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命の日、愛の歌

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命の日、愛の歌
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「いつかあたしも……」
 ハーフフェアリーの村人たちや、友人、契約者達に囲まれているレストと晴海を見て、朝野 未沙(あさの・みさ)はぽつりとつぶやいた。
 未沙は今日は、1人のメイドとして披露宴の運営を手伝っていた。
「ドレスを着て、誓い合ってそれから……」
 控えている間、つい妄想してしまう。
 愛する人と結ばれて、皆に祝福される姿を。
 だけれど、その妄想は途中で止まってしまう。
 脳裏の中の自分の前にいる愛する人――フリューネは、いつの間にか普段着に戻っていて。
 ただ、空を見ていた。
(フリューネさん)
 呼びかけたら、彼女は振り向いてくれた。
(カナンの事件が終わったら、あたしのこと考えてくれるって言ってたよね? もう、カナンの事件もその後続けざまに起きたザナドクの事件も終わったよ?)
 未沙の脳裏に浮かぶフリューネは、ただ微笑んでいるだけで、問いかけに答えてはくれない。
(ねぇ、フリューネさん)
 未沙は真剣に、自分の中の彼女に語りかける。
(あなたは今でもあたしの事を見てくれますか? 
 あたしの事を1人の女の子として、貰ってくれますか?)
 それとも……。

 ソレトモ・ソレトモアナタハモウアタシデハナイダレカヲミテイルノデスカ?

「朝野様……朝野様!」
 はっと気づくと、未沙の前に翔が立っていた。
「ご気分が優れないのでしょうか? 無理はされないでください」
 言いながら、翔は未沙を近くの椅子に座らせた。
「あ……れ?」
 未沙は、自分の中のフリューネへの問いかけを、客にしてしまっていたらしい。
 病みかけた笑みを向けながら。
「どうしたんだろ……あたし」
「落ち着くお茶でございます」
「あっ、ありがと……」
 未沙は大きく息をついて、翔が淹れてくれたハーブティーを飲んだ。
 翔は礼をして、賓客の給仕に戻っていく。
 未沙は少し休憩をとることにして、幸せそうな2人を眺めていた。

「こんなむさくるしい姿で参加するのは申し訳ないとも思いましたが……」
 普段は生粋の軍人ともいえる叶 白竜(よう・ぱいろん)だが、今日はあまり袖を通すことのない、道袍を着用し出席していた。
 道袍は、白地に銀の竜の刺繍が品良く施されている、華やかなものであったが、彼の顔は無精髭に覆われている。
「その髭、どうにかならなかった?」
 ダークスーツ姿のファビオが、白竜に問いかける。
「すみません。事情がありまして」
 剃るのが面倒で生やしているのではない。訳があってのことだった。
 少なくても、花嫁の友人に見えない彼は、親族に尋ねられた際に、身分を明かし、警護の為に同行している旨、話してあった。
「ところで、今回の件をあなたに依頼したのは、どなたですか?」
 白竜の問いに、ファビオは少し間をおいて、こう答えた。
「……高根沢代王」
 そうですか、と白竜は頷く。
 ファビオは教導団に所属しているが、旧ヴァイシャリー軍に近い立場にある。
 後ろ盾はラズィーヤ・ヴァイシャリーだと言われている。
 恐らくは、彼女からの紹介だろう。

(どうやら、普通の婚約式のようだ。……アルカンシェルで共に戦ったとはいえ、まさか私にまで招待状を送ってくるとはな。彼にしてみれば――私はユリアナの仇、ともいえる相手だろうに)
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、礼服で披露宴に参加していた。
 ここでの警備は龍騎士団が担当する旨聞いているため、他の契約者同様、武具は所持していないし、警備にも口を挟んではいない。
 ただ、護衛対象である親族の安全確保は意識しており、個人的に警戒はしていた。
『撃たねばならない理由がなければ撃つことはない』
 クレアはそうレストの前で告げたことがある。
 それはすなわち、『撃たねばらない理由があれば撃つ』ということ。
 その考えの下、クレアはユリアナ機撃墜を命じた。
(あえて招待状を送ってくるとすれば。何一つ恥じる事はないということか。――ならば、祝福するに否はあるまい)
 クレアは立ち上がると、祝辞を述べに2人の元に向かった。

「エリュシオンには久々に来たが……ここはすっげーいいところだなー!」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)も、礼服で披露宴に参加していた。
 アルカンシェルの件で、レストと晴海には世話になっている。
 いつもはロイヤルガードとして活動している彼だが、今日は仕事で来ているのではない。
 ラルクは、解放された爽快感を感じており、いつもよりテンションが高かった。
「ま、仕事上、ここで暮らすってのは難しいんだろうけど、別荘みたいに利用するといいかもな! で、結婚式はいつ頃になりそうなんだ?」
 ラルクがレストと晴海に問いかける。
 答えかけた晴海だが、迷った末にレストに目を向けた。
「踏み切れなかった理由があったが……。今はすぐにでもと考えている」
 彼の言葉に、晴海はほっとした表情になる。
「そうか、おめでとう! 幸せになれよ!」
 力強くラルクは2人を祝福した。

「おめでとうございます、晴海」
 友人を装っているエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)も、挨拶に訪れた。
「うん。遠い所、来てくれてありがとう。少しでも楽しんでいってもらえると、嬉しいわ」
 晴海がエリシアに感謝の言葉と笑みを返す。
「ええ、素敵な場所ですし、料理もとても美味しくて。良い土産話を持ち帰ることも出来そうですわ」
 彼女は微笑みながらも、目を光らせて注意を払っている。
 過去に、パートナーの想い人を守りきれなかったという苦い経験や、知り合いを狙撃されてた経験があるため、今回の仕事には気合を入れて臨んでいた。
「そうね。ご友人のことも、改めて招待できたらと思うわ。ここは本当に素敵な村よ」
 晴海はエリシアや、傍にいる人達に、この村の素晴らしさを語った。
「暮らしている人達も、とても優しい人ばかり。……来てくれた皆も、ね」
 本当の友人ではないけれど、晴海はエリシアや、自分の友人として来てくれている契約者に感謝し、嬉しく思っていた。
「ええ、晴海の親戚の方々と一緒に、楽しませていただきますわね」
 エリシアはお辞儀をすると、親戚席の後方にとった自分の席へと戻ることにする。
(怪しい動きをする方は、今のところはいませんわね)
 決して油断せずに、だけれど警戒を顔には現さず、エリシアは楽しそうに過ごしていた。

「……おめでとう、晴海。先、越されちゃったわ」
「綺麗よ。顔つきも変わったわね」
 続いて、近づいてきた2人は――よく知る人物だった。
 仲間であり、友であった2人。
 風見瑠奈(かざみ るな)と、ティリア・イリアーノだった。
 2人は、樹月 刀真(きづき・とうま)に誘われて、訪れていた。
「私ね、白百合団の団長になったの」
「私は副団長。神楽崎先輩の後任よ。今期の副団長は2人だから、仕事も半分くらいだけどね」
「おめでとう……凄いな。でも、2人なら率いていけると思うわ」
 晴海はぎこちない笑みを見せて、そう言った。
「自分は龍騎士団の団長の婚約者の癖に! 凄いのはどっちよ」
「晴海の方が、白百合団の団長に向いてたと思うけどね」
 ティリアと瑠奈が明るく笑う。
「私は、彼の仕事のパートナーとしては、未熟であまり役に立ててないから。だけど、妻、として。彼を支えられるようになりたいと思ってる……勝手だけれど」
 晴海は2人をまともに見ることが出来ずにいた。
「ね、晴海。私達、これから友達にならない? 今までは嘘の関係だったのかもしれないけれど、今日をきっかけに、龍騎士団の団長のパートナーであり婚約者のあなたと、百合園女学院の白百合団団長、副団長の私達と。親交を持ち、今度はちゃんと友達になるの」
 瑠奈がゆっくりと語りかけた。
「新たな人生を歩むあなたと私も友達になりたいわ。打算的であってもいい、互いにとって有益であることは間違いないから」
 ティリアもそう言った。
 晴海は、戸惑いながら2人を交互に見て。
 首を縦に振った。
「よろしく、お願いします。過去の私も、瑠奈とティリアのこと、好きだったし、ちゃんと友達になりたいって思ってた」
 そして、華やかな19歳の女性3人は、美しく微笑みを浮かべ合った。