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『蒼空のフロンティア』オープニングストーリー2 ~絆の行方~ 第1章 姉

原案:沖又 陸  ストーリー:砂原 かける Illustrator : FBC

『蒼空のフロンティア』オープニングストーリー2 ~絆の行方~ 

2020年3月、空京北西部の葦原島に、パラミタ東方マホロバ地方の葦原藩より、葦原明倫館という学校が突如、移設してきた。
葦原藩は、五千年前にシャンバラが滅亡した後、その遺臣達がマホロバに移住して作った国である。そのため葦原藩には、シャンバラ再興と共に蘇るだろう鏖殺寺院との戦いに備え、また祖国復興に尽力するよう言い伝えられてきた。
葦原藩主の娘葦原房姫(あしはらのふさひめ)は五千年前の神子と感覚の一部を共有し、御筆先によって五千年前から指令を受けると言う。
葦原藩はこの御筆先で、過去に幾度もの危機を乗り越えてきた。そのため藩では、御筆先は藩主よりも絶対である。
葦原明倫館の急な移設も、この御筆先によって決められた事だ。

マホロバの文化は中世の日本に似ており、故に元は藩校であった明倫館では、侍を始め隠密や陰陽師の養成が行なわれている。
学校とはいえ事実上、葦原藩の一部であり、藩の軍勢1万人も駐留。また校内に築かれた葦原城の城主は房姫その人である。

そして校長にあたる総奉行を務めるのは、房姫のパートナーである、アメリカ人のハイナ・ウィルソンだ。代々大統領を輩出する名門の出で、日本人以上の日本通、自他共に認める日本マニアである。
その一方でハイナは、葦原藩はいずれアメリカの51番目の州に加入すべきとしたり、明倫館の学生にはアメリカ国籍を与える事を考えてもいた。

今春、高等部を卒業する生徒の受け皿として、空京に開校する空京大学と合わせ、シャンバラにある学校は、これで八校になる。
インドの天才数学者アクリト・シーカー学長率いる空京大学もまた、対鏖殺寺院の為の研究開発を推し進めていた。

「打倒鏖殺寺院の為には、わっちら全八校の協力が必要でありんす!」
アメリカナイズに着こなした和装の袖をまくり、葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソンが断言する。
特徴的な廓言葉で熱弁を振るうハイナの映像は、各学校のテレビ会議用モニタに映し出されていた。
「協力なら喜んでするよ」
そう素直に申し出るのは、百合園女学院の桜井 静香(さくらい・しずか)校長だ。しかし他の校長達はそこまで純粋ではない。
「蒼学校長がぁ土下座で頼むなら~協力してあげない事もないですぅ~」
イルミンスール魔法学校のエリザベート・ワルプルギス校長の言葉は、ある意味、揺るぎがない。
一方、シャンバラ教導団の金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長は値踏みするように、画面のハイナを見て言う。
「我が校で言う特殊部隊や諜報班との捜査活動での連携は期待しよう」
また薔薇の学舎のジェイダス観世院(‐・かんぜいん)校長も挑戦的な笑みで賛同する。
「ああ、今は神子やスフィアなどと、色々と調査しなければいけない事がある。貴校の活躍には期待している」
二人とも言葉上は歓迎の態度を示し、実際に期待もしてはいるだろうが、腹ではどうだろうか。
蒼空学園では、校長御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が冷ややかにモニタを見つめる。彼女の手元には、すでに明倫館に関わるデータが集められていた。
(鏖殺寺院との戦いの為とはいえ、あれほどリスクの高い低所得者向けローンで資金を集め、葦原島に学校を建設するなんて……ウィルソン家、いえ、アメリカの焦りも相当なものね)

環菜の背後、蒼空学園のテレビ会議室の外には、ドアやカーテンの間から新学校の校長を見ようと生徒達が詰めかけていた。
「新校長って、謎の服装はしてるけど、色っぺー美人じゃね?」
「甘い。あの校長のパートナーの房姫ちゃんは、マジ美少女だって噂だぞ」
「あたしにも見せてよーッ」
魔剣の主高根沢 理子(たかねざわ・りこ)も、ハイナ校長を見ようと人ごみに潜りこむ。
と、モニタの中で、ハイナが笑顔で言う。
「それから、蒼空の高根沢理子さまは、いつでも葦原明倫館に転入してくりゃれ」
「はぁ?!」
急に名前を出され、リコは唖然とする。
「なんで、そこであたしが出てくるのよ?!」
「当たり前ではありませんか。理子様はシャンバラにとって大切なお方なのですよ」
リコの後ろで、いつの間に来たのか、新日章会北条真理香が言った。リコは「うげ」とつぶやくが、真理香は素知らぬ顔で続ける。
「理子様は、いずれシャンバラに在る日本人の代表となるお方。あのようなゲイシャかぶれが率いるアメリカ学校に渡す訳には参りません」
「あたしは転校する気もないけど、そんなモノになる気もないわよッ!」

「は~、新日章会にも困ったもんだ」
リコが隣でブツブツと文句を言っている。パートナーのヴァルキリージークリンデ・ウェルザングは相槌を打ちながらも、窓から遠い空を見つめていた。
彼女達は、ツァンダからヴァイシャリーへ向かう輸送用飛空艇の護衛任務に就いていた。天候にも恵まれ、空賊やモンスターの襲撃も無い。航海は順調だ。
しかしジークリンデの表情は暗い。先日の戦いで、彼女に助けを求めてきた自称「鏖殺寺院の長アズール・アデプター」の事が思い出される。
「助けてくれ!怖いんだ!」と必死な形相でしがみついてきた彼(彼女?)が何故か気にかかった。
(優しそうな人達が、あの人を保護してくれたのだから、それで良いハズなのに……。この不安は何?大事な何かを忘れてきたような……)
ジークリンデは悩んだ末、ヴァイシャリーにいる自称アズールに会いに行かないか、リコに相談したのだ。話を聞いたリコは、
「へぇ、ジークリンデから何かに誘うなんて珍しいじゃない!気になるなら行ってみましょ」
と、快くヴァイシャリー行きを決めた。
ジークリンデにはリコのフットワークの軽さがうらやましい。
(でも私は……陰からリコや皆をそっと支えられればいいの。誰の目に触れずとも、慎ましく花を咲かせる荒野の花のように、命を紡いでいければ……)
その時、ジークリンデの想いを吹き飛ばすような叫びが、甲板から響いた。

「大変だ!ヴャイシャリーが攻撃されているぞ!」
「あれは……ダークヴァルキリー??!!」

リコとジークリンデが甲板に飛び出す。
遠目に見える水の都から、不気味な黒煙が上がっていた。
そして見覚えのある、異形の姿が煙の間を舞う。
ダークヴァルキリーは目的をすでに達成したのか、街を離れて飛び去ろうとする。その先に、リコ達の乗る飛空艇がいた。

「あれは……!」
ダークヴァルキリーが自称アズールを抱えているのを見て、ジークリンデは絶句した。普段は騒々しい魔術師も今は気絶しているのか、ぐったりしている。
と、ダークヴァルキリーが進路を急に変えた。次の瞬間にはもう飛空艇の前に辿り着いている。
ダークヴァルキリーは憑かれたような狂った笑みを浮かべて、ジークリンデに迫る。
「くふ……アハ……フフ……、まサか、ここでアナたニ会えるなんて……姉サン」
ジークリンデは目を見開く。
「ね、姉さんッ?!そんな……あなたは私の妹だったの?!」
その驚愕ぶりに、ダークヴァルキリーは落胆する。
「なんダ。何も思イ出してナイの。つまラない」
ダークヴァルキリーは奇怪な翼をはためかせ、舞い上がった。
「待ちなさい!」

リコが魔剣斬姫刀スレイヴ・オヴ・フォーチュンで斬りかかるが、空中のダークヴァルキリーには届かない。
「そノマま蛆虫ノようニ、無力に這いズリなガら死ヌがイイわ、姉サん!」
ダークヴァルキリーは、全身にいくつもある口でゲラゲラと笑いながら飛び去っていった。

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