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第42章 歓迎祝賀パーティー

 ラズィーヤ・ヴァイシャリーの私邸では、百合園女学院生や離宮調査に関わった者達が集まって、転校してきた十二星華のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の歓迎と、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の帰還を祝うパーティが行われようとしていた。
「あの……私、やっぱりもう少し後に……せめて、優子さんが来てからが……」
「何言ってんだよ、主役がいないと始められないだろ」
 主役の一人であるアレナは、一緒に離宮で眠りについていた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)と共に会場に現れた。
 途端皆の視線が集まり、拍手が沸き起こる。
「!!!!」
 アレナは真っ赤になって、康之の後ろに隠れてしまう。
 こういう時、どうしたらいいのか分からないらしい。
 そんなアレナの姿に、淡い笑みを浮かべた後。
「やあ皆、今日は俺の為に集まってくれてサンキューーーー! 握手でもサインでも遠慮なく何でも言ってくれ〜」
 康之は前に出て、両手を広げ、ちょっとおどけて皆にそう言った。
「主役はお前じゃないぞー」
「さがってろ〜」
 会場にいた男子が、笑いながら野次を飛ばしてくる。
 女の子達も笑いだし、会場には笑顔があふれていく。
「……うわ……っ」
 アレナはなんだかすごいなと思いながら康之の後ろから、彼を見上げていた。
「おっ。もう一人も到着したようだけど、こちらも派手な歓迎は苦手そうだよな」
 言いながら、康之が道をあける。
 会場へ現れたのは、桐生 円(きりゅう・まどか)と、もう一人の主役であるパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)だった。
 パッフェルは円を追って百合園に転入したらしく、円の傍にいることが多い。
「こちらのテーブルにどうぞー」
 受付を担当しているマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)を手伝い、スタッフとして参加している崩城 理紗(くずしろ・りさ)が、テーブルに案内していく。
 多くの人が関われるようにと、アレナとパッフェルのテーブルは離してあった。
 とはいえ、立食、バイキング形式のパーティなので、移動は自由だ。
 皆の拍手に、円は少しばつが悪そうに会釈をしてテーブルへと向かい、パッフェルも円の真似をして軽く頭を下げると円についていく。
 円は離宮の事件の際、ヴァイシャリーを罠に陥れた組織の一員、ソフィア・フリークスと契約を結んでいたから。
 離宮を護ったアレナの傍には、居づらい気持ちもあった。
 本当は自分はこの場にいてはいけないのかもしれない。
 だけれど、パッフェルも自分が罪人だということを気にしている面もあるから……そういう感情を表してはいけないと思って。
「パッフェル、色々教えてあげるね」
 今はアレナに近づくことなく、楽しい場を崩すことをしないよう心がけ、円は笑顔を見せていく。
「ヴァイシャリー家の一人娘のラズィーヤさんは百合園の実質的なトップだから、仲良くしといたほうがいいかも」
 円の言葉に、パッフェルは素直に頷いた。
「校長はロザリンとラブラブ……たぶんマスコットだね」
「マスコット……」
 百合園の校長の桜井 静香(さくらい・しずか)は可愛らしい服を纏い、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)と共に、中央付近のテーブルにいた。
 2人の周りには、沢山の百合園生が集まっている。
「あと……鈴子さんは人望がある人。優子さんはアレナのパートナーで、真面目で不器用な人」
 白百合団の団長である桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)と共に、奥のテーブルにいる。
 そして、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は今訪れたところだった。
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に迎えられ、アレナと合流をする。
 アレナはほっとした表情を浮かべた。
 ……パッフェルは円が紹介してくれた人物を一通り見回して、軽く首を縦に振る。
「……知って、る。転校した時に、挨拶、してるから……。アレナは、聞いたことある、名前……」
 百合園の要人より、アレナの事の方が良く知らないようだった。
 パッフェルは、ティセラとセイニィ以外の十二星華と親しくなったこと。そしてアレナが古代シャンバラ時代も、非常に控えめで陰が薄く――さらに、名前なども過去とは違うことが原因のようだ。

「おう、優子」
 スキンヘッドの男達が優子とアレナに近づいてきた。
 若葉分校番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と、分校生達だ。
「吉永……今日は随分と落ち着いた服装だな」
 優子がグラスを手に微笑む。
「特別な祝いの場だからな。良く帰って来たなァ」
 竜司がアレナに目を向ける。
「お久しぶりです」
 アレナが優子の後ろで、ぺこりと頭を下げた。
 分校生からもアレナの帰還を喜ぶ声、優子への祝いの声が上がっていく。
 アレナはちょっと照れながら、優子を見上げて微笑んだ。
「また2人でそちらに伺わせてもらうよ」
 優子の言葉に、分校生達から喜びの声があがる。
 そして、彼らはアレナの皿に食べ物を次々に乗せ、グラスにあふれるほどジュースを注いで、飲食を進めていく。
「今日はアレナの祝いとして来たわけだが、おまえを誘ったのにはわけがある。……ホワイトデーだからなァ、グヘヘヘヘ」
 竜司は上機嫌で笑みを浮かべながら、懐の中から青い袋を取り出した。
「パンジーの礼だ」
「ありがとう。気を使わせてしまったな」
 優子は微笑して袋を受け取った。
 ……袋の中にはCDが一枚入っていた。
 そのCDには、歌『吉永竜司』と書いているではないか!
「直ぐに聞けるよう、持ってきたぜェ」
 竜司がCDプレーヤーを前に出す。
「……いや、今聞くのは、遠慮しておく」
「遠慮はいらねぇぜ! 何時もより心を込めて歌ったからな。優子の為のCDだぜェ」
「そ、れは嬉しい、けどな。そう、家に帰ってからじっくり聞きたいんだ。一人で」
 再生を止めようと優子は必死になる。
 竜司はものすごくとてつもなく音痴だから。
「遠慮するなってー」
 自分の歌を独り占めしたいなんて、なんて可愛いことを言うやつだ。惚れられまくってこまるぜ……などと思いながらも、もう一人聞かせたい相手がいるので、竜司はCDをその場で再生した。
 ボリュームはもちろん最大。
「……っ」
 ここで歌われるよりましだと、優子は覚悟を決める。
 しかし、流れてきた歌声は……竜司の太い声ではなかった。音程は外れまくっているが。
「ヘリウムガスを使って録ったんだぜ! 幸せの歌だからなァ。こっちの方が合うだろォ」
 そんな彼の説明に「はあ」と答えて、優子は息をついた。
「ふふ、可愛い声です……」
 アレナは笑みを浮かべている。
「本当に良かったなァ」
 竜司が微笑みを浮かべるアレナと、ほっとした表情の優子にしみじみと言うと。
 2人は同時に頷いて、同時に顔を合わせて微笑み合い。
 それからまた竜司の方を見て、「ありがとう」「ありがとうございます」と礼を言ったのだった。
「ところで、国頭はどうした? 一緒に来るって聞いていたんだが」
 優子は分校生達の中に、離宮の際に世話になった国頭 武尊(くにがみ・たける)の姿がないことを気にしていた。
「ン? 受付までは一緒だったんだけどな……。どこ行ったんだァ?」
 竜司は会場を見回してみる。
 しかし、武尊の姿は発見できなかった。