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空を観ようよ

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空を観ようよ
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ニューヨークにて

 2025年秋。
 地球のニューヨークに契約者の家族が訪れていた。
「ほら、こっちこっち」
「……うわー」
「おー」
 一向はバッテリーパークからフェリーに乗り、リバティ島を目指していた。
 リバティ島には、そう。アメリカ合衆国の自由と民主主義の象徴、自由の女神が在る。
 金元 シャウラ(かねもと・しゃうら)に誘われて、フェリーの最上階にやってきたシャウラの妻の金元 ななな(かねもと・ななな)、それから、シャウラのパートナーのユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)は、近づく自由の女神のを見て歓喜の声をあげる。
「これが本物の自由の女神かあ……。頭の上に登ったりできるの?」
 期待の目で、ななながシャウラを見る。
「あー……やっぱりか」
 なななならそう言うと思ってたぜと、シャウラは『王冠展望台へのチケット』を見せた。
「うわー、やった!」
「さすが、シャウラ用意がいいぜ」
 なななは飛び上がって喜び、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)がにやりと笑う。
「結構大変だったんだぜ、これ凄い人気で」
「でしょうね……」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)は、自由の女神よりも、フェリーにいる人々、島にいる人々に圧倒されていた。人間の多さに。
 シャンバラに住まう吸血鬼であるユーシスにとって、初めての地球旅行だった。
「先に行っておくが、中は狭いぞ。登ったと思ったら、直ぐ降りなきゃなんないし」
 シャウラがそう説明するが、なななの目は期待で輝いていた。
「では、私は下で待ってますから、展望台には皆さんで行ってきてください」
「えーーーーーーー」
 なななが不満そうにユーシスを見る。
「おっ、なななの一緒に行きたい光線発動! さあ、ユーシス、どうする?」
「あまり無茶いうな、ユーシスは年寄りなんだし」
 シャウラはからかい気味に、ナオキは悪戯気に言った。
「わかりました、ご一緒させてください。……その光線眩しいですから(決してナオキの言葉に意地になったわけではなく!)」
「やった」
 ななながシャウラを見上げ、シャウラもやったな!と、なななを見て微笑みあう。
「やっぱそうじゃなきゃな!」
 ナオキは笑いながらペンッとユーシスの背を叩き、ユーシスはため息をひとつ、ついた。

 先頭はななな、その後ろにシャウラ、そしてユーシス、ナオキの順番で登っていく。
 クラウンへと続く螺旋階段はシャウラが言っていた通りとても狭くて、目が回りそうだった。
 段数も300段以上あったが、契約者のシャウラ達にはそう大変な距離ではない。
 とはいえ……。
「ふわー……っ」
 一番に到着したなななは、疲れたーというように大きく息をはいて。
 それから、窓に近づいて景色を見る。
「ここ冠の中なんだよね?」
「そうだよ」
 シャウラがなななの後ろから近付く。
「よっと、久しぶりの景色だな」
 ナオキは別の窓から懐かしそうに景色を眺める。
 ユーシスはスタッフからの説明を熱心に聞いていた。
「ゼーさんたちは、よく登ってたの?」
「登ったことはあるけど、そんなに何度も登った記憶はないな。ナオキもだろ?」
 シャウラがナオキに目を向けた。
「ああ、前来た時とは、少し景色が変わってるな」
 シャウラと強化人間のナオキはハイスクール時代の同級生だ。
 ここニューヨークは2人の故郷なのだ。
 ナオキはカメラを取り出して風景を何枚か撮ったあと。
「じゃ、3人で並んで」
 そう言うと。
「全員で!」
 と、なななが言い、近くにいた観光客にシャッターを頼んだ。
「しかし狭いなー」
「よし、ななな、しゃがむよ」
 体の小さなななながしゃがみ、その後ろに男性3人が立つという姿が、写真に収められる。
 写真を撮り得たら、もう終了の時間で。
 4人はまた狭い螺旋階段を使って、地上へと下りていった。

「女神in女神だ!」
 バッテリーパークへと戻り、ナオキのデジカメの写真を確認したシャウラは、1人大しゃしゃぎ。
「女神in宇宙刑事でしょ、ゼーさん」
「なななは宇宙刑事だけど、俺の女神なの」
「もー、ゼーさんてば」
 ……そんな風に2人が楽しそうにしている間に、ナオキとユーシスがホットドックを売っている屋台を見つけて、手を振ってきた。
 4人は食べ物と飲み物を購入すると、ベンチに腰かけて、ちょっと休憩をすることにした。
「いただきまーす」
「お、美味そう!」
 シャウラとナオキは包み紙を開いてすぐ、ホットドッグを口に運ぶ。
「おっきー。汚さないようにしないとね!」
 なななは零さないよう、慎重に食べていく。
「…………」
 一人ユーシスは包み紙を開いて、唖然としていた。
 大きいとは思っていたが、それだけではなく。
「なんですかこの赤と黄色の模様は。中身が見えないほどに……」
「ケチャップとマスタードだろ?」
 ナオキの言葉に、それはわかってます、とユーシスは答え、不思議そうな顔のまま、シャウラ、ナオキを見て食べ方を確認し、自分の口に運んでみる。
「大きいというかなんといか……さっきのフライドポテトにも何か色々かかっていましたよね。名物だというので朝ごはんに食べたハンバーガーも『こーんな』大きさでしたし……」
 片手で大きな円を書いて見せる。
「そこまで大きくなかったよ……でも、なななにも大きすぎたかな」
「なななが食べきれなかった分は、俺が食べるし」
「うんっ」
 とか言って、ケチャップを顔につけながら微笑んだり、ケチャップを拭き合ったりしている、シャウラとなななの姿にため息をつきつつ、ユーシスはかぶりつく場所を変えてみたり、包みを巻きなおしたりしながら、ホットドッグの攻略に四苦八苦していくのだった。
「この後、シャウラ達はどうすんだ? 俺とユーシスは美術館に行く予定だけど」
 シャウラとなななは4人の子供を、シャウラの実家に預けている。
 そのため、遅くまで遊びまわるわけにはいかないのだ。
「帰るけど、その前に」
 シャウラは実家に電話をかけて、子供達の様子を確認する。
 今はお昼寝中とのことだ。
「ニューヨーク市警察の元職場をちょいと掠めてから帰るけど、いいかな?」
 とくにトラブルは起きていないので、夕食前までに帰ってきてくれれば大丈夫とのことだった。
「それではすみませんが、私たちは美術館巡りをさせていただきます」
「……」
「……」
 ケチャップとマスタードを顔につけて、ユーシスが言う。
 美形で生真面目な彼のそんな顔に、なななとナオキは笑いそうになるが笑っちゃいけないと、ひそかにお互いをつねりあう。
「ナオキ、案内頼みますよ」
「お、おお。ユーシスは地球の歴史や美術品に凄く興味があるんだよなー。けど、俺もシャウラもそういうのは門外漢なんだよなあ。アメフトや野球の話ならまかせとけなんだが」
 ちょっと苦笑しながら電話を終えたシャウラの方を見る。
「そうそう! 俺達ガキん頃、大リーガーになりたかったんだぜ」
 目を輝かせながら、シャウラとユーシスはアメフトや野球の話をしだした。
 ユーシスは理解が出来ずぽかんとした表情で二人の話を聞いていた。
「……っと、悪い。美術館楽しんで来いよ」
 昔話で少しだけ盛り上がった後、シャウラは大人の顔に戻る。
「それじゃ、また明日ね。ちゃんと顔を拭いてから行ってね」
 なななはシャウラと一緒に立ち上がり、ユーシスにティッシュを差し出した。
「え……あ、はい。ありがとうございます」
 顔にべっちょりケチャップとマスタードがついていたことに気づき、ユーシスは赤くなった。
「明日は俺の実家行こうな、楽しみにしててくれよ」
 ホットドックの包み紙を丸めつつ、ナオキが言った。
「うん」
「ああ」
 笑顔で頷き、シャウラとなななは手を繋いで歩いて行く。
「それじゃ、最初は世界最大級のあの美術館からだな」
 ナオキがぽんとユーシスの肩を叩いて立ち上がる。
「ええ、とても楽しみです」
 ユーシスが、子供の様に期待に目を輝かせる番だった。新旧の芸術作品が観られる大きな美術館を駆け足で回る予定だ。

 夜にはまた皆で集って、今度はユーシスの訳の分からない話に、皆がぽかんとして。
 それからまた笑い合うのだろう。