天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

蒼空学園へ

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション公開中!

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション

 第30章 チェラ・プレソンにて4 〜よそよそしさの答え〜

 そろそろ帰ろうか、という頃合になって。
「ピノちゃん! こ、これ……作ってみたんだけど……」
 諒は、ピノを呼び止めると小さな包みを差し出した。中には、クッキーが入っている。
「? あたしに?」
「う、うん……と、友達だから! 友達だから、あの……」
 前半はピノに、後半は、保護者的威圧感を醸し出しているラスに向けて、友達だからを強調する。
「うん、ありがと、諒くん!」
 ピノは、それを普通に笑顔で受け取った。ラスはそれを、苦虫を噛み潰したような気分で見届ける。
(ったく、これだからバレンタインってやつは……!)
 トライブは自分をお義兄さんとか言い出すし、ピノに変な虫が付かないように今まで以上に気をつける必要がある。男女異性交遊とかまだ早い。誰が何と言おうと、まだ早い。
 そう思っていたら、シーラが店から箱を持ってやってきた。彼女は、ピノの前で立ち止まって柔らかに微笑む。
「ピノちゃん、チョコレート、まだ渡してませんでしたよね〜」
「あ、うん、ありがとう! ……あれ? ファーシーちゃん達には?」
「もう渡しましたわ〜。ファーシーさんとアクアさんには制服の準備をしてる時に、ラスさんにも先程〜」
「……!? あれ、全員に渡してたのか!?」
「うん、もらったわよ? ねえ、アクアさん」
「……ええ、まあ」
 話を聞いて、ファーシーとアクアもそれぞれに箱を出す。何と、全て同じだ。素晴らしきかな、義理だ。
「みなさんに、と思って作りましたから〜。……何か?」
「別に……」
「あ、ラスさん、自分もバレンタインのプレゼント持ってきたんだ。今年はマフィンにしてみたよー、ピノさん2人で食べてね!」
 そこで、ケイラもケーキの箱を出して差し出してくる。買った物ではなく、家から持ってきていたものだ。
「日頃の感謝を込めて作ってみたよー。今日、付き合ってくれたお礼だと思って受け取ってくれると嬉しいな。今年もよろしく」
「お、おう……」
「ピノさんとファーシーさんには、エプロンセットも作ってきたよ」
 そして、ケイラはピノにうさぎの三角巾、ファーシーに犬の三角巾がついたエプロンドレスを渡した。色も、2人に似合いそうなものを選んである。
「お揃いなんだよ、皆でお料理作れたらいいなって」
「うわあ、かわいい……そうね、今度一緒に作りましょう!」
「ケイラちゃん、ありがとう!」
 それぞれにプレゼントを渡して、受け取って。
 2月14日も、あと少し。

              ◇◇◇◇◇◇

 ――そして、キャンペーンガールとしての仕事もつつがなく終わる。
 皆が帰り支度をする中、未散はハルにこっそりと声を掛けた。
「あ、あの……ハル、ちょっといいか?」
「なんでしょう?」
 ハルは荷物をまとめる手を止め、未散についてくる。案内した場所は、店の裏口。
(よし、誰もいないな……!)
 周囲をきょろきょろと見回して、それから未散はハルに向き直った。小型のポシェットの中から取り出したのは、赤い包装紙で包まれた箱。
「ほら、これ。まだ、渡してなかったよな」
「……!! ありがとうございます……!!」
 毎年、気軽に渡してきた義理チョコ。今年は忙しかったし貰えないと思っていたのかもしれない。感動すら伝わってくるようなハルの喜びようを見て、そう思う。
「今年は、手作りだから」
 彼から目を逸らして、早口で言う。
「そうでございますか、手作り……、てづくり!? そ、それは……!」
「……だから、その……これは義理でも友チョコでもないっていうか……」
 恥ずかしそうに、ぼそぼそと。チョコレートを持ったまま、驚いた表情のまま、ハルは固まっている。
 ずっとずっと、変わらなかった関係。あたりまえだった関係。そこで突然、「義理じゃない」チョコレートを渡されても、戸惑ってしまうかも。
 だけど、これだけは話しておきたい。
「最近やっと気付いたんだ。今まで落語以外に目を向けたことがなかったからよくわからなかったんだけど、私はハルのこと、幼馴染とか腐れ縁とかそういう関係以上に思ってるのかもしれないって……」
「…………」
「お前は迷惑かもしれない。いつまでも手のかかる面倒な女に付き合っててさ。……いつも思うんだ。私がお前の枷になってるんじゃないかって。私なんかより、お前に相応しい人はたくさんいる。そういう人のところに幼馴染としてお前のこと送り出さなきゃいけないんだってわかってる。……それでも、お前のこと手放したくない」
 茫然としているように見えるハルを見上げ、未散は一気に言った。
「わがままだってわかってる……けど、ずっと傍にいて欲しいって思っちゃうんだ」
「未散くん……」
 それは、さっきハルがセルシウスに告白したこと。未散をわたくしだけのものにしたい、彼はそう言った。自分だけだと思っていた。一方的な想いだと。
 でも、違った。2人はお互いに、まったく同じ事を考えていたのだ。
 これが、彼女がよそよそしかった、答え。
「なんでこんな日にこんなこと言ってんだろ……ごめんな」
 未散はそして、困ったような笑顔を浮かべる。
 バレンタインは特別な日。恋人と過ごす日。友人と親交を深める日。ほんの少しの勇気で――前に進める日。
 このチョコレートで、ハルが腹痛と戦うことになるのはまた別の話である。