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第40章 接近

 ヴァイシャリーにある刑務所に、ろくりんくんとして、慰問に訪れていたキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は、そこにクリス・シフェウナが収容されていると知り、面会を申し込んだ。
 クリスは拒否することはなく、キャンディスが待つ面会室へと姿を現した。
 二人の間には、透明のアクリル板。部屋の中には刑務官の姿もある。
 直接の差し入れや、密談などは行うことが出来ない。クリスは重犯罪者であるため、監視も厳しい。
「元気出してね〜」
 暗い顔のクリスにキャンディスは小声で語りかける。
「みんなには内緒だけどね、ミーも最近、シャンバラ刑務所に収監されてたのよ、仲間よね。ちゃんと、お勤め終えればまた百合園に戻れるわよ。刑務所の刑期は更正を終えた印よ、釈放されたときには、胸を張るのよ」
「……」
 キャンディスを訝しげに見ていたクリスの顔が、少し和らぐ。
「会った時から思ってたけど……。あなたって変な人よね」
 わざわざ口に出さずとも当たり前のことである。
「あの時、私をとことん邪魔してくれたわよね。あれは本当に善意だったのかしら? そして、今も本当にそう思ってるの?」
「もちろんよ〜。ミーはクリスさんに復学してほしいのよ〜」
 キャンディスには百合園の校門を堂々とくぐるという夢がある。
 百合園へは頻繁に行ってはいるのだが、いつも校門で追い返されてしまうのだ。
 ここでクリスと仲良くなっておけば、彼女が復学した時に、学院に誘い入れてくれるのではないかという期待があった。
「言っておくけど、私あなたの事嫌いよ」
「わかってるのよ。ミーは全然気にしないのね」
「ええっと、迷惑なの」
「みんなそう言うネ。でもミーは全然気にしないのね」
「気にしろよ!」
 クリスが何故か言葉を荒げる。
「まあ、とりあえず、邪魔はしないでよね。もう別に、百合園生に危害を加えることもないし」
「そうヨ。ちゃんとお勤めを終えて、戻ってくるのよ。ミーはいつでも、百合園の校門前で待ってるヨ」
 キャンディスが声の調子を変えずにそう言うと、クリスは深いため息をつく。
「うーん……。あなたと話していると、本当に調子狂うわ」
「健康第一ネ。調子悪くなるようなことしたらだめよ」
「だから、調子がくるってるのは、あなたのせいだって……。もう」
 クリスは苦笑する。
「変な人。こんな態度でも……いくら拒絶しても、私を気遣ってくれるのね。……本心かどうかは分からないけれど、まあ、ありがと」
「何か困ったことはない? 出来ることは限られてるけどネ」
「何もない。だけど気が向いたらまた慰問に来てくれると嬉しい。退屈だから。……あと、晴海は私と違って、短期で出られると思うから。彼女が出所したら、よろしく頼むわね。むしろ彼女の邪魔をしないでという意味で」
「了解したね〜。任されたヨ」
 それから、くだらない話をしたりして、キャンディスはクリスを励まし続けた。
 彼女は観念したかのように、次第にキャンディスに笑みを見せたのだった。
「このあと百合園のパーティーに行くけど、誰かに伝言あるかしら?」
 最後に、キャンディスがそう尋ねると、クリスは目を逸らして首を左右に振った。
「そう、それじゃまた来るね〜」
 キャンディスは再訪の約束をして、その日は帰っていった。