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ストーリー

『蒼空のフロンティア』オープニング ~絆のはじまり~ 3

『蒼空のフロンティア』オープニング ~絆のはじまり~ 3

「大丈夫、リコ?」
「うん、なんとか。ジークリンデがいてくれて、助かったわ」
オーラの翼を持つジークリンデにしがみつき、リコは土砂に埋まるのは免れた。しかし二人に魔法学校生徒が発したファイアーボールが撃ちこまれる。危うく避けたが、リコたちは穴の底に落ちてしまう。
「蒼空学園め! 特に恨みは無いが、校長命令で攻撃するぞ!」
「なによ、それはッ?! ブッタ斬るわよっ! ……あれ? 剣。剣が無い!」
遺跡崩落に巻き込まれ、リコのブロードソードはなくなっていた。
「ちょっと待って! タイム! タイムって言ってるでしょーッ」
「ここは私に任せて。リコは逃げて!」
ジークリンデが槍を振りかぶって、魔法学校生徒におどりかかる。そこに教導団の武装ヘリから逃げるパラ実ヤンキーが飛びこんできて、マシンガンの弾丸が相手かまわず降りそそぐ。
リコは歯がみした。
「くっ……あたしも何か武器を持って戦わなきゃ。何か無いか、何か……」
武器になりそうな物を探して、土砂の上をよろけながら走る。
「あった! 剣、発見!」
土の間から、剣の柄のような物が突き出している。
「その剣、もらったぁ! あらっ、抜けない?! え? 頭の中に声がする?!」
リコの頭の中に、おごそかな声が響く。
(剣を抜かんとする者よ、汝が求むるは……)
「あーッ、もうじれったい! 何でもいいから、イエスイエスイエース!」
(……汝を剣の主として承認しよう)
リコの頭の中で謎の声が言うなり、引っぱっていた剣が急に抜けた。
「えッ、なに? 剣から邪悪な気配があふれてくる?!」
土の中から引きぬかれた剣は、妖しい輝きを発した。剣を中心に周囲の空気が、重く息苦しいものに変わっていく。
「ああ~、それぇ……みんなが探してた魔剣ですぅ」
エリザベートがリコの持つ剣を見て声をあげる。ジークリンデは立ちすくんだ。
「あ、あれが……。使い手に、シャンバラの女王陛下を斬る宿命を負わせるという魔剣。そんな……リコが抜いてしまうなんて……」
魔剣を持ったまま立ちつくしていたリコが、やにわに笑い始める。
「ウフ……ウフフフ。あたしってば今、何もかも壊しちゃいたいキ・ブ・ン」
リコの表情は何かに取り憑かれたようで、いつもの彼女ではない。そんな彼女に、それまで剣を探して争っていた生徒たちが押し寄せる。
「その魔剣を渡せーッ!」
「やなこった! アハハハ!」
「ぐあーッ!」
リコが魔剣を振り下ろし、剣から生じた衝撃波が生徒たちも武装ヘリも吹き飛ばす。
「はっはぁ~ん、弱っちいの。ウフフフ」
しかしリコは心の中で焦っていた。
(あたし、どうしちゃったの?! 体が勝手に動いて……。止まれ! 止まりなさい、あたし!)
しかし心とは裏腹に、リコは虚ろに笑いながら魔剣を振るって暴れはじめる。
その時、リコを挑発するように、楽しげな男の声が言った。
「おやおや、まさか貴女のようなお方が斬姫刀スレイヴ・オブ・フォーチュンの主となるとは……。いささか意外でしたね」
今まで、そこにいなかった人物が現れていた。黒衣に闇色のマントをはおり、両手と黒髪の下の顔面は目以外、白い包帯で完全に覆われている。
「はあ? この包帯ミイラ男、無性に斬りきざみたくなるわ。腕がウズウズする」
リコが凶暴な目つきでにらむと、その男は軽く会釈した。
「お初にお目にかかります。鏖殺寺院報道官ミスター・ラングレイ、と申します。理子様」
リコは突然キレた。魔剣からドス黒い邪気が一気に噴き出す。
「ふっざけるなああぁ! あたしが魔剣を抜いて悪いかーッ!」
魔剣から衝撃波を放つ。ラングレイはふわりと舞うように飛んでかわした。続く衝撃波も同じようにかわされ、周囲のジークリンデたちばかりが翻弄される。
「くっ……リコを助けに行きたいのに。近づけないっ」
突っこんでいくリコの足元に、ラングレイがつぶてを投げつける。爆発が起こり、リコの姿を黒煙が覆いつくす。
「リコ!!」
ジークリンデが悲鳴をあげる。だがリコは煙で視界を奪われただけだった。
「どこに行った?! ……ここかっ!」
背後に気配を感じ、リコは魔剣で斬りつけた。手ごたえがあった。
「やった!」
刃は確かにラングレイの左わき腹を捕らえていた。しかし。
(くっ、体をまわして急所を外された! それに、この感触。こいつ、服の下に鎖かたびらでも着ているの? いえ、これは……皮膚の下に?!)
心の中で驚愕するリコ。魔剣の刃が切り裂いた傷口から、血液と共に闇色をした網のような物が飛び出し、魔剣にからみついた。ラングレイはさらに腕と体で魔剣をはさみ、押さえこんだ。
(こ、このままじゃ魔剣をからめ取られる?!)
リコは魔剣を引きはがそうと、やみくもに暴れ始めた。
「離せ、離せーッ! この剣はあたしんだーッ!」
ラングレイが傷の痛みをこらえた苦しげな声で、リコに言う。
「いい加減になさい……。魔剣を縛る呪いに、自我を食われますよ。ぐッ……」
しかしリコは耳を貸さず、地団駄を踏んで剣を引っぱる。
「やだやだやだーッ。魔剣はあたしのなのー! これで皆を黙らすんだもん! 砕音先生に褒めてもらうんだもん!」
ラングレイはうめいた。空いた方の手でリコの肩をつかみ寄せる。それまでの気取った口調をかなぐり捨て、彼女に怒鳴った。
「……この、あほうがッ! 魔剣があろうがなかろうが、誰が親だろうが、おまえはおまえだろ! 自由にしてやるから、今は……、今だけは俺を信じろ!」
(え……)
ラングレイの真剣さに、リコは彼の青い瞳に射すくめられたように棒立ちになった。魔剣を覆う邪気も、行き場を失ったように漂う。
ラングレイはその瞬間を逃さず、魔剣に手を叩きつける。
「斬姫の刃よ! 我が血の封印に応じ、今しばらく力を眠らせたまえ!」
魔剣の刀身が、おおおんと獣の遠吠えのような音を発する。その音は次第に弱まっていき、同時に剣がまとう邪悪な重い気配も消え失せていく。
「あ……体が自由になった。魔剣から感じていた凶悪な気配も消えたわ」
リコはポカンとしながら、ラングレイが離した魔剣を見つめる。彼女の肩をラングレイが軽く押した。リコの足元の土砂が崩れ、背後の斜面を落ちる。かと思えたが、ジークリンデの腕に抱きとめられた。
「リコ! 大丈夫?!」
「うん。あたしは全然、平気」
ジークリンデは下からラングレイを見すえる。彼の体から発したネット状の物体はすでに消えている。黒衣でも、ハッキリ分かるほどの流血。
「リコを解放してくれた事にはお礼を言います。でも鏖殺寺院のあなたが、なぜ魔剣を封印するのかしら?」
「さあて、どうしてでしょうね。貴女方は何もご存じないようだ」
彼の芝居がかった皮肉的な言葉に、リコが飛び起きる。
「ちょっと待った! 今、あんた、キャラが違ってたじゃない!」
「おや? これは愉快な事を。空耳でも聞こえましたか?」
「なんですって?! 乙女の純情をもてあそぶ気?!」
怒るリコに、ラングレイは冷たく言い放った。
「魔力を封印しても、斬姫刀スレイヴ・オブ・フォーチュンが持つ宿命から逃げることはできませんよ。高根沢理子、あなたはやがて『シャンバラの王女』にアダなす存在となるでしょう。その時が来たら、封印を解いて魔剣の力を解放してあげますよ」
リコはラングレイをにらむ。
「こんな事して、あなたたち鏖殺寺院は何を企んでるって言うの?」
「シャンバラ王国建国の阻止。シャンバラ王国を興そうという勢力には、ありとあらゆる手段を持って攻撃させていただきます。
さて、見ての通り、私は怪我人となってしまいました。この続きは彼らに任せるとしましょう」
空間がゆがみ、穴の底に数頭のモンスターが現れる。キメラだ。事態を呆然と見ていた生徒たちに襲いかかり、戦いが始まった。
ラングレイの周囲の空間がゆがむのに気づき、リコが怒鳴る。
「待ちなさいっ! まだ聞きたい事がっ」
しかし彼の返事はなく、その姿は消えた。振り返ると、ジークリンデが不安そうな顔をして見ている。
リコは信頼するパートナーに笑いかけた。
「安心して。魔剣の宿命だかなんだか知らないけど、あたしはジークリンデの女王様を傷つけたりしない。あなたが悲しむ事なんて絶対しない。約束するよ」
リコの決意に満ちた表情に、ジークリンデも笑顔を浮かべる。
「はい。私はリコの言葉を信じます」
「さっ、あたしたちも戦うわよ」
「ええ!」

スクリーンごしに、すべてを見ていた鏖殺寺院の長アズールは、ほくそ笑んだ。
「ククク、愚かしい学生どもめ。我々の仕組んだ通りに、事は運んでいる。これで世界は、ひとつ変わったのだ! シャンバラ王国など決して建国はさせん。ククク、ハハハハハ!」

遥か離れた荒野。一人の巨漢が、襲いくる戦士たちをなぎ倒していた。激しい戦いに体を流れる血を気にする事もなく、ただ戦いに没頭する。
たった一人で中国軍相手に祖国解放を果たし、波羅蜜多実業高校を崩壊させた男、ドージェ・カイラスだ。今や生きる伝説である。
ドージェはふと、ある気配を感じて南の空を見た。一見、何も変わらぬ砂塵の舞う空。だが、ただひたすらに強者との戦いを追い求める彼には分かっていた。
漢は唇の端に笑みを浮かべる。周囲の戦士たちは、その笑みに訳も分からぬまま魂が凍る思いを味わう。
今、シャンバラの大地から、強大な存在が目覚めつつあった。

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