ。オレは平気だよ」
 すかさず岩陰にかくれ、反撃のチャンスを狙う長曽禰。
「九条は、オレたちが戦闘に専念できるよう、氷槍の除去を頼む」
「承知しました。ですが……」
 氷の槍を溶かすのは、問題なかった。彼女が持つスキル【我は誘う炎雷の都】。これで炎柱を発生させば、氷槍はただのぬるま湯に変わることだろう。
 それよりも、鏖殺寺院の攻撃が懸念される。改良なのか改悪なのかはわからないが、とにかく敵の武器には手が加えられていた。中佐を前線に送れば、危険な目にあうかもしれない。
 いっそ、【痛みを知らぬ我が躯】で、恋人の盾になろうと思ったローズだが。
「それは止めてくれ」
 彼女の意図を感じ取って、長曽禰が制した。
「九条の痛みは、オレが知っている。それをわかってほしい」
 長曽禰が、ローズの肩を優しく叩く。その掌が語っていた。「オレを信じろ」と。
 彼は目尻にしわを寄せて、ローズに微笑みを向けると、すかさず前線へ駆け出していった。


 銃撃をかわしながら、長曽禰は敵の陣営へ近づいていく。
(さすがに……体のキレは鈍ったな)
 そう自嘲する彼だったが。肉体の衰えは、技術でカバーしていた。

 中佐をフォローするように、恭也が雨粒をもろともしない二足戦車で突き進んでいた。敵の改造ワイヤークローに対して、彼も【剛神力】を繰り出していく。
 恭也と同時に飛び出していたルカは、『ジュニアメーカー』を使って、10体の分身を召喚した。
 ミニルカちゃんが10人。かわいい!
 などと言っている場合ではない。山椒は小粒でもぴりりと辛いなら、ルカは小人でも激辛だった。
 10人のミニルカちゃんが構成員を囲むと、敵は身動きがとれなくなる。
 その隙をついて、ルカが超加速。一気に間合いを詰めると、シーリングランスで薙ぎ払った。
「――まだ、続ける?」
 クスッと笑った彼女の前には、無力化された構成員たちが平伏していた。

「俺達に敵対した代価は高いぞ」
 冷徹に言い放ったダリルは、光条機関銃で敵集団を蜂の巣にしている。
「ちょっと、ダリル。殺しちゃダメよ」
「言われるまでも無い」
 ダリルは事もなげに返答した。
 銃弾を浴びて、腹部からモツ的な何かを、べろんと出している構成員もいたのだが。
 それでも、彼なりに手加減をしているのだった。



 一方。
 忘れてはならないのが、葛城吹雪の動向である。
「これが完成すれば国軍とも戦えるであります! 絶対に守り抜くでありますよ!!」
 そんなことを言いながらトラックを走らせるが、戦場の流れ弾を浴びて、タイヤをひとつパンクさせてしまった。
「進路を変えるであります!」
 吹雪は、あわててハンドルを切ると、ガタガタと揺れるトラックを操縦した。
「あ。ひとつ言い忘れていたが」
 ぼんやりと行き先を見つめていたイングラハムが、助手席で警告する。
「そっちには、我の掘った穴があるのだよ」
「な……なんですとー!」
 そういうことは早く言えとばかりに、イングラハムの頭を叩く吹雪。
 もはや、時すでに遅し。
 イングラハムの穿った穴にはまると、車体はグラリと傾き、そのまま山腹を転げ落ちていった。
 回転するトラックの荷台からは、せっかく集めたアトラスの瘡蓋が撒き散らかされていく。
「ぬわーっ!」

 あえなく、吹雪の野望は潰えた。
 彼女にとって不幸中の幸いだったのは、イングラハムの柔らかい体が、エアバッグになってくれたことである。