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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 そんな風に揉めている間に、蛮族たちは壕に邪魔されながらも、バリケードに迫っていた。生徒たちは蛮族を攻撃したいのだが、相変わらず飛んで来る火炎瓶も打ち落とさなくてはならないため、蛮族に攻撃を集中し切れない状況だ。
 教導団のナイトやセイバーたちが、バリケードの前に出始めた。
 「遠隔攻撃が出来る者は引き続き火炎瓶を打ち落とせ。それ以外の者は接敵に備えろ!」
 「よっしゃ、来たぁぁぁ!」
 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)とパートナーの仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)神代 正義(かみしろ・まさよし)はいの一番に前へ出ようとした。が、
 「我々の任務は前面で戦うことではない!」
 水原ゆかりが三人を一喝する。
 「ここを守らなくちゃいけないのは教導団も義勇隊も同じではないか!」
 「戦士であれば、正々堂々、正面から戦いたいと思うものでござろう!」
 風次郎と伐折羅は口々に抗議する。
 「ここが一番激戦になると思ったから、義勇隊付きを志願したんだぜ? そんな命令聞けるかよ」
 正義はつまらなさそうに手を振って、バリケードを越えようとした。が、バリケードに手足をかけた瞬間、肩に強い衝撃を受けた。横目で肩を見ると、制服だけを貫いてランスが突き立っていた。ちょうど、ランスで肩をバリケードに縫いとめられてしまった格好だ。
 「命令違反は許さない。教導団の生徒であれば尚更ね」
 ランスの柄を握った宇都宮祥子が、厳しい表情で正義を見た。
 「そこで大人しくしていなさい。次にこんなことがあれば、貫くのは服ではなく、心臓よ」
 そこへ妲己が、査問委員たちを連れて現れた。
 「……宇都宮さん、水原さん、後は私たち査問委員が引き継ぎましょう。引き続き監視を行ってください」
 「……はい」
 正義が査問委員に拘束されたのを見て、祥子はランスを抜き、呟いた。
 「風紀委員や査問委員と『白騎士』の対立だけじゃない……今の私たちはばらばらだわ。こんなことで、本当に鏖殺寺院に勝てるのかしら……」


 その間にも、蛮族たちは確実にバリケードとの距離を詰めつつあった。
 「奴ら、まったく怯む様子がないが……恐怖感というのもはないのであろうか?」
 打ち落とされた火炎瓶から広がる炎をものともせず、壕を越えて来る蛮族たちを見て、氷術で火炎瓶を落としていたイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は自分の方が恐怖感を感じてしまった。蛮族は仲間が倒れても、その屍を乗り越えて進む。その姿はまるで、いっさいの感情がない機械仕掛けの人形のように見えた。地獄の亡者が出口を求めて彷徨っているようなその光景に、イーオンのパートナーであるヴァルキリーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)は思わず顔を背けた。
 「うーん、たしかに、ちょっとリアクションが薄すぎて不気味よねぇ」
 火炎瓶を狙うためにスコープをのぞいていたのを止め、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が言う。アルゲロとは打って変わって、こちらは残酷な光景を見ても平気のようだ。
 「蛮族は鏖殺寺院に洗脳されているようだと教導団の生徒が言っていたが、蛮族と言えど命があるものをこのように使い捨てにするとは。目的のためには手段を選ばない恐ろしい敵であるな」
 イーオンは吐き捨てるように言う。
 「カミラ、つらかったら下がっててもいいよ」
 出水 紘(いずみ・ひろし)はアルゲオ同様青い顔をしているパートナーのヴァルキリーカミラ・オルコット(かみら・おるこっと)に言った。
 「義勇隊に参加して、最後まで見届けたいと言うのは俺のわがままなんだから。お前はつきあわなくても……」
 「いいえ」
 カミラはきっぱりと首を横に振った。
 「私は、あなたのパートナーです。それに、今更逃げ出したら、君にも迷惑がかかります」
 後ろから目を光らせている監視役の生徒たちををちらりと見て、カミラは言った。
 「そうか。……ん?」
 蛮族たちの方へ視線を戻した紘は、思わず目を擦った。一瞬、蛮族の死体を足場にして壕を飛び越え、黒い影がこちらに向かって来るのが見えたような気がしたのだ。
 「今、何か……」
 紘は身を乗り出した。次の瞬間、紘は頬に衝撃を受けて吹き飛び、バリケードの外側に転がり落ちていた。カミラが悲鳴を上げる。
 「高月さん、アメリアさん、援護お願いします!」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)とパートナーのヴァルキリーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)は、紘を助けようとバリケードの外へ飛び出した。着地すると同時に殺気を感じ、クライスは反射的に盾を掲げた。ガン!と硬質な音がして、盾が凹む。
 盾に遮られてクライスは見えなかったが、ローレンスはその時、異様なものを見た。黒い人影としか言いようのないものが飛んで来て、クライスに蹴りを食らわそうとしたのだ。盾で防ぐことが出来なければ、クライスも蹴り飛ばされていたに違いない。そして、次の瞬間には、人影は姿を消していた。
 「光学迷彩か……でなければ隠れ身か?」
 蛮族を操っている者の中に高レベルのローグが居るようだ、という話をローレンスは思い出した。しかし、深く考えを巡らす暇はななった。ぶん、と音が鳴るほどの勢いでハイキックが襲って来たからだ。咄嗟に身を翻して避けたが、風圧で頬が裂け、血しぶきが宙に舞った。
 「……シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)、騎士道に則り助太刀いたす!」
 アルコリアのパートナー、機晶姫シーマ・スプレイグがそこに加勢する。だが、敵はからかうようにシーマの頭を踏み台にし、バリケードの上に飛び乗った。一瞬動きが止まり、敵の姿が明らかになる。前身黒ずくめで頭も黒い頭巾のようなもので覆い、顔にはわずかに口元だけが開いた黒いのっぺりとした面をつけている。体型からして男性のように見えるが、それ以外のことは何一つわからない。もしかしたら人工的な存在なのでは、と思わせるほど、それは『個』のない存在だった。
 「何とも不気味な奴じゃのう……」
 バリケードのすぐ後方まで出てきてしまっていた御厨 縁(みくりや・えにし)は、その姿を思わずぽかーんと敵を見上げてしまった。
 「危ないッ!」
 アメリアが縁の腕を引き、その場から離れさせた。次の瞬間、敵の足が一瞬前まで縁の頭があった場所をなぎ払った。
 「こいつを絶対にバリケードの中へ入れてはいけない!!」
 ローレンスが叫ぶと同時に、黒い竜巻がバリケードの上で踊り狂った。
 「皆、離れろ!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が至近距離からファイアストームを放つ。しかし、敵はとんぼを切ってそれを避けながら、指笛を吹いた。バリケードのすぐ外まで迫っていた蛮族がケイに襲い掛かる。
 「畜生、馬鹿にしやがって!」
 再び消えた黒い影に向かって、ケイは叫んだ。