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空を観ようよ

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空を観ようよ
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絵画のような街

 2025年秋。
 シャンバラから地球に旅行するには、莫大なお金がかかる。
 だから普通の学生が旅行で簡単に訪れられるような場所ではない。
 無論、様々な仕事を請け負っている契約者ならばその限りではないが……。
(ここか、ここがスイスなのか……)
 風馬 弾(ふうま・だん)は、列車の外に見える風景に感動を覚えていた。
 彼は春に、高等部を卒業予定だ。
 卒業旅行の為にと、バイトや事件解決で1年間必死にお金を溜めたお金で、恋人のアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)と共に、地球のスイスに訪れたのだ。
 そして今は、アゾートの出身のルツェルン湖地方へと向かっている。
「ああ……なんかもう……感動で言葉もでないよ……」
 アゾートと2人だけでこうして旅行が出来ていることだけでも夢みたいなのに、窓の外から見える風景は次第に壮大になっていっく。
「うん……なんか、たまに戻ってくるといいよね。気持ちが落ち着くというか」
 アゾートも言葉少なく、窓の外を見ていた。

 ルツェルン中央駅で降りた2人は、駅の外へ出て歩き出す。
「うわ、なんか門みたいなのがあるよ? お城みたいな建物も」
 周りの建物を確認して驚き。町並みを見て、絵の中の世界のようだと、驚き。
 弾はきょろきょろし通しだった。
「危ないよ」
 アゾートはそんな弾を心配して、手を握ってくれた。
 それからは、弾は少し大人しくなりアゾートと微笑みあって、ゆっくり歩いて行く。
「お勧めの食べ物って何かな?」
「そうだね……郷土料理の店、入ってみる?」
「うん」
 アゾートの案内で、2人は老舗の郷土料理の店に入った。
「弾くん、嫌いなものは?」
「大丈夫、何でも食べられるよ!」
「そう、それなら定番の、ルツェルナー・クーゲリパステーテにしよう」
「うん!」
 どんな料理なのかと期待に胸を膨らませながら待っていると、大きなパイが届いた。
 サクッとしたパイの中には、牛肉のクリームソース煮が入っている。
「あ……」
 ナイフですぐに崩してしまった弾とは違い、アゾートは綺麗に食べていく。
(綺麗だよなぁ……)
 アゾートが食事をする様子に、弾は見惚れていた。
(綺麗で冷静沈着なアゾートさんの幼少期とか、全然想像つかない……。
 走り回ったり、駄菓子を買ったり、カエルやトンボを放り投げたりとかはしなそうな……。
 子供の時から美人だったのかなあ……)
「……どうしたの? 手が止まってる」
「え? あ、えっと」
 去年の今頃ならわたわたしてしまって、まともなことは言えなかったかもしれないけれど。
 当時はより落ち着いて、会話が出来るようになっていた。
「アゾートさんは子供の頃、どんな子だったのかなって思ってたんだ」
 ちょっと赤くなって笑いながら、弾はジュースを飲む。
「今とあまり変わらないよ。家の中で本を読んでる事が多かったかな。顔も多分、今のボクを子供にしたようなカンジだと思う」
「そっか……」
 アゾートの小さな頃の可愛らしい姿を思い浮かべ、弾は一人幸せな気分になっていた。
「弾くんは? どんな子だったの」
「え……僕も今とあんまり変わらないかな。
 両親と姉がいたんだけど、事故で亡くなって、その時とても小さかったからよく覚えてないんだよね。
 それを引きずらないくらい……ぼーっとのんびりした子供だったともいえるのかな。
 のんびりしてても、アゾートさんと知り合ったりだとか、良いこともあるね」
 そう微笑むと、アゾートも微笑みを浮かべた。
「確かに弾くんは少し天然というか……のんびりしているところがあるけど、堅実でしっかりしているところもあるよね。こうしてお金溜めて、連れてきてくれたし……とっても嬉しいよ」
 アゾートの言葉に、弾は照れて赤くなってしまう。

「どういうところに行きたい?」
 食事後、歩きながらアゾートが弾に尋ねる。
「今日はこの絵画のような街を散策して、明日は自然が見れるところに行きたいかな」
「それじゃ、カペル橋の方に行ってみようか。それから展望台にのカフェで、人気のスイーツを食べよう」
「うん」
 弾はそっとアゾートの腕に、自分の腕を絡めた。
「えへへ」
「ふふ」
 付き合い始めたばかりではないのに、お互いちょっと照れてしまう。
「アゾートさん、あのね」
「ん?」
 弾は青く広がる空を見上げた。
「空って、スイス、日本、パラミタ……どこまでも果てしなく続いてるんだよね」
 地球の空が見れるのは西シャンバラだけだけれど、地球の空とパラミタの空も、見上げれば繋がっているのだ。
「楽しい時間や物語には必ず終りが来る、だけど新しい物語は続いていくと信じたいよね。空が果てしなく続くように」
「うん」
「そんなどこまでも続く物語をアゾートさんと綴って行きたいと思う。ずっとねっ」
「そうだね」
 そして街でみかける多くのカップルと同じように、腕を組み、手を繋ぎ、時には寄り添って。
 美しい街を一緒に歩いていくのだった。