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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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 あちらこちらで、キメラと冒険者との戦闘が繰り広げられていく。
 敵は巨大でありそして強大。しかし、冒険者には力と、そして何より協力し合う心が備わっている。

「おっ、可愛い子はっけーん! ねえねえ、この戦いが終わったら俺と二人っきりで体の隅々まで相性を確かめ合ってみない? 絶対俺たち上手く行くって――げふっ!!」
「周くん……あたし、ナンパはやめろっていつも言ってるよね? 今度あたしの目の前でナンパするっていうなら――」
「わ、わかったわかった、わかったからその武器をしまえ、な?」
 ついいつもの調子で声をかけた鈴木 周(すずき・しゅう)が、パートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)に手痛いツッコミを受ける。
「もー、さっさと行ってきなさい! あ、無茶しちゃダメだからねっ!」
「おうよ、たまにはカッコいいところ見せないとな!」
 レミの祝福の力を身体に感じながら、周が前方に目を向ければ、キメラの一匹が冒険者の一人に向かっているのを見つける。
「周くん! あの人、狙われてるよ!」
「わかってらあ! 待ってろ、今助けてやるぜ!」
 言って周が、空中を翔けキメラを追う。今にも肉薄しそうなキメラのさらに近くに寄り、抜いた剣を背中へ斬り付ける。不意の攻撃を受けたキメラは制御を失って地面に落ち、周がそれを追う。
「お前に恨みはねーんだ、すまねぇな。……落ちろぉぉぉ!」
 振り上げた剣に雷が宿り、それは刃となってキメラを貫く。下の樹すら真っ二つにするほどの衝撃を受けたキメラは息絶え、瞬く間に老化した身体は薄黒く淀んだ何かとなって地面に残された。
(ちっ、こうしなきゃいけねーのはわかってんだけど、それでも、いい気分はしねぇな)
 自ら止めを刺したモノへ、せめて救いあらんとばかりに目を伏せ、そして次の戦場へと向かう。
(やるって決めたからには、やってやらあ! ちびちゃんも他の仲間たちも、俺が護ってやるぜ!)
 確かな意思と共に、周は剣を振るい続ける。

 仲間の攻撃で、キメラの何匹かが地上に落とされていく。だが、それだけでは無論、かのモノたちの侵攻が止むわけではない。
 地上でも、激しい戦いが繰り広げられていた。

「諸君、これはもはや特攻しかあるまい。他にどんな選択肢があるというのだね?」
「……お姉様、そのネタは古過ぎて誰もわからないと思います」
「……時の流れとは無情なものね。さて、余興はこのくらいにして、一番槍は私たちで務めるわよ。セリエ、ラッパぁ!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の命令を受けて、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が高々とラッパの音色を響かせる。それは味方に立ち向かう勇気を、敵に恐れを抱かせる。
「志を同じくする者たちよ、私に付いてきなさい! 敵の前進は食い止めます、それが私たち、ナイトの役目だから!」
 セリエを後ろに乗せ、祥子はバイクを器用に操り、真っ先に正面から圧力を加えていく。次いで音色に勇気付けられた仲間たちが声を張り上げながらキメラに向かっていき、竦んでいたキメラは劣勢に立たされる。
「お姉様、次はどうなさいますか?」
「……こうなれば敵は、圧力を逃れようと側面に逃れるはず……そうはさせない!」
 祥子の言った通り、何匹かのキメラが側面に回り込もうとしていた。それを祥子は機動力を生かした立ち回りで防ぎ、集まってきた仲間と協力して側面からも圧力を加える。二面から押されたキメラの行動範囲が十分狭まったところで、絶好のタイミングで火弾や雷、氷の塊が降り注ぎ、キメラを弱らせていく。
「さあ、お膳立ては出来たわ! 男を立てるのが女の務めよ。ほら、遠慮なくやってきなさい!!」
 祥子の声に頷いて、青年とそのパートナーが飛び出していく。
(レイ、貴方はここで何がしたい? 貴方が自らの意思で選び取ったものなら、私はちびのために遺跡を守るのと同じくらいに、貴方のやりたいことを助けてあげるわ)
 祥子の思いを知ってか知らずか、青年はパートナーと共に駆け、やがて一匹のキメラと相対する。
(俺がお前らを倒すことで、お前たちを救済してやるからなっ……!)
 低い姿勢で唸りをあげるキメラを見据えて、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が剣を構える。心には、キメラへの哀情と、そのモノを救いたいという思いがひしめいていた。
「ほいじゃ行こっか〜。地上のキメラは任せたよ、白ぼさちゃん」
「ああ、俺は大丈夫だ、絶対に負けない」
 ルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)のからかいにも、レイディスは至極真面目に応える。
(あらあら、随分と真面目になっちゃって。ま、白ぼさちゃんのそれが正しいことなのかは分からないけど、ルーも頑張ってみるよ)
 一人心に呟いて、ルーセスカが銃を空に向けて、無数の弾丸をキメラへ見舞う。キメラの空を飛ぶ動きは格段に速くもなく動き自体も単調であったため、放たれた弾丸はその殆どがキメラへ命中し、攻撃を受けたキメラが悲鳴をあげる。
(待ってろ、できるだけ苦しまずに救ってやるからな!)
 駆けるレイディスへ、爪の攻撃が襲い掛かる。立て続けに振りかざされる爪の軌道を読み切り、身体と剣を必要な位置へ動かして、攻撃の影響を最小限に食い留める。
 幾度目かの攻撃で、爪が地面に突き刺さり、キメラの動きが乱れる。
「そこだっ!」
 気合一閃、振り下ろされた剣がキメラの首筋を捉え、血飛沫をあげながらキメラが地面に倒れ伏す。痙攣するように震える身体は、レイディスの突き立てた剣によって止められ、やがて黒ずんで小さくなっていく。
「お前らをこんな目に合わせたヤツを……俺は許さねぇ。俺が絶対に、助けてやるからな」
 刀身にこびりついた血を払い、険しい表情で呟くレイディスの前に、新たなキメラが姿を現した。飛んでくる炎弾をかわし、唸りをあげるその口目掛けて、切っ先を突き入れんとレイディスが踏み込む。

「落ちろ蚊蜻蛉! ……あ、この場合はキメラか。ま、こまけぇこたあどうでもいいか」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)の、片膝立ちの姿勢から放たれた一発の弾丸が、見事に一匹のキメラの腹部を撃ち抜く。その一発だけで、キメラは空中制御を失って地上に落下していく。
「流石です。やはり武尊さんはやれば出来る人です」
 背後でシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が賞賛の言葉をかける。
「誉めても何もでねぇぞ。それよりも隠れてろ、今はただの足手まといだ」
「いえ、私も戦います。だから武尊さんも私の事を信じてください。攻撃を当てることは出来なくても、牽制ぐらいはやって見せます」
「……言ったんなら責任は取れよ。俺が合図したらその銃で目を狙え」
 シーリルに冷たく接していた武尊だが、彼女の言葉と視線に態度を改める。シーリルが頷いて、自らの身体から引き抜いた光り輝く銃を手にして構える。
 ちょうど一匹のキメラが、冒険者たちと激しい戦いを繰り広げているところであった。
「へっ、余所見してんじゃねーぞ!」
 横合いから武尊が弾丸を見舞い、キメラの注意をひきつける。武尊の存在に気付いたキメラが、正面を向き大きく口を開ける。
「今だ! 撃て!」
 合図に素早く反応したシーリルが、頼りない手つきながら弾丸を発射する。直接的なダメージという点では大したことはなかった攻撃だが、それにより生まれた一瞬の時間が、生と死を分かつ決定打となった。
「あばよ」
 斉射一発、武尊の放った弾丸は狙い違わずキメラの眉間を撃ち抜く。断末魔の悲鳴すらあげずに倒れ伏すキメラを見遣って、武尊が背後を振り返る。
「まだまだだな。俺の役に立ちたきゃ、もっと腕を磨け」
「……はい、その言葉に応えられるよう、努力します」
 微笑んだシーリルに応えず、武尊が次の目標へ銃の照準を合わせる。

「よーし、なんとか盾を調達……ところでみつよー、この仕事報酬いくら出るのー?」
「えーそんなのわかんなーい。あ、もしかしたらちびちゃんに抱きついてもらえるかもー」
 木々の間を駆ける片野 永久(かたの・とわ)三池 みつよ(みいけ・みつよ)の会話が流れていく。
「ちょっと、それじゃほとんどボランティアじゃない、流石にそれは嫌よ……ってデカっ!? 思ったよりデカっ!! これは後でたんまり報酬貰わないと割りに合わないわー!」
「行くよ永久! ちびちゃん達のためにもボクたちがここで踏ん張らないと!」
 何やら噛み合っているのか分かりかねる会話を残して、二人が目の前に現れたキメラへ向かっていく。まだ十分距離を残した時点で、二人に気付いたキメラが口を開き、炎弾を放つ。それは永久のかざした盾によって防がれたのだが。
「ああ熱い熱いわー!」
 金属製だったため、延焼は免れても熱伝導までは防げなかったようである。だからといって木製では瞬時に消し炭と化してしまうだろうが。
「氷術でも使えたらよかったのにね」
「くぅー、気合だけじゃ無理あるかー。まあいいわ、このまま接触するわよ! 近付いてしまえば戦いようがあるわ!」
「うん、分かったよ!」
 もはや重いだけになった盾を放棄して、なおもキメラへ直進する永久とみつよ。他の仲間たちの援護もあって、それ以上炎弾をぶつけられることなく懐へ潜り込むことに成功する。
「雑魚のキメラは任せて! あなたたちは巨大キメラをやっちゃって!」
 永久の声に頷いて、仲間の一部が空中へと飛んでいく。
「また張り切っちゃって、終わったらきっとばたんきゅーよこれは」
「ふふ、そうなったらボクがおぶって帰ってあげるね!」
「嫌よー、だって恥ずかしいじゃない」
 キメラの攻撃をかわしながら、二人の軽快な会話は続いていく。

 空中で攻撃を受けたキメラがまた一匹、重力に引かれて落ちていく。木の枝を何本か踏み抜きながら地面に身体をぶつけるが、それでもすぐに起き上がり、遺跡のある方向へと駆け出そうとする。
 そこに現れる、ローブをマントのように引っ掛け、光り輝く大型の剣を肩に担いだ様相の駿河 北斗(するが・ほくと)
(ただ作られただけだってーのに、誰にも彼にも嫌われるなんて、寂し過ぎるじゃねーか……! 俺は仲間を護るためにお前らを斬る……けど、斬った奴らは皆憶えててやる。忘れねぇ。絶対だ!!)
 柄を両手で握りしめた北斗へ、咆哮をあげたキメラが飛びかかる。同時に跳躍した北斗の振り下ろした剣と爪がぶつかり、質量の差で押された北斗が体勢を崩されながらも何とか着地する。一足先に地面に降り立っていたキメラが次の攻撃に移ろうとした瞬間、横合いからベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)のメイスによる攻撃がキメラの頭部を捉える。
「危ねぇだろ!? プリーストは後ろに下がってろ!」
「……プリーストだから後衛……先入観ね。私は万能型なの」
 北斗の隣に下がったベルフェンティータが、一呼吸置いて次の言葉を紡ぐ。
「……万能……やっぱり言葉が足りないわね。パーフェクトに書き換えといて頂戴」
「よく分かんねぇよ!?」
 なおも言いかけた北斗の耳に、獣の唸りが届く。ふらつきから立ち直ったキメラが、再び眼前の獲物を仕留めるべく行動を起こそうとしていた。
「あなたこそ下がった方がいいんじゃない?」
「ここで退くかよ! 俺は最強を目指す男だぜ!?」
 剣を構えた北斗の目に、今にも飛びかかりそうなキメラが映り込む。
(お前らだって、こんな事したくて生まれてきた訳じゃねぇよな……畜生、ふざけやがって……畜生ーー!!)
 振り下ろされた爪を受け止めながら、北斗の声にならぬ叫びが木霊する。

 森の中を、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が縫うように飛んでいく。
「マスターがいつになくマジであります! 一体どうしたでありますか?」
 いつもなら年下の女の子に色目を使ってばかりのファタがそうしないことに、ジェーンが素直に疑問をぶつける。
「なあに、ちょいとちびのためにがんばってみるかと思っただけじゃ。悪いことではなかろう?」
「素晴らしいであります! これは微力ながらジェーンさんもお供させていただきます!」
 そして二人の上空を、キメラが彼らに気付くことなく飛んでくる。
「ほぉれ、これを受けるがよい!」
 ちょうどキメラの真下に潜り込む位置で、地面と直角に急上昇しながら、ファタが掌に浮かばせた炎を弾として放つ。火弾はキメラの腹部を直撃し、悲鳴をあげながらキメラは地面へと落下していく。
「行くであります! ジェーンさんの一撃、受けるであります!」
 地面に音を立てて落ちたキメラが起き上がる前に、同じように飛び降りてきたジェーンが、晒した腹へ深々と剣を突き入れる。最後の抵抗とばかりに振り下ろされた爪の一撃もかわされ、仲間たちの一斉攻撃を受けたキメラが地面に倒れ伏し、動かなくなる。
「んふ、まずは一匹といったところじゃな」
「! マスター、後ろであります!」
 笑みを浮かべるファタは、ジェーンの警告に対してもその笑みを崩さぬまま、飛んできた炎弾を氷の壁で受け止める。
「慌てるでない、この程度でどうにかなるわしではないわ。……じゃが、位置が特定されてはちと厄介じゃの。行くぞ、ついてこい」
「はい! 今日のジェーンさんは、どこまでもマスターに付いていくであります!」
 頷いたジェーンを背後に、ファタが箒を操作して森の中に飛び消えていく。

「来たぜ……勝手な都合で作られた命を奪うってのは、たとえ皆を護るためだとしても辛いところだぜ……」
「そのようなことを考えても仕方ありません。元はどうあれ、今は障害となっているのですからさっさと消し去りましょう」
 やって来たキメラを前にして、ロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)が沈痛な面持ちを浮かべ、一方ミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)はあくまで冷静な表情を崩さない。
「相変わらず辛辣な言葉だぜ。ま、ミリアの言う通りなんだけどな」
「あら……辛辣な言葉というのは例えば――」
「うへ、勘弁してくれ! キメラの前にミリアにやられちまいそうだ!」
 言ったロイとミリアの間を、炎が話を遮るように飛び荒ぶ。
「……この話は後でたっぷり時間を割くとしましょう。ロイ、敵の上空へ行きなさい。私が下から炎で攻撃します、そこへ雷をぶつけなさい」
「分かった、今の話は忘れておいてくれると助かるぜ!」
 言う通りにロイが飛んでいくのを見遣って、ミリアがキメラの下へ回り込む。途中何発もの炎が飛んでくるが、彼女にとりそれらは怖れるものではない。
「……その程度ですか。今度はこちらから行きますよ?」
 言ってミリアが、凝縮した炎の弾をキメラへ放つ。大きさこそ劣るものの威力は十分であり、直撃を受けたキメラが悲鳴をあげた。
「こいつでも食らっとけ!」
 そこへ、ロイの生み出した雷にキメラが貫かれ、重力に引かれて落ちていく。
「……もう少し威力を高める必要がありそうですね。ロイ、少し足止めをお願いします」
「げ、やるのかよ! ……分かった! その代わり凄いの頼むぜ、マジで!」
 ロイの言葉に頷き、ミリアが詠唱を開始する。その間にロイが牽制し、キメラの気を逸らす。他の仲間たちの援護もあって、しばらくの後に詠唱の完了を知らせるように、ミリアが目を開く。
「ご期待通り……焼き払います」
 かざした両手に炎が生み出され、それは膨大な熱量を含んだ火球となって、キメラの頭部を丸ごと包み込むように襲う。全身を黒焦げにして落ちていくキメラの様子に、ミリアが満足げな笑みを浮かべた。

 戦いが激しくなるにつれ、どうしても負傷者は出てくる。
 負傷者が多くなれば、戦力は瞬く間に落ちていく。抗戦継続の要は、負傷者をいかに迅速に、的確に治療するかにかかっている。
 
「これでもう大丈夫ですわ。無理だけはなさらずに」
 キメラとの戦闘で傷を負った仲間へ、佐倉 留美(さくら・るみ)が癒しの力を行使する。再び戦う力を取り戻し、感謝の言葉を言って前線へと戻っていく仲間を、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)が見送る。
「あの程度で治癒を乞うなぞ、情けないのう。粘りが足らんのではないかの?」
「傷を負えば、魔物に狙われやすくなりますわ。そこで無理をしても、余計に苦しくなるだけ。ならば余力のある内に治癒を受けておく方が、長い目で見れば正しい選択と言えますわ」
 それは例えるなら、水位の上がった川に対して、崩れかかっている箇所を手早く見つけて土嚢を積み上げる作業と言っていいだろう。まだ大丈夫と思って油断していると、途端に決壊して甚大な被害を及ぼすのは、両者とも同じことである。
「一人来ましたわね。……! ラムール、準備なさい」
 留美が、治癒のために降りてきた仲間と、その背後を付け狙うキメラの存在を確認して、ラムールに指示を飛ばす。
「任せておけ! あのようなモノ、わしが吹き飛ばしてくれるのじゃ!」
 意気込むラムールを見遣って、留美が声を飛ばす。
「気をつけて! 狙われているわ!」
 その声に気付いて、仲間が背後へ注意を向ける。ほぼ同時にキメラからの攻撃が飛んでくるが、ギリギリのところでかわす。しかし体勢を崩したその者に、二度危険を回避できるとは思えなかった。
「あっちへいくのじゃ!」
 まさに飛びかかろうとしたその瞬間、ラムールの放った火弾がキメラの横っ面を撃ち、悲鳴と共に森の奥へキメラが消えていく。そのまま他の仲間と交戦したようで、再び襲い掛かってくる気配はない。
「今のうちに、こちらへ!」
 留美が仲間へ呼びかけ、即座に治療の準備をする。
(キメラを遺跡へ行かせないために、わたくしはわたくしのできることをするだけですわ)
 確固たる意思を胸に、留美が治療を施していく。

 キメラの攻撃を受けて、仲間とそのパートナーが一緒に吹き飛ばされる。前衛の者たちが行動を押さえ込もうとしても、炎弾に阻まれ近付くことができずにいた。
「前の人たちを援護するよ!」
「言われなくても分かってるわよ!」
 レオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)が同時に放った火弾がキメラの頭部を撃ち、その熱にキメラが悶え苦しむ。それを好機と見た前衛の者たちが突撃をかけるが、キメラの方が一歩復帰が早く、再び放たれた炎弾が彼らを襲う。
「危ない、避けて!」
 思わず手を伸ばして駆け寄ろうとするレオナーズを、反対の手を引っ張ってアーミスが止める。そのおかげで炎弾による熱量が彼を襲うことはなかった。
「ちょっと、またそうやって飛び込もうとする! レオナの気持ちも分かるけど、死んじゃったら元も子もないんだよ!?」
「……うん、それは分かってる、分かってるんだけど――」
 言いかけたレオナーズの視界に、傷を受けて下がっていく仲間たちの姿が映る。苦しそうに顔をゆがめて唸るその姿が、レオナーズ自身をも苦しめていく。
「ほら、しっかりしなさい! レオナにもワタシにも、まだできることはあるでしょ!? だったらそれをするだけじゃないの!?」
「……そうだね。ゴメン、心配かけた。俺がしっかりしなくてどうするんだ……!」
 頭を振って気持ちを切り替えたレオナードに、アーミスが微笑んだその直後、先ほどとは比べるべくもない熱量そして豪風が、辺りの木々全てを焼き払い、吹き飛ばしていった。
「な、何よ一体!?」
「! これが、アイツの力だっていうのか……!」
 呟いた二人は、土がむき出しになった地面に降り立つ、巨大キメラの姿を捉えていた。
 戦いは、いよいよ佳境を迎えつつあった。