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プライベートシナリオ

     

シナリオ名

湯の花咲くや、バケーション      

参加者

担当マスター

  • 桂木京介
  • シナリオガイド

     温泉。
     なんと心躍る言葉でしょうか。
     寒さ厳しいこの時期です。指先まで冷えきった体に、じんわり温かな湯はなによりのご馳走といえましょう。
     けれど肌を温めることだけが、温泉の効能ではありません。血行を良くする、病を治療する、そういったものはもちろんのこと、美容にも良いというのは嬉しいことではありませんか。
     とりわけこちら『玉の肌温泉』は、その名の通り女性の肌を、つるつるのすべすべにする成分たっぷりの湯と言われております。湯の色はミルクのように白く、温度はぬるすぎず熱すぎず、手ですくえば指の間を、絹のような手触りが流れていきます。白樺のようなほのかな香りも、心を静めるものとなるでしょう。
     実はほんの少し前まで、この温泉は名の知られていない、いわゆる秘湯でした。逆さに立てた剣を並べたかのような岩山を越えた土地にあり、そこに至る道も整備されておらず、てんで観光向きではなかったのです。
     しかし地元では一種信仰にも似た、根強い人気がありました。ですので、どんなに不便な場所であっても、訪れる人が絶えたことはなかったといいます。
     その理由を、信じるかどうかは自由です。
     いいですか? 信じるかどうかは、あなたの自由です。

     実はこの温泉、『和合の湯』という別名があるのです。
     素直に解釈すればそれは、男女が睦みあうということ。
     どんなに仲の悪い夫婦でもこの温泉に共に身をひたせば、たちまちのうちに子を授かるという伝説があるそうなのです。
     それは、湯に入りリラックスすることで、日頃のストレスが消えて素直に愛し合えるということかもしれません。
     あるいは、細胞が活性化されて懐妊しやすくなるということかもしれません。
     それとも……もっと本能的なレベルで、そんな気持ちになるということなのかもしれません。
     といっても、単なる迷信かもしれません。
     どう解釈するかももちろん、あなたの自由です。

     水色の瞳に映ったのは一面の雪……雪景色!
    「なんて綺麗……」
     冬山 小夜子はそのまま言葉を失ってしまいました。
     厚い雲を突き抜けて、小型飛空艇はぐんぐん高度を下げます。
     その眼下に広がる光景は、音に聞く『玉の肌温泉』とその周辺が、白い雪に包まれている姿でした。
     昨夜のうちに降ったのです。ゴツゴツ岩を隠すのは、泡立てた石鹸のようなバージンスノー。その中央にはぽっかりと、ゆらゆら湯気をあげる一帯が見えます。あれが温泉でしょう。
    「かつては辿り着くまで一仕事だったというこの秘湯にも、こうやって飛空艇で一飛びできるようになったのだから便利なものですわね」
     小夜子の肩に顎を乗せるようにして、同乗の崩城 亜璃珠が言いました。
    「今日の予定って、どうなってるんだっけ?」
     七瀬 歩が空を舞いながら二人に並びます。あまりに寒いので、彼女が首に巻いたマフラーには霜が降りています。
    「えっと……温泉に入って近場の宿で食事って感じ?」
     答えるのは桐生 円です。
    「宿って、こんな辺鄙なところで大丈夫なのかなあ……」
     別の飛空艇の操縦桿を握りつつ、宇都宮 祥子は冷たい風に長い黒髪をなびかせていました。
     このところは移動手段もできたので、『玉の肌温泉』にもリゾートホテルが併設されたのです。といってもリゾートホテルとは名ばかり、実際は、温泉シーズン中のみ営業の地味な旅館にすぎません。ですがそれがまた、風情があっていいのではないでしょうか。
     そんなこの場所に五人が旅行を決めたのは、実は去年のことなのです。新年早々慰労というテーマで、女ばかりの秘湯探訪、雪にもめげず彼女らは、強行軍で繰り出しました。
     それが良かったのか本日は、この雪でキャンセル客が続出、ホテルは実質、小夜子たち五人で貸し切り状態ということです。
     ということは温泉も貸し切りということ。
     ということは……多少はめを外しても……?

     さあ眼下に迫るのは、雪降る天然露天風呂。わいわいほのぼの楽しむに、これ以上の舞台はありますまい。
     長風呂を楽しむも良し、ぶっちゃけトークに興じるも良し、幸先の良い2023年を、まずここからはじめようではありませんか。

    リアクション本文

     

    ●壱
     外気は氷のように冷たいのですが、むっとする湯煙たちこめるこの場所は、立っているだけで汗が浮くほどに温かい。
     そう、ここは天然温泉、それも露天風呂です。
     名は『玉の肌温泉』、この名前に呼び寄せられたとでもいうのでしょうか。蒸気に包まれて温かい岩に素足を乗せたのは、いずれ劣らぬ五人の美女でした。
    「他にお客さんはいないですしのんびり致しましょう」
     タオルと石鹸を入れた手桶を持ち、冬山 小夜子は振り返ります。
     途端、白いタオルがバタバタと揺れます。きゃっ、と小夜子はこれを押さえました。
    「うわー、寒い! 早く温泉! 温泉!」
     と突風のように小夜子の真横を、桐生 円が駆け抜けていったからです。円は手に、オモチャのアヒルをしっかり握って、なにひとつ隠さず素裸で大はしゃぎの様子。
    「そんなに走ったら危ないよ……まあ、うん、いつもの円らしいではあるけど」
     納得しつつもやはり転ぶと危ない、とばかりに宇都宮 祥子は、円を追ってぱたぱたと駆けていきました。
    「おおー!」
     煙の先に見える岩風呂に、七瀬 歩は目を輝かせます。
    「あたし、温泉は大好き! しかも貸切状態なんて最高だよねぇ……」
     と言いながら歩は、小夜子の肩をちょんと指でつつきました。
    「小夜子ちゃん、よくこんなところ知ってたね」
    「ええ、偶然知ったんですけどね」
     小夜子がふわりと微笑むと、二人の会話に崩城 亜璃珠も加わるのです。
    「こんな休日の過ごし方って優雅じゃない? 今日と明日、楽しく過ごしましょう」

     乳白色の湯はとろとろと岩の間からあふれ、洗い場として設置された板の上にも流れてきます。
     その温かく熱いものを冷えた爪先に感じながら、小夜子は屈んで、とぷんと手桶に湯を汲みました。
     ――本当は恋人も一緒に、と思ったけど……都合が付かなかったので仕方がないですね……。
     そのことだけは、少し残念。けれど手桶の湯を浴びると、もやもやした気持ちは流れ落ちていくのです。
     身を手早く清潔にすると、小夜子は祥子に声をかけました。
    「お背中、お流ししますね」
    「いいの? ありがとう!」
     祥子の白い背中に、泡立てたタオルを這わせながら小夜子は息を弾ませます。
     丁寧に洗うのです。体の線を確かめるように、撫でるように。
    「祥子さんは綺麗な髪です。それにスタイルのバランスも良い感じですね」
    「ありがとうね。バランスはー……これでももう少し体重増やしたほうがいいくらいなのよ?」
     くすぐったいような表情で祥子が笑いました。
     祥子の背を流し終えると、次に小夜子は亜璃珠に呼びかけます。
    「あら? それならお願いしようかしら」
     亜璃珠はうなずいて、小夜子に身を預けるのでした。
     洗います。小夜子は亜璃珠を洗います。吸い付くような彼女の肌に手で触れ、うっとりとしたような表情で洗います。
    「御姉様は相変わらず大きいなぁ。何がとは言いませんが。ハリがあって弾力に富んでます」
     つい小夜子の手が、亜璃珠の背中ではなくその反対側に伸びそうになりますが……それに気づいても亜璃珠は軽く声を上げて笑いました。
    「ふふ、気になるなら触ってみる?」
    「い、いえ、そんな!」
    「それは本心かしら……?」
     頬が桜色に染まる小夜子を見て、満足したのか亜璃珠は艶冶な笑みを浮かべるのでした。

     ところで円はといえば、体を洗うもそこそこに、もうざんぶと露天風呂に身を沈めています。
    「うわーい! 温かい! 骨身にしみるー!」
     さらに彼女はアヒルのオモチャを、浮かべてぷくぷく楽しそうなのです。
     くるっとタオルを巻いて湯船のそばの岩に置くと、歩はゆっくりと身をひたしました。
    「うーん、やっぱ温泉はいいなー」
     ゆったりと湯を楽しむと、歩は茶目っ気を出しました。
     手で波を送って遊びます。
     送った波の先は……円のアヒル人形があるのです。
    「おっ、アヒルさんが!」
    「転覆しないで頑張ってるよねえ。あたしたちもこんな風にがんばらないとね」
     何を? と言いかけて円は、なにやら合点がいったようです。
    「そうか! 白い温泉ということだし、ここで頑張るべきは美白……!? いや、それだけじゃなくて」
     恥ずかしいのでくるりと歩に背を向けると、円は無言でぱしゃぱしゃと、己の胸に湯をかけるのでした。
     だって、効能で大きくなるかもしれないではないですか。バストが。
     こういう場所に来ると、特にそんなことが気になるではないですか。
     ……亜璃珠が豊かなのは前から知っていましたが、歩だって祥子だってなかなかのものです。小夜子だって相当に恵まれているといっていい。
     ――みんなの成長がにくい……。
    「い、いや!」
     自分の中に生じた小さな暗黒面を否定すべく、円はぶんぶんと首を振ります。
     き、気にしてないよ! 泳ごうそれがいい!
     そう決めて、いきなりばしゃばしゃとやりはじめました。
    「背泳ぎー、貸切だと圧迫感がなくていいよねー。うわっ、ごめんぶつかった」
     ごすっとぶつけられたのは当然のように歩です。
    「さすがに泳いじゃだめだってばー」
     と口では言うものの、楽しそうな円を止める気もないようで、歩の口元には微笑がありました。
     ――そういえば、ここって和合の湯って呼ばれてるんだっけ。
     歩は思います。
     ――未来の旦那様と一緒に来るのもいいかも? なんてね。
     ここでやっと寒くなってきたのか、小夜子と亜璃珠、祥子が連れ立って豊かな湯に身をひたしました。
     こうなっては円も泳ぐスペースがなくなり、仕方なくというかなんというか、ぷかーりと仰向けで湯船に浮かぶのでした。
    「……温泉ってこんなにリラックスできるんだー」
     ぼんやり独り言をいいながら空を眺めます。
     空の色は白。
     それは曇り空の色でしょうか。雪の色でしょうか。それとも湯煙の色……?
     ――こんなの初めてかも……。
     いつの間にか思考は湯の温かさに溶けて、視界も徐々に狭まり……。
    「ぶわっ!」
     思わず寝てしまった円は、ぶくぶく沈みかけて慌てて身を起こしました。
     
    ●弐
    「かーにーなーべっ!」
     思わず祥子が声を上げてしまったのも仕方のないところ。
    「こんな秘境めいたところで海の幸とは思いもよらなかったわ」
     しみじみ彼女は言いました。そうです、旅館に戻って提供されたディナーは、なんと豪勢、ズワイガニのカニ鍋コースなのでした。
     鍋はメインですがこれがワンアンドオンリーのカニではなく、山で取れた地元産きのことカニの胡麻酢和えからはじまって、カニの刺身、カニてんぷら、カニの茶碗蒸しまでついたラインナップなのです。まさにカニカニ、カニづくしの大攻勢といっていいでしょう。鍋のみならず、焼いて食べるための網とバーナーもあります。
     湯から上がって十数分、現在五人は畳敷きの大きな部屋で、卓に乗り切れないほど豪勢な料理を前にしていました。
     もちろん五人とも着替えています。白地に青い三階松の紋を散らせた浴衣に、紺の羽織りという伝統的な姿、帯も縞模様で目に優しい。衿足が見えるようにすっきりさせて、いずれ劣らぬ五つの花でした。 
     さてカニづくしの卓を見て、歩が懐かしげに言いました。
    「ゆでた毛ガニとかならたまに食べてたけど、鍋になってるのって初めてかも……」
     おや、というように小夜子が聞きます。
    「そういえば歩さんのご出身は……」
    「うん、北海道育ち。カニの食べ方わからない人とかいたら、はさみで切って食べやすいようにしてあげるからねー」
     カニはこの作業がなかったら美味しいし楽なんだけどなぁ、と言いながら、カニのハサミならぬステンレスのハサミで、がしがしと歩は赤い殻を切っていくのです。
    「歩すごい! 北海道育ちでカニ食べまくりなんて……なんかずるいなぁ。どーやったら綺麗にとれるのさ!」
     円はそんなことを言いながら、歩の技を盗もうとじろじろ、彼女のハサミさばきを観察しています。
    「あら歩さんお上手ですのね。私はどうも不器用というか……」
     と、やや困り気味に亜璃珠が言うのを聞いて、
    「大丈夫。私もどんどん剥くからこっちによこしてっ」
     祥子は奮戦、歩に負けじとどんどんカニの中身を取り出していくのでした。
    「ほーら、むきむきむき……あ、鍋ばっかりじゃなくてときどき焼かなくちゃね」
     ほいほいと手際よくカニを焼いていく祥子です。歩に負けず早いですね。
    「……そういや……ペンギンって蟹食べても大丈夫なのかしら?」
     ふと気になって祥子が円をみたのですが、とっくに彼女は、
    「ふぇ? ふぁにが?(え? なにが?)」
     とうにカニ殻を剥くのをやめて、もっさりとカニ刺身を頬張っているところでした。
    「さて、私はお酒もいただくとしましょうか」
     亜璃珠はお銚子を手にしました。
    「お酌します」
     小夜子がさっと注いでくれたので、ありがとう、と眼を細めて、
    「それでは遠慮なく」
     すっとほぼ一息で杯を干す亜璃珠の姿は、そのまま絵にしたいほど様になっています。
     その姿に小夜子は見とれてしまい、つい我を忘れて見入ってしまうのですが、それと気づくや、
    「それではこちらも……遠慮なく」
     隙ありですわよ、などとからかうような口調で、亜璃珠は小夜子の胸元にするりと手を入れました。
    「きゃ、御姉様!?」
    「おっと、まだ呑みはじめなのに酔ったかしら、私?」
     しれっとそんなことを亜璃珠言うのでした。油断ならぬ御姉様です。
     さて一方、円は食べるほうに邁進しております。
    「お刺身もっと取って~、あっわさび抜きで」
     祥子におかわりを要求しつつ、
    「さあてっ、煮えたかなー?」
     と鍋からもひょいひょいと具を取っています。
    「円ちゃん、野菜をスルーしちゃダメだよ」
     歩が気づいて指摘します。たしかに円のチョイスはさきほどからカニばかりです。他は取ってもせいぜい葛きりか、豆腐といったところなのでした。
    「そんなことないよー、にんじんも取ってるよー」
    「うっそだー。ほらまたカニ取ってるし-」
     痛いところを指摘されたのか、そしらぬ顔で円は言いました。
    「歩はどうするのー? 先生になりたいんだっけ?」
    「え? 何の話?」
    「今年の目標の話! どんなことしようかなー、って思ってる? ボクは今年は、がんばって勉強しようかなー?」
    「あー……それなら確かに、円の言う通りかも」
    「でしょでしょ?」
    「うん、それはそれ、これはこれ。野菜も取るんだよ、円」
    「うわ、忘れてなかったのね」
     ところで、と祥子は亜璃珠に声をかけました。
    「ね、オトナ組は甲羅酒でもきゅっといかない?」
     カニ味噌まで食べた甲羅の背の部分を、アルミホイルで包み網に乗せます。甲羅を満たすように日本酒を注いで、酒が泡立ち始めたらできあがり。すっきりした清酒に甲羅から染み出てくる旨みと香りが乗って、なんとも味わい深いお酒になります。
    「こういう機会でもないといただけない独特のお酒ですわね」
    「……温泉で温まった身体が、もう一度ぽかぽか温まるわー♪」
    「ますます酔ってきたかも……」
     と亜璃珠が流し目すると、
    「も、もう隙はない、です」
     さっと胸元を隠して、小夜子は頬を染めたのでした。
    「あら残念」

    ●参
     食事が終わり語らいのひとときが過ぎると、丁寧に布団が並べられました。
    「よーし!」
     ぽすーん、と円の頭に枕が当たって跳ねました。
     歩が投げたのです。
    「まくら投げだー!」
     歩はやる気満点、さあ来い! と言わんばかりに円の反撃を待ちますが、
    「……ふぇ?」
     大の字になったまま円は、半目を開けただけでした。
    「あれどうしたの? もうおネム??」
    「んー……」
     円の反応はぱっとしません。電池が切れたような状態です。
    「なんだもう。枕投げしよーよー」
    「……また明日」
     と言ったきりもう、円は寝息でしか返事をしませんでした。はしゃぎすぎたのでしょうね。
    「つまんないのー……っていうか、他のみんなは?」
     あれれ、と歩は見回します。
     そういえば小夜子、亜璃珠がいません。祥子はついさっきまでいた気がしましたが……。
     さてどうしたのでしょう。
     お風呂に行ったのでしょうか?
    「んー、じゃあまあ、二回目に行くかな」
     何度も入るのが温泉の醍醐味、とばかりに、歩はタオルを探すのです。

     そのころすでに、亜璃珠と小夜子は湯につかっていました。
     夜の露天風呂、満点の星空を眺めつつの湯というのもおつなものです。
    「深夜の温泉って、貸切に加えてまた別の風情があるものだと思わない?」
     亜璃珠がふふと笑います。小夜子もうなずきました。
    「ええ」
     ――美容にも良いそうなので、しっかり入れば恋人も喜ぶかな……。
     そういえば最近、妙に肩こりする小夜子です。胸が大きくなったせいでしょうか? いずれにせよこの機会に、しっかりリフレッシュしたいところです。
    「ところで、せっかくの二人きり、ぶっちゃけたところを訊いていいかしら?」
    「あ……はい、いいですけど」
     するりと猫のように亜璃珠は彼女に身を寄せて、
    「美緒とはうまくやれているの?」
    「はい、それはもう……」
     美緒のことを訊かれると、それだけで顔が上気してしまう小夜子です。
    「それで……どこまで行ったのかしら?」
    「どこまで、って……?」
     亜璃珠は意味ありげに小夜子の耳に唇を寄せてなにか言いました。
    「そ! それは……! 口づけくらいは……」
    「ふーん」
     納得したのかしていないのか、微妙な表情になって亜璃珠はさらに問うのです。
    「あの子純粋だから、身体のほうは寂しくなってないか……気になるのよね」
    「か、身体を持て余してるとかそんな……」
    「夜泣きしたりしない? 体の芯が疼くような……」
    「そ、そ、そんなこと」
    「その可愛いお口じゃなくて……」
     亜璃珠は軽く小夜子の唇に指で触れ、もう片方の手を湯の下に遊ばせました。
    「……小夜子、あなたの身体(からだ)に訊きたいわ……」
    「御姉様……そんなこと……」
    「折しもこの地は『和合の湯』、和して合わさるのは正しいことよ」
     妖しい目をして亜璃珠は小夜子の頬に、耳朶に、そして顎に唇で触れていきます。
    「ねえ、どこに訊いてほしい? 可愛い小夜子……」
     一方で亜璃珠の白い指先は、
    「ここかしら?」
     と小夜子の首筋をなぞり、
    「ここかしら?」
     たわわな彼女の胸を包み、
    「それとも……ここ?」
     さらに下をさぐっていくのです。
    「あっ、御姉様、それ以上は……!?」
    「私は知りたいの、『それ以上』をね。ふふ……どれぐらい成長したのか確かめながら、ゆっくりと夜の長湯を愉しみましょう」
     亜璃珠が指先に力を入れると、電気に打たれたように小夜子は背をぴんと伸ばし、甘い甘い声を上げたのでした。

     ちらほら雪が降り始めました。
     ひとひらの雪を肩にのせつつ、小夜子と亜璃珠の『和合』を岩陰からのぞく姿が一人。
    「こういう旅の楽しみは深夜誰もいない温泉でのんびり……って思ったけど……やっぱ先客いるわよね」
     しかもその先客が……というわけで、さて祥子は困ってしまいました。
     どうしたものでしょう。こういうとき。
     気配を殺してそっと湯から出たものやら、
     空咳して二人に存在を知らしめたものやら、
     あるいは……一緒に長湯を愉しんだものやら……?
     ああ、悩ましい――夜の天然露天風呂なのです。

     さてこれ以上とうとうと描くは野暮というもの、小夜子と亜璃珠、祥子のいる湯にやがて歩も加わって四人がどうなったか。そして円が目を醒ましたかどうかは、あえて語らずに終えるとしましょう。
     それではみなさん、今年もよろしくお願いいたします。
     またシナリオでお目にかかれる日を楽しみにしております。