天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

栄光は誰のために~英雄の条件 第1回(全4回)

リアクション公開中!

栄光は誰のために~英雄の条件 第1回(全4回)

リアクション

 《冠》の試験要員として選ばれたのは十五組の生徒たちだが、辞退者が出たため、現在テストに参加しているのは十三組である。《工場》で発見された《冠》は十三個、うち一つは《黒き姫》が装着しており、本校に持ち込まれたのは十二個。つまり、少なくとも現在被験者として選ばれている生徒のうち一組は、正式な使用者にはなれない計算だ。だが、
 「もっとも、使用者が十二組ぴったりである必要はないわ。十二個揃っていないと動かないものではないし。テストの結果によっては、十二組より少なくなる可能性もあります」
 と明花は言う。
 「あ、あたしの分も頑張って、正式な使用者にならなかったら許さないんだからね!」
 自分も試験に参加したいとさんざんごねたアリスのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は、同じアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)をパートナーとするシャンバラ人クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)の襟を締め上げない勢いで、噛み付くように言った。アカリは、
 『クリスティーナに何かあったら、アクィラを通してあたしにもダメージが来るかも知れない、そんなのを一人黙って見ているのはゴメンだ!』
 というわかりにくい愛情表現で、自分も試験に参加するとアクィラと明花に向かって訴えたのだが、
 「特例は認めません。攻城戦に出場して評価の対象になったのはカンパニーレで、そうでないあなたをいきなり参加させるのは、今補欠候補になりたいと申し出ている生徒たちとのつりあいから言って出来ないし、同一の地球人をパートナーとする二人以上のパラミタ人を、同時に被験者とすることも出来ないわ。どうしてもあなたが参加すると言うのなら、カンパニーレは辞退、あなたが補欠候補として改めて選考を受けるということであれば認めるけれど?」
 と明花に一蹴されてしまい、本当に涙ながらに諦めたのだ。……と言うか、まだ諦め切れていないようだが。
 「わかっていますよぅ、アカリさんの分も頑張って来ますねぇ」
 クリスティーナは微笑んで、アカリの頭を撫でる。
 「で、あの、本当にパートナーの地球人にはダメージが来ないんですか? 他のパラミタ人パートナーには?」
 アクィラは念を押すように明花に尋ねた。
 「もともと『一人で使う物』として作られているからだと思うのだけど、使用者のパートナーには、『パートナーが苦痛を受けることを側で見ていることによる精神的ダメージ』以外のダメージは与えないわ。私が証人よ」
 「……あ、俺たちの前に、太乙教官が使ってみたんでしたっけ……」
 胸を張る明花を見て、アクィラは思い出した。なるほど、それなら確かに、そう断言できる生き証人だ。
 「太乙だけじゃなく、技術科の生徒数人とそのパートナーで実験済みよ。幾ら何でも、命に関わるようなダメージを受けるようなものを、技術科の外には出しません」
 (さすが、『常在戦場』、教導団で実は一番危険と言われている兵科……)
 明花の言葉を聞いて、冷や汗をかくような気持ちで、アクィラは心の中で呟いた。
 一方、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)はパートナーの機晶姫エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)を励ましていた。
 「エリーズ……大丈夫よ、ワタシがいつも側にいるから」
 「うん、必ず正式な使用者になるから、応援しててね」
 そしていつか、変形して空を自由に飛べるロボットに!が夢のエリーズは大きくうなずく。
 「さて、一番手は俺だな」
 ゆる族猫花 源次郎(ねこばな・げんじろう)が進み出て、歯医者の診察室の椅子のような、ほとんど平らになるまでリクライニングする椅子に座る。ほとんどの生徒が冠をつけると失神してしまうため、立ったり、普通の椅子に腰掛けた状態では試験が出来ないのだ。
 「頑張れ頑張れ、やればできる!」
 椅子の側で、パートナーの神代 正義(かみしろ・まさよし)が励ます。
 「じゃあ、始めるわよ」
 明花が《冠》を持ち上げ、源次郎の頭に載せる。同時に、内側の棘が伸びて着ぐるみの中に潜り込む。次の瞬間、源次郎は白目をむいてがっくりと脱力した。
 「どうしてあきらめるんだ、そこで!」
 正義は、失神した源次郎に向かって叫ぶ。
 「……いや、あきらめるも何も」
 戻って着た楓にSPリチャージで気付けをしてもらい、意識を取り戻した源次郎はぶるぶると首を振った。
 「こっちで全力で出さないようにと思っても、棘が刺さったら一気に勝手に持って行かれちまうんだ。正義の励ましをうるせえと思ってる暇も余裕もなかったぜ。こりゃ、若いモンでも酷だな。で、正義は何ともないのかい」
 「いや、別に何も? この通りぴんぴんしてるぜ?」
 正義は平然と変身ポーズをしてみせる。
 続いて、クリスティーナとエリーズが相次いで《冠》を使ってみたが、源次郎同様、パートナーが励ます間もなく気を失ってしまった。
 「力を吸い上げると言うことは、水道の蛇口みたいなもんかと思うとったけど、これは、バケツ逆さにして水を捨ててるようなもんどすなあ……源次郎はんの言う通り、いっぺんにどばあ、ですわ」
 次に挑戦したゆる族山城 樹(やましろ・いつき)も、パートナーの宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)のため!と思って頑張ろうとしたが、あえなく失敗に終わった。
 「それにしても、本当に、地球人には影響がないのね」
 樹と自分はつながっているのだから当然自分にも影響があるはず、と思っていた祥子は、あまりのあっけなさに目を瞬かせている。
 「……本当に、やるのでありますか」
 皆の様子を見て不安になった金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、パートナーの剣の花嫁レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)に耳打ちをした。
 「はい。私の力が皆の役に立つのなら。どこまで耐えられるかなんて、やってみなきゃ分かりませんし」
 レジーナはきっぱりとうなずき、椅子に座る。健勝は手を持ち上げ、少し迷ってから、レジーナの肩に手を置いて、すぐに引っ込めた。レジーナは何か言いたそうに健勝を見上げたが、結局何も言わずに《冠》を装着した。何かを無理やり頭の中に押し込まれるような違和感の後、ものすごい脱力感が襲って来て、何も考えられなくなる。
 パートナーが目を閉じたのを見て、健勝は思わず、レジーナの両肩に手を伸ばした。
 「レジーナ! しっかりするであります!! ……!?」
 肩に触れた瞬間、健勝は自分の手がレジーナの肩に吸い付いたような気がして、とっさに手を引いて手のひらを見た。レジーナはうっすらと目を開けて、健勝を見た。
 「……大丈夫かな、って感じがしたんですけど……。今、健勝さんが、肩に手を置いてくれた時。ただ安心できるだけじゃなくて、もっと別の……。ごめんなさい、上手く言えないんですが……」
 それだけ言うと、疲れ切ってしまったように目を閉じる。
 「《冠》を装着した後も被験者が意識を保っているのは、初めてでは?」
 楓が明花を見る。
 「楊教官。あの、今、何か変な感じがしたであります。あまりにも変だったので、すぐに手を引っ込めてしまったのでありますが、レジーナの肩に自分の手が吸い付いてしまったような……」
 健勝が顔を上げて、明花を見た。
 「……もしかしたら、物理的に接触していると何か効果があるのかしら」
 明花の呟きを聞いて、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)がパートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)に言った。
 「ベタだが、手でも握ってみるか? 教官、次は我々が試して見てよろしいですか?」
 「やってみて」
 明花はうなずいた。椅子に腰掛けたシルヴァの手をレオンハルトが握った後、シルヴァの頭に《冠》が載せられる。
 「シルヴァ様、シルヴァ様、頑張って!」
 レオンハルトのもう一人ノパートナー、ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が一生懸命励ます。
 「……何だ、これは……」
 手のひらの異様な感覚に、レオンハルトは呆然とした。まるで、自分の手のひらとシルヴァの手のひらがべったりとくっついてしまったような感じがする。
 「あの……何か、とっても安定してるんですけど……」
 シルヴァが呟く。若干の脱力感はあるが、『急に、気を失うほど』ではない。
 「どんな感じがするか、もう少し詳しく教えて」
 明花は真剣な表情で、シルヴァに尋ねる。
 「魔法で力を使う時の、あの感じが細く長く持続してるって言うか。少しずつ疲れて来てますけど、これまでの皆みたいに一気に気を失う、っていう感じじゃないです」
 「ルーヴェンドルフはどう?」
 「こちらは、力を使っている感じはしません。ただ……そうだな、自分の体の延長として彼女の体があると言うか、体の境目がなくなったようなと言うか、妙な気分です。彼女の体から力が流れ出ているのはわかる。だが、俺の体から彼女に向かって力が流れ出ている感覚はありません」
 「そう……いずれにせよ、物理的に接触していることがカギみたいね。……そこのあなた」
 明花は一通り周囲を見回し、椅子の側で固唾を飲んでいるルインに呼びかけた。
 「何ですか?」
 「ルーヴェンドルフのパートナーよね? 彼のかわりに、アンスウェラーの手を握ってみて」
 言われた通りにルインがレオンハルトと交替すると、途端にシルヴァは気を失ってしまった。
 「わーっ!?」
 ルインはびっくりしてシルヴァにヒールをかけたが、怪我ではないのでヒールでは目を覚まさない。技術科の生徒がSPリチャージを使うと、シルヴァはゆっくりと目を開けた。
 「手をつないでいる間、何か、いつもと違うところはあった?」
 「ルインの方には、特にありませんでしたけど」
 明花に聞かれて、ルインは首を傾げる。
 「地球人にしか、コントロール出来ないということ……?」
 明花は呟くと、生徒たちを見回した。
 「考えをまとめたいので、実験を一時中断します。あなたがたは休憩していてちょうだい。何かあったら、教官室に居るから」
 「ちょうど良く、かにかまうどんが出来たわよ」
 エプロンと三角巾をした一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)が、湯気の立つ丼を乗せたお盆を運んで来た。パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)が被験者に選ばれているが、それに協力とすると言っても、何をしたらいいのか迷った結果、とりあえず使い方を研究すれば良いのかなあ、と思ったようで、野武たちと一緒に、《冠》から得られるエネルギーを有効活用する方法を調べている。とりあえず発電に使いたくていろいろと試しているのだが、もともとのエネルギー供給が不安定なのでまだ上手く行っておらず、持って来たうどんは持ち込んだIHヒーターを普通の電源につないで作ったものだ。
 「かに、かまう、どん?」
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)のパートナー、英霊ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)が、お盆に手をかけて丼を覗き込もうとする。
 「いいにおい、なに?」
 「ちょっとちょっと、こぼれちゃうでしょ! 熱いんだから」
 月実は慌ててお盆を差し上げ、助けを求めて周囲を見回した。
 「あー、すまん。ほら、ルー、こっちで待ってろよ」
 デゼルがルーを呼ぶ。ルーが離れて行った隙に、月実は皆に丼を渡した。
 「えっと、その……これ、受け取って!!」
 最後に、月実は楓に丼を差し出すと、お盆を抱えて脱兎のごとく逃げ出した。
 「相変わらず、何やってるのかしら……」
 割り箸をぱちんと割りながら、リズリットがその背中を見送る。一方、楓はぽかんとしていたが、丼を脇に置くと、月実を追いかけた。
 「あの、一ノ瀬さん」
 「な、なに!」
 月実はお盆を抱きしめたまま、上ずった声で尋ね返す。
 「え、ええと、お箸を貰おうと思って……」
 楓は月実の反応に戸惑いながら言う。
 「ああ、お箸! ごめんね、渡さなかったっけ」
 月実はエプロンのポケットをごそごそと探って、楓に割り箸を渡した。
 「ありがとう。いただきます」
 楓はちょっと引きつりながらも何とか笑顔を返すと、作業台の周囲にスツールを並べてうどんをすすっている皆の所へ戻って行った。
 「……SPリチャージだと回復してヒールだと回復しない、ということは、主に魔力や精神力をエネルギーに変えているということなんでしょう。では、被験者がSPリチャージを使える者だったり、SPリチャージを誰かにかけてもらいながら使えば、その分長時間使えたり、出力に変化があったりということになるんでしょうか?」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が難しい顔で言う。
 「かけてもらいながら使う方は、私がSPリチャージを使えますからすぐに出来ますよ。バーロットさん、協力してもらえますか?」
 楓は、小次郎のパートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)を見た。
 「はい。……実は、もしも命に関わるような試験だったら、小次郎さんにも影響が出るでしょうから、途中でやめさせてもらおうと思っていたのです。でも、SPリチャージで回復することがわかっていて、《冠》の使用中にかけて頂けるなら、安心そうな気がいたしますし」
 リースはほっとした表情でうなずく。
 「私もやってみることにしようか? ハンスはだめだが、私はSPリチャージが使えるのでな」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がパートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)を見る。
 「構いませんよ。少し試してみたいこともありますし」
 ハンスはうなずく。
 「使用者本人が使えるってパターンの方は、オレがやってやろうか?」
 機晶姫ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)が手を挙げてから、ふと首を傾げた。
 「……あれ、でも、使用者本人が使いながらSPリチャージもって、そんなこと出来るのか?」
 「《冠》をつけている最中は、SPリチャージもですけど、魔法や技能は一切使えないと思います。と言うより、多分、身動きすることすら難しいです」
 シルヴァが言う。
 「あの感覚をどう言ったらいいのか、正直悩むんですけど。平均台の上にいるとか、綱渡りをしてるとか……精神的にも肉体的にも、ものすごく集中力とバランス感覚を求められているような感じなんです。《冠》をかぶる前までは、精神力は『驚きの歌』を使えば自分で回復すればいいかなって思っていたんですけど、喋るのがせいいっぱいで、とてもそんなことをする余裕はありませんでした。もしかしたら、慣れて来れば、余裕ができるのかも知れませんが」
 「《冠》によるエネルギー供給が実用化されたとして、使用者はまったくの無防備になる、ということでありますか?」
 健勝が尋ねると、シルヴァは多分、とうなずいた。
 「画期的かと思ったけど、そうそう都合のいいことばかりじゃないわけね。もしも、地球人のパートナーと手をつないでないといけないなんてことになったら、そのパートナーも動けないわけでしょ?」
 祥子がため息をつく。
 「楊教官は、『現時点で作れそうなものは最小でも重機関銃サイズだ』って言っていたけど、それに《冠》の使用者が身動き取れないっていう条件をプラスすると、作れるものは限られて来るわね。やっぱり重火器とかになるのかしら。レールガンは作れない?」
 「レールガンを作りたいなら、まず《冠》からのエネルギーを電気に変換することが必要になりますよね。あれって、レールに電流を流すわけでしょう?」
 翔子に尋ねられて、楓は首を傾げる。
 「《冠》からのエネルギーで発電機を回したら、普通の発電と何も変わりませんから意味ないですし。でも、直接電気に変換できるようになるかどうかは、現時点ではまだわからないですから」
 離れた場所で何やらゴソゴソしている野武や月実たちを見ながら、うどんをすすり込む。
 「輸送科としましては、道路や輸送隊の警備に使えそうなものが出来ると嬉しいのですが……」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が細い声で言う。
 「光条兵器を強化できるといいなーなんて思ってたけど、身動きできないんじゃねー」
 リズリットが唇を尖らせる。
 「そうだよね、変形ロボットになって、胸のパーツとか頭のツノから光線出せるようになるのかと思ったのに……」
 どこのスーパーロボットですか、と突っ込みを入れたくなるようなことをエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が言う。
 「せっかく元は光条兵器の強化にも使われたアイテムなんだから、光条兵器の強化に使いたいよなあ。二人羽織りみたいに、後ろから地球人パートナーが操るとか……いや、だめだな」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は言いかけて、自分とパートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が二人羽織状態になったところを想像し、発言を取り消した。垂とライゼの場合、ライゼの方が小柄なので(小柄すぎて動きにくいとは思うのだが)まだましに思えるが、操られるパートナーの方が大柄だととんでもないことになりそうだ。
 「やはり、楊教官が例に挙げていた重機関銃のようなものが無難なのかも知れないな」
 うどんを完食してどんぶりを置き、ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)が腕を組む。
 「光条兵器でも、射撃タイプのものを選んで固定砲台に使うことは出来るんじゃねーか? 《冠》を使うペアの他に撃つ方向や角度を制御する砲手が必要になるけど、それは誰でもできるだろうし」
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)が言った。
 「そうだな。『光条砲台』なんてものがあるって噂を聞いたこともあるし」
 垂の表情が少し明るくなる。