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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第2回/全5回)

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(こ、これがお嬢……ヴィオラの力か……! これは一時の油断すら許されないか)
 ついに自らの名を明かした黒髪の女――ヴィオラを前にして、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)の背中を冷たい汗が流れる。
「ベア、いつも通り……でいいんだよね?」
 マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)も強大な敵を前にして、いつものようにとはいかない様子であった。
「……ああ、どんな敵を前にしても、いつも通りだ。いつも通り、自分の役割を果たす!」
「オッケー、分かったわ。私はいつも通り援護に回るわね。で、終わったらみんなで、ウサリンゴでも食べましょ!」
 いつもの笑顔に戻って、マナが後方へと下がっていく。
「よし……行くぞ、ヴィオラ! ちびは、俺が護る!」
「雑魚が何を語るか……! 貴様もまとめて、永遠の闇に葬ってくれるわ!」
 言ったヴィオラの手から、漆黒に燃え盛る弾が次々と放たれる。それらは全て、成長を遂げたちびへと降り注がんとしていた。
「俺が護ると言ったら、その通りにしてみせるのが俺だー!」
 爆発が生じ、無数の塵が煙のように立ち込め、それらが吹き込んできた風によって掻き消えたそこには、身体のあちこちに傷を負ったベアと、無傷のままのちびの姿があった。
「大丈夫か……!?」
「はい、私は……ですが、あなたが……!」
「俺なら大丈夫だ……! ちび、お前はお前の役割を果たせ……!」
 心配する表情を向けられたベアが、口ではまともなことを言いつつも、心の中ではまた別のことを想像する。
(くっ……ちびのままのちびもよかったが、これはこれで……ありかもしれない! このまま俺に惚れてくれたなら――)
「小癪な、だが次は耐えられまい!」
 そこに、再び漆黒の弾が投下される。心の中の邪な想いにダメ出しをされたかのような非情なる攻撃に、ベアの意識はブラックアウトしていった。

(元気一杯! ……っていきたいところだけど、何なのよあれはー! いくらなんでもムチャクチャじゃないのよー!)
 柱の影に身を潜める陽神 光(ひのかみ・ひかる)の心の叫びも然り、である。周囲は絶えず爆発が繰り返され、いつ崩れるか知れない天井と壁に、次々と仲間たちが吹き飛ばされ打ちつけられていく光景を目の当たりにすれば、元気が取り柄の光ですら怖気づくのも無理はない。
「光、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「う、うん、私は大丈夫だけど、みんなが――」
 心配するレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)に光が答えかけた矢先、すぐ近くで爆発が巻き起こり、粉塵が二人を襲う。
「ここにいては危険です、どこか安全な場所に逃げ込みましょう。まずはそこからです」
「そ、そんなこと言ったって、どこにも安全な場所なんてないよっ」
「落ち着いて。大丈夫よ、あなたならきっと見つけられるわ」
 レティナの優しく語り掛ける声で、落ち着きを取り戻した光が周囲に視線を走らせる。彼女の直感が、瓦礫が崩れ落ちてできた塹壕のような場所を発見する。戦闘地点から少し離れており、攻撃がすぐに飛んでくる気配もない。
「あそこ! あそこなら大丈夫そうだよ!」
「ええ、では向かいましょう」
 攻撃が止んだ一瞬の間を、光とレティナが駆ける。爆発が散発的に二人の周囲で発生するが、幸運にも直撃することなく、目的地まで到達することができた。
「私はここで、怪我をした方の治療に当たります。光は、ちびさんを援護する手段をお願いします」
「援護……ヴィオラって人を足止めできればいいのかな!? それだったら私に考えがあるよ、任せて!」
 ようやくいつもの調子を取り戻した光が、早速準備に取り掛かる。その様子にほっと一息ついたレティナが、近くに倒れ伏す仲間の治療を始めた。

「貴様を喰い尽くし、私が世界を滅ぼしてやる!」
「……私は、そんなことはできない……けど、あなたの勝手にはさせない!」
 純白の翼をはためかせたちびが、掌に白色のオーラを浮かび上がらせ、無数の燐弾を見舞う。ヴィオラはそれらを翼で防ぎ切り、お返しとばかりに漆黒の燐弾を放つ。
(聖女様……私は、何をしてあげられるのでしょう?)
 その戦いを、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が歯痒い思いで見守る。ちびとヴィオラの戦いは熾烈を極め、彼らには何も出来ないように思われたその瞬間、反対側の通路から紅い影が姿を表した。
「うわわ、ナナ、あれ何なの? すっごく気味悪いんだけど〜」
 ズィーベンが指差すそれは、紅い色をした液体状の生物と呼んでいいのか不明な、しかし臓物のようなものが見えることから生物と呼ぶほかないモノであった。そして、その姿を目撃した冒険者の何人かが、飛び掛った紅い生物の下敷きになっていった。
「マズイよ、ナナ! あいつ、仲間を襲ってるよ!」
「放っておけば聖女様にも攻撃をしかねませんね。ズィーベン、行きますよ! ……護ると誓った以上、約束を違えるわけにはいきません。ちび様の為、ナナ・ノルデン、押して参ります!」
 爆風舞い上がる中を、ナナとズィーベンが駆け跳び、紅い生物へ攻撃を仕掛ける。ナナの紡いだ言葉はこの生物にも効果があったようで、何匹かの動きが止まる。そこをズィーベンの呼び出した氷柱が貫き、ただの液体と化した生物が地面に吸収されていく。
(事の顛末を見届けるまでは、誰にも邪魔はさせません!)
 まるで湧き出るように次々と現れる紅い生物を前にして、箒を横一文字に構えたナナが臆せず立ち向かう。
 箒の柄から覗く煌く刀身は、彼女の意思を象徴するかのように鋭く光り輝いていた。

「ちびさんはあんな素敵な『お姉さん』になってしまった……私は、あなたの『お姉さん』のままでいいの?」
 今までのいかにもか弱そうで、護ってあげなくてはと思わせるような姿のちびではなく、自ら先頭に立って凛々しく戦うちびを、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が見遣って一人呟く。その小さな肩に、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の大きな手が重なる。
「ご主人は今でも立派な『お姉さん』だぜ。ちびがああなったのも、ご主人の頑張りがあったからに決まってる! 俺様だって成り行きでちびの『お兄さん』になったらしいし、実際に何をしたかなんてよく覚えてねーけど、これだけは自信を持って言える! 俺はちびの『お兄さん』だし、ご主人はちびの『お姉さん』だ! ……それでいいじゃねーか、ご主人よ」
「ベア……はい、そうですよね。もうちびさんは一人の女の子として十分素敵。だから私も、ちびちゃんのちゃんとした『お姉さん』になってあげたいです!」
「その意気だぜ、ご主人! そんじゃ一つでかいの、まだよく分かってねえあいつにぶつけてやりな! そうすりゃきっと目覚まして、ご主人の話を聞いてくれるはずだぜ!」
 ソアにガッツポーズを見せて、ベアが果敢に突撃を敢行する。
「おらおらー! 俺様の目が黒いうちは、好き勝手な真似はさせねーからな!」
 ベアの奮闘を支えに、ソアが精神を集中し、心に魔法の形を思い描く。どれほど体系付けられ、理論で固められていても、意思の力というのは存在するのであり、それにより体系や理論を越えたものが出来上がるのである。
(ちびさんも、そしてヴィオラさんも、出来損ないじゃないです……! 二人ともちゃんとした女の子なんです!)
 瞳を開いたソアの前に、まさに心に描いたとおりの魔法が具現化する。炎、雷、氷、酸、そのどれとも言えない、もし表現するならば『想い』という名の属性を秘めた一撃がヴィオラを捉え、強烈な爆発と爆風が巻き起こった。

「うわー、凄い魔法だったね〜。流石にあの魔法だったら、ええと、ヴィオラ? も無事とはいかないよね〜」
 もうもうと立ち込める粉塵を前にして、ユーニス・シェフィールド(ゆーにす・しぇふぃーるど)が声をあげる。
『家来にしてはなかなかやりますねぇ。将来が楽しみかもしれないですぅ』
 そこに、空間を裂いて現れた人物、それは見間違えることなく、イルミンスール魔法学校校長、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)とそのパートナー、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)であった。
「エリザベートちゃん!? アーデルハイトさままで、どうしちゃったんですか!?」
 驚きの声をあげるモニカ・ヘンダーソン(もにか・へんだーそん)に、アーデルハイトが答える。
「私がこやつに説教したのじゃよ。自ら名前を決めておきながら、何もせずただ任せてばかりなのはいかほどか、とな」
「何もしなかったわけではないですぅ。帰りを待つのも、お、親の役目だと思うのですぅ」
 『親』という部分を言いづらそうにしながら、エリザベートが反論する。それでもここに来たのは、やはり親としてちびのことが心配だったから、なのかどうかは本人のみぞ知るところである。
「あはは、でもこれで、何とか終わらせられそうだね! 何かワケわかんない生き物が出てきた時は、もうダメー! って思ったけど、二人が来てくれたなら安心だよ〜」
「なに、その生物とやらはどこにおるのじゃ?」
 謎の生物という言葉に反応したアーデルハイトが、ユーニスに尋ねる。
「……ふむ、ちと気になるのう。エリザベート、私は少し調べてくる。ちびのことは任せたぞ。……二人、私を案内してくれるか」
「わ、分かりました、アーデルハイトさま!」
 アーデルハイトを連れてユーニスとモニカが駆けていく、その後ろでエリザベートが腕を組んで、ヴィオラとちびがいるであろう粉塵の先を見据えていた。
「あれー!? おにいちゃん、校長先生がいるよー!?」
「えっ、そうなのかクレア……って本当にいるし。どうしたんですか?」
 戦いが一段落したのを確認して戻ってきた本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、エリザベートの姿を見つけて声をかけてきた。
「そんなに私がこの場にいるのがおかしいですか!? まったく、こんなことになるなら来ない方がよかったですぅ」
「ご、ごめんなさいっ、そんなつもりじゃなかったんです」
「失礼しました、来てくださってありがとうございます」
 不機嫌そうに答えてそっぽを向くエリザベートに、自らの非礼を詫びる二人。
「……てへへ、本当は、校長先生の言う通り、何でここにいるのー!? って気分だったんだ♪」
「俺もだぜ、あのワガママな校長先生が、自分が連れて帰るように命令した件に自ら出てくるなんて、明日は雷でも降ってくるかな」
「お菓子まで降ってくるかもね、校長先生お菓子好きそうだし」
「……おっと、俺のダイスも、明日の異常気象を告げているぞ。これは期待大といったところだな」
「……二人ともぉ、ちゃあんと、聞こえてますよぉ。あの黒髪の女とやらにお仕置きする前に、あなたたちにお仕置きしてあげてもいいんですよぅ?」
 小声で話したつもりだったのだが、しっかりとエリザベートには聞かれてしまったようである。びくりと身体を震わせて涼介とクレアが口をつぐんだところで、粉塵が晴れ、地面に膝を付けてうずくまるヴィオラ、彼女の前に佇むちびの姿が露になる。
「……私を、喰わぬのか? でなければ喰われるのは貴様だぞ」
 ヴィオラの問いに、ちびは黙って手をかざす。掌を向けられたヴィオラの傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「……私たちは、どうしても一つにならなくてはいけないのでしょうか? 元は一つだったとしても、だからといって元に戻る必要があるのでしょうか? 私たちはもう少し考えてみる必要があるのではないでしょうか。私は、皆さんにそれを、教えられたような気がするのです」
 言い残して、ちびが振り返り、エリザベートを見やる。自らの判断の是非を問うような視線を向けられて、エリザベートが答える。
「それがちびの決めたことなら、私があーだこーだ言うつもりはないですぅ」
 エリザベートの言葉に、ちびが笑顔を見せる――。



「……甘いな。私は既に、これしかないと決めているのだ」



 踏み込んだヴィオラの、漆黒に満ちた拳がちびの腹部を貫く。驚愕に満ちたちびの表情、瞳から一滴の涙が零れ落ち、やがて全身を包む漆黒の炎に全て掻き消される。
 呆然と立ち尽くす冒険者たち。一部始終を目撃したエリザベートの表情から笑みが消え、その場に膝をついて崩れ落ちる。



『フッ……フフフ……フハハハハ……ハハハハハハハ!! ついに、ついに手に入れたぞ! 完全なる身体を! 完全なる力を! ……さあ、今から貴様らに、全ての破壊を、そして新たな創造による秩序をくれてやる!!』



 漆黒の闇に消えたヴィオラの、自信に満ち溢れた言葉だけが、冒険者たちに投げかけられる。



「ちびーーーーーーーーー!!!」



 叫んだエリザベートの瞳は、大粒の涙に濡れていた――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 『イルミンスールの冒険Part1〜聖少女編〜 第2回』リアクション公開しました。
 
 他人様の作られた設定を出来る限り引き継いでの1回目(物語としては2回目ですが、自分が担当した、という意味で)、お見苦しい点多々ありましたことを最初にお詫びしておきます。
 描写的にどうかな、というものもいくつか出してしまい、申し訳なく思う次第ではありますが、それでもなお、お楽しみいただけたならば、幸いであります。
 
 
 ヴィオラ、ネラ、そしてちび。
 三人の少女に課された力、そして運命。
 
 二人を取り込んだヴィオラの破壊に、世界は包み込まれてしまうのか――?
 慟哭するエリザベートの決断は――。そしてその時、冒険者たちは――。
 
 次回、『聖少女編』最終回。
 冒険者たちの思いが、イルミンスールを動かす――!
 
 
 ……予告がだいたい大げさになるのは、いつものことです。

 それでは次の機会に、よろしくお願いいたします。