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ストーリー

『蒼空のフロンティア』オープニング ~絆のはじまり~ 2

『蒼空のフロンティア』オープニング ~絆のはじまり~ 2

ゴブリンを追い払い、リコたちは先を進む。ジークリンデが言った。
「魔剣を探しているのは、他の学校だけじゃないんじゃないかしら? 特にテロ組織の鏖殺寺院には、魔剣は何のリスクもなく抜けるでしょうし」
「鏖殺寺院って……街で自動車爆弾を爆発させたり、ケータイの基地局を壊してるよね。この前は、ネットで変なコト言ってたわよ」
リコは制服のポケットから携帯電話を出し、インターネットにつないだ。動画サイトで『鏖殺寺院声明』を選ぶ。画面に、ローブをまとった壮年の魔道師風の男が現れる。
「シブいおじ様だけど、目がイッてる感じよね。動画、再生してみるよ」
リコはジークリンデにケータイを見せ、再生ボタンを押した。

「私は鏖殺寺院の長アズール・アデプター。これを聞く貴兄らに忠告を与えよう。
我々鏖殺寺院は五千年の眠りより目覚めた。我々が討ち滅ぼした邪悪なるシャンバラ王国の亡霊が蘇り、ふたたび邪悪の王国を建国しようとしているからだ。
これら悪逆の徒に、我々はいかなる犠牲をも辞さず、聖なる鉄槌をくだす。
悪しきシャンバラ王国の建国など、鏖殺寺院がさせはしない。シャンバラに死を!」

ジークリンデは耐え切れず、声を荒げた。
「ふざけないで! 平和だったシャンバラに反乱を起こし、女王陛下の命を絶ち、王国を滅ぼしたのは、あなたたち鏖殺寺院の方でしょうッ?!
なんでこんな声明文が、公に出回っているのかしら。信じられない」
リコはジークリンデをなだめようと説明する。
「お、落ち着いて。えーとね。元の動画は、どっかのアングラサイトにアップされて、それをユーザーがコピーして、あちこちの動画サイトや掲示板に載っけてるんだけどー」
ジークリンデには、よく分からない。彼女たちパラミタの種族には、現代地球のテクノロジーは謎だ。もっとも地球人にとっては、パラミタこそ謎なのだが。
リコは動画の作成者データを見る。
「この動画を作ったのは、ミスター・ラングレイ。肩書きは鏖殺寺院報道官」
「幹部かしら。シャンバラ建国をテロで邪魔するなんて、ひどい組織だわ」
悲しそうに言うジークリンデに、リコもうなずいた。
「大丈夫。卑怯なテロリストなんか、やっつけてやるから!」
その時、二人に下品な声がかけられた。
「おうおうおう、ずいぶん威勢のいい姉ちゃんたちだなぁ。ちょっと俺たちに、こづかい分けてくんねえか?」
茂みをかきわけ、モヒカンや刺繍入りの長ランなど、見るからにワルそうな風体をした不良生徒の一団が現れた。
「あんたたちが噂に聞くパラ実(ぱらじつ)のカツアゲ団?」
「おうよ! 俺たちこそが泣く子も黙る波羅蜜多実業高校(ぱらみたじつぎょうこうこう)のカツアゲ団だ! てなワケでカネ出しなっ、みょぷう!!」
「ぐきょめっ!」
「へげぺえっ!」
変な声をあげながら、不良生徒たちはリコにボコボコにされてしまった。
「ひ、ひいい~。覚えてやがれええ~!」
お決まりの捨て台詞を残して逃げ散るカツアゲ団。
「フン、他愛も無い。カツアゲすんなら、相手を見てやりなっての!」
「相手が誰でも、カツアゲは駄目よ……」
小さくリコにつっこむジークリンデ。
「不良学校のパラ実生徒には、強くなるために人体改造して凶暴化した人が多いから気をつけてって言おうと思ったんだけど……。言うヒマも無かったわね」
「そーいえば、身長が3mくらいある奴もいたような。
まあ、この勢いで魔剣もゲットできればいいんだけど。そうすれば……ムフ」
「そうすれば?」
急ににやけたリコを、ジークリンデがいぶかしむ。
「そーすれば、憧れの砕音アントゥルース(さいおん・‐)先生に褒めてもらえるかもー! 『頑張ったな、高根沢』『いやん、リコって呼んで』みたいなー! キャー、恥ずかしいぃ」
頬を赤らめて、はしゃぐリコを、ジークリンデはたしなめる。
「砕音先生は蒼空学園の教師なんだから、教え子に手を出したら駄目でしょう?」
「ええ~。あたし、次の8月17日で16歳になるから、もう結婚できるもーん」
ジークリンデは額を押さえた。
「なんだか眩暈を感じるわ。ええ、本当に景色が曲がって見える……?」
実際に空間が曲がり、激しい光が辺りをおおう。その光が収まると。
「はいはぁい。噂の魔剣がある森にぃテレポートで到着でぇす」
今まで何も無かった場所に、ひらひらした豪華な服をまとった幼い少女が現れていた。しゃべり方は、ずいぶんとのんびりしている。リコは驚いて言った。
「なんなの、この女の子?! フワフワ、宙に浮いてるわよ?」
「この人は! イルミンスール魔法学校の校長エリザベート・ワルプルギスさんだわ。まだ7歳だけど、魔法の才能は魔法使いの中でもトップクラスよ」
二人の声に、エリザベート校長は振り返った。
「あれぇ? その見覚えのある、いやぁな制服はぁ。蒼空学園の生徒ですねぇ。魔剣はイルミンスールがもらいますぅ。蒼空学園なんかにはぁ、ぜぇったいに渡しませぇん」
居丈高に言われ、リコはムッとする。
「何よっ。あたしたちだって一生懸命、探してるんだから!」
「魔法の剣はぁ、わたしたち魔法学校に任せておけですぅ。さぁあ、皆、行くですぅ」
エリザベートを追うようにテレポートしてきた魔法使いたちが続々と、ホウキや魔法の絨毯に乗って木々を飛び越していく。

森では、魔剣を探して各校が先を争っていた。
遠く離れたシャンバラ教導団の指揮管制室では、教導団校長の金 鋭峰(じん・るいふぉん)が通信機ごしに森に展開した部隊に激を飛ばしていた。
「我らシャンバラ教導団の機動力を生かす時が来たぞ。シャンバラ地方随一の軍事力をライバル校に知らしめよ! 教導団の名誉にかけて魔剣とやらを手に入れ、我が校の底力を世に示すのだ!
機甲部隊によるローラー作戦開始せよッ。ヘリ部隊、偵察機も引き続き森上空に張りつき、目標捜索に戦力を傾けよ」
装甲車が列になって森に突入する。魔法使いのホウキを追い抜くように、ヘリが爆音を轟かせて飛んでいく。
「うおっ、教導団の連中に負けてられっか! 爆音じゃ俺たちの改造バイクだって負けてねえぜ!!」
まだいたパラ実のヤンキーたちが、改造バイクで装甲車に張り合う。
「不良ども、邪魔だ! 廃墟と貸した貴様らの校舎に帰れ!」
「ああん? 軍隊かぶれが、俺らを止められるモンなら止めてみな!」

激しい騒音に、百合園女学院(ゆりぞのじょがくいん)校長の桜井 静香(さくらい・しずか)は木陰に隠れてガタガタ震えていた。ひらひらフリルの服は、見るからに冒険に不向きだ。
「……こ、こわいよぉ。学校の皆とはハグれちゃったし……。平和で静かなお嬢様学校の百合園女学院に帰りたい~。
ああ、魔剣を見つければ、ちょっとはお金になるかもって思ったのがマチガイだったんだ。こんな戦車や暴走族がいるなんて……。ああ、誰かボクを助けに来て~」
その時、静香の目の前の茂みがガサガサと揺れた。絹を裂くような悲鳴があがる。
「きゃあああああ! いやーッ! お母さーん! …………あれ?」
尻餅をついた静香が恐る恐る目を開けると、目の前ではウサギが小首をかしげていた。

「さあて、どの勢力が魔剣が手に入れるだろうね?」
薔薇の学舎(ばらのがくしゃ)校長のジェイダス観世院(‐・かんぜいん)は豪奢な校長室でソファにくつろぎながら言った。はべらせた学舎生徒の美少年たちが、彼の身の回りの世話をしている。
ライバル校が魔剣確保に動く中、薔薇の学舎は動かずに沈黙を保っていた。
「魔法学園、教導団、鏖殺寺院が手に入れても、現状にそう変わりはない。パラ実には魔剣をどうこうする頭も無いだろう。蒼空か百合園が入手すれば勢力図に変化が起こる。さて、その時、我が校としては、どう手を打たせてもらうかな……」
ジェイダスは妖しく微笑み、かたわらの少年の頭をなでた。

どことも知れぬ場所。無数に並ぶスクリーンに、森各所での戦闘の様子が映しだされている。
「これだけの騒ぎになるとは、ネットの噂とやらも案外、効果があるのだな、ラングレイよ」
どっかとイスに座り、映像を見ながら言ったのは、鏖殺寺院の長アズールだ。背後に立つ若い男、同報道官ミスター・ラングレイが応える。
「恐縮です、我らが長アズールよ。それぞれの学校と、パラミタの玄関口である空京のネットカフェのIPアドレスから、各校生徒を装って魔剣を思わせる目撃情報をバラまいただけですから」
「手はずは整っているのだろう? よし、行け」
「ハッ」
アズールの命令を受け、ラングレイは一礼すると、その場を去った。

森での戦闘は、激しさを増していた。リコは銃弾を避けて岩陰に飛びこみながら、怒鳴った。怒鳴らなければ、激しい銃撃音や爆発音で聞こえない。
「ちょっとー! いつの間にか魔剣捜索って言うより、教導団対パラ実、蒼空学園対魔法学校の戦いになってるわよ?! なに、この乱戦は?!」
彼女たちの遥か上では、エリザベートが何か魔法を唱えている。
「うるさすぎですぅ。これでも食らってぇ、落ち着きなさぁい!」
魔法が発動するなり、森の地面がグラグラと大きく揺れた。震度6はあるだろう。
「キャーッ! 地震よ~!」
リコはとっさに隣にいたジークリンデに抱きつく。その足元が急に無くなった。
「あ~れ~! 落ちるうぅ~!!」
大地はそこで戦っていた生徒たちもろとも、崩れ落ちていった。
地面に開いた大穴は、小さな町ならばすっぽり入りそうな大きさだった。
上空に浮かんだままのエリザベートは、ちょっと困った顔で言った。
「あれれぇ? みぃんな、いなくなっちゃいましたぁ。これぇ……地下にあった遺跡が地震魔法で潰れちゃったみたいですねぇ」

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