天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

蒼空学園へ

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション公開中!

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション

 第33章 タシガンの夜景を背景に

「夜景が美しいな」
「まあ、悪くはないだろうな」
 タシガン市内にあるホテルのロイヤルスイート。ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)は、彼等の美しさを引き立てるような洗練さを持つ豪奢かつ大きなソファセットに座ってタシガンの夜景を眺めていた。2人を招待したのは、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)。それぞれの前に淹れたての紅茶を置くと、エメ達もソファに座る。ジェイダスたちの真向かいだ。
「ご満足いただけて何よりです」
 ティーテーブルにはエメ作のクッキーや軽くチョココーティングされたスティック菓子、フルーツサンドイッチやカナッペなどが用意されている。どれも甘さの抑えられた軽食だ。
「今日はお疲れ様でした。昼は皆さんがいらっしゃいましたし慌しかったですから、改めてゆっくりとバレンタインを過ごしてくださいね」
「じゃあ、そうさせてもらおうか」
 ラドゥは優雅な動作でフルーツサンドを口にする。ジェイダスも、紅茶を飲みながらクッキーを食べ始めた。
「昼と被らないように、という心遣いが感じられる。シンプルだが、丁度良いメニューだ」
「ありがとうございます」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
 エメとリュミエール、そしてジェイダス達は、季節毎にお茶会を開くような間柄だ。それでも、やはりジェイダスにそう評じられると嬉しいものだ。
「昼間にはチョコレートやタシガンコーヒーを堪能したからね。バレンタインだけど、あまり意識しないメニューの方がいいだろう?」
 “昼”とエメ達が言っているのは、薔薇の学舎内にあるカフェテリアのリニューアルオープンイベントだ。イベントの中心となったのはジェイダスではなく彼に『リニューアル』という宿題を出された少年だったが、提案者のジェイダスもカフェテリアの様子を見に訪問していた。
「素敵な喫茶室になりましたね」
「ああ。レモも生徒達もよくやった。あのカフェテリアは、これからパラミタ最大というだけではなく、心から寛げる薔薇の学舎随一の憩いの場となるだろう」
 ジェイダスとラドゥの話を、エメはお菓子や軽食を逐次追加しながら聞いている。リュミエールも、紅茶を給仕しながら、大人しくお茶とお菓子を楽しんでいた。だが、そのうちに彼は移動を始め、スティック菓子を手にラドゥの隣に落ち着いた。
「そういえば、お二人はチョコレート交換したの?」
 リュミエールはラドゥに、エメはジェイダスに昼間の内に渡している。だから、今ここには持ってきていない。彼等同士ではどうなのだろうと気になったのかと思いきや、リュミエールは返事を聞く前にスティック菓子をラドゥの目の前にちらつかせて勧め始めた。
「まだならほら、はい、あーんって」
「! あーん、だと? やらんぞそんな事は」
 ジェイダスの方をちらちらと見ながら、ラドゥは平静を装って抵抗する。装いきれて居ないのが珍しく、リュミエールは楽しそうにラドゥにスティックを勧める。そしてもたれて甘えながら、さりげなくのしかかってラドゥをソファに寝かそうと試みてみたり。
(ジェイダス様の膝にラドゥ様の頭がいかないかな?)
 どうやら、膝枕狙いらしい。
「何を……!」
「甘えてるだけだよ?」
 押されてジェイダスに密着し、ラドゥは慌てる。エメはリュミエールの狙いに気付いて笑い、それからジェイダスの隣に移動した。
「……いつもじゃれて下さるのは、別に……嫌がってません、から」
 タシガンの夜景とプライベートな雰囲気も手伝って、いつもよりも近い距離で彼に言う。普段は一歩遠慮した態度で接しているが、今日だけは特別だ。
「あの、でも。程々になさってくださいね? ジェイダス様は過剰に艶があるから恥ずかしいんですよ……」
 そう言いつつ、エメは小さなジェイダスをちょっとだけハグした。軽く包まれるような格好のまま、ジェイダスは面白そうに言う。
「だが、嫌ではないのだろう?」
「え? それは……」
 承知ではあろうと思っていたらやっぱりバレていて。誘っているというよりは、反応を楽しんでいる類だろうとは思うけれど。
「ならば、別に良いだろう?」
「は、はい……」
 抱いた手を撫でられながら問われ、エメはついそう答えてしまった。そこで、リュミエールに押されたラドゥが倒れこんでくる。ちょうど頭が膝に乗り、ラドゥと、彼を見下ろすジェイダスの目がばっちりと合った。ジェイダスは微笑み、テーブルの上のスティック菓子を1本取った。
「そういえば、まだチョコレートをあげていなかったな。ほら、あーん」
 突然のことに、ラドゥは菓子をぱくりと食べた。それから、恥ずかしそうな顔をして起き上がろうとする。
「お、おい! 邪魔だ! 起きれんだろう!」
「動けない? 僕がのってるから仕方ないよね」
 だが、リュミエールはラドゥから離れる気はないようで。
 ラドゥはジェイダスの膝に頭を乗せたまま、バレンタインのお茶会を過ごすことになった。