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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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「こちらの会議の内容は、記録に残しても構いませんか?」
 席には着かず、蒼空学園のエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)の後に控えている片倉 蒼(かたくら・そう)が尋ねる。
「この会議のことについては、一般には非公開になる部分も出てくると思うの……もしかしたら、全部言えない可能性もあると思う。だから、メモくらいはいいけど、他校の方の音声、映像の記録はご遠慮願えないかと思います」
 メイベルの隣でセシリアがそう提案する。
「うんそうだね。鏖殺寺院には絶対知られちゃダメだし。百合園生も、ICレコーダー等での個人での録音は控えてね」
 セシリアの言葉に賛同し、静香がそう言うも拘束力はない。メニエスはそっと目を伏せた。
 警備はしているし、学生証の提示などもしてもらい集めたメンバー達だが、集まった理由は様々だ。善意だけで集まっているという保証はないのだ。
「わたくしは議事録のお手伝いをいたしますわ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がそう申し出る。
「後々、その非公開部分の情報が何かの役に立つかもしれませんもの。音声や映像につきましては、改竄防止処置にも務めたいと思います」
 生徒会長の春佳が頷く。
「お願いするわ。とりあえず、メモもしておいて」
「畏まりました」
 フィリッパは資料の裏に、これまでの百合園の説明、ソフィアの説明、出た質問について書き出していく。
 議事録作成時には、個人的にバックアップもとっておき、保存しておくつもりだった。
 ただ、勝手に行なってはそれが誤解を生み、問題が起こる可能性もあるので、生徒会長には改めて許可を得ておこうとフィリッパは考える。
「だけど、一部とはいえ、何故離宮は鏖殺寺院に占拠されてたの? それほど潜入・工作がされやすい構造だったんですか?」
 メニエスの問いに、ソフィアは少し考えてから言葉を発した。
「離宮は要塞ではありませんでした。警備体制にも問題があったのでしょう。……当時、潜入方法まで調べる余裕はありませんでした」
「鏖殺寺院の人造人間って言うのは機晶姫とは違うんですか?」
 そう質問を切り出したのは蒼空学園の葛葉 翔(くずのは・しょう)だ。
「機晶姫のようなタイプの者もいるとは思いますが、生身の人間そのものであった人造人間も存在しました。私達はただ交戦しただけで、その技術の詳細は何も分かっていないのです」
「捕虜を捕らえたことはないんですか?」
「ありましたが……すみません。眠りから覚めたばかりで、正直昔の記憶に曖昧なところがあります」
 ソフィアは立て続けの質問に困ったような顔を見せた。
「すみません。分かる範囲で構いませんし、記憶が戻った際にはその都度百合園に教えていただければと思います。当時のトラップについてはどのようなものだったのか、お分かりになりますか?」
 申し訳ないと思いながらも翔は質問を続ける。
「魔術系が多いようでした。来襲により占拠されたわけではありませんので、内部から簡単には判明しないような魔術的な罠をしかけていたようです。確か地雷や、毒ガスに類するような魔術の罠に倒れた者が多くいました」
「では、離宮の封印をといた時の影響は? 離宮で眠りについている騎士はどんな人物なのでしょう?」
「5000年も経っていますので影響についてはなんとも……。眠っている騎士――ジュリオは30代半ばのヴァルキリーです。凄腕の聖剣士でした」
「離宮はヴァイシャリーの陸地に現れるのかしら?」
「……否定はしません」
 ラズィーヤの問いに、ソフィアはそう答えた。
 となると、今ある建物、街はどうなるのだろうか……。
 緊張する場の様子に、翔は軽く唾を飲み込んだ。
 なんだかちょっと自分は場違いだったかもしれない。真面目な話しは苦手なのだ。
 茶を飲んで、そっと息をつく。自分が聞くべきことは、あらかた訊ね終えた。
「……6人の騎士達の、当時の事を話してくれないか? 何があったのか。名前の由来も。あとは、当時戦った鏖殺寺院の者のこと。特に、吸血鬼のような者はいなかったか? ファビオを連れ去った相手が吸血鬼ではないかと思ってるんだ」
 蒼空学園のアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)の問いに、頷いた後ソフィアは話しだす。
「二つ名につきましては、住民が勝手に呼んでいただけで、私達がそう呼び合っていたわけではありません。マリルとマリザは双子の姉妹です。彼女達の故郷は鏖殺寺院の襲撃により滅びています。カルロは守護天使の魔術師です。ジュリオは体格の良い男性でした」
 女王の親族の護衛の為に、離宮に移り住んだ6人は、特に大きな事件に巻き込まれることなく女王の身を案じながら任に就いていた。
 しかし、この地にも鏖殺寺院の手は既に伸びており、いつの間にか離宮に入り込んでいた鏖殺寺院のメンバー達に離宮は制圧されかかってしまう。
 この地の軍と、6人だけでは到底立ち向かうことが出来ないほどの勢力に、6人は生命力を賭して離宮ごと封印することを決意した。
 ファビオは真っ先に自分の封印を施すと、制止も聞かず弱った状態で女王の助けに宮殿へと向かってしまい、鏖殺寺院のメンバーに討たれた。
 マリルとマリザは封印を施した後、残された同族の子供達と共に、故郷で眠りについた。
 ジュリオは人柱となり離宮に残り、ソフィアとカルロで最後の封印を施し、カルロとソフィアは別々に眠りについた。
「鏖殺寺院のメンバーですが、吸血鬼もいたと思われますが、たとえ血を吸われたとしても、彼が鏖殺寺院に従うことはないでしょう」
「離宮の内部についても、出来る限りご説明お願いします」
 イルミンスールのオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)が、ノートにペンを走らせ、これまでの情報を分析しながら尋ねる。
「詳しい構造と、敵の情報、戦力的な情報を特に。出来れば地図を作りたいですね」
「現状は正直分かりません。封印した生物すべてが眠っているとは限りませんし、既に滅びているのか、繁栄しているのかも定かではありません。地図に関しては大まかなものでよければ、私が書かせていただきます。……ただ、こちらに関しても離宮すべてを把握していたわけでも、記憶が曖昧な部分もあることはどうかご理解下さい」
「わかりました。とりあえず、簡単に書いていただけますか?」
 オレグは立ち上がって、紙とペンをソフィアに渡した。
 頷いてソフィアはゆっくりと地図を描き始める……。
「悩んでばかりでも仕方ありませんから、休憩と考えてお菓子でも食べてリラックスしましょう」
 オレグは皆にそう呼びかけて、セシリアが用意した小さな菓子を1つとって、口にいれ、椅子に深くこしかける。
 集まった人々も、茶に手を伸ばし吐息をついていく。
「当時のままなら、このような外観でしょうか……」
 ソフィアが大まかな地図を書き終える。離宮の内部までは描かれてはいない。
 一際大きな宮廷。その周囲にある別邸。
 庭は各場所に。中庭には大きな噴水。
「……それにしても、ものすごく広大な建築物に思えるのは気のせいですよね?」
 そうオレグが尋ねると、ソフィアは首を左右に振った。
「集落数個分の広さがあります。何千人もの人々が暮らしていました」
「厳しいな……」
 アルフレートが歯噛みする。
「出発前に、団員の訓練が必要だろう」
 アルフレートは鈴子に目を向けた後、優子に目を移す。
「……団員の資質を見極め、前衛に向くもの、後方支援に向くもの、それぞれの訓練を行ってはどうだろう……? パラ実生、闇組織の暗躍……さらに離宮の調査、解放にも人手が要る……団員の能力の底上げは悪いことではないと思うが……? 他校との連携はもちろんすべきだと思うが、一方的な救援では、『協力』は成り立たない……団員一人一人が百合園を、ヴァイシャリーを思い守り戦う意志があるか、見せれるか……問うには今が良い機会じゃないか……?」
「そうだな、具体案はすぐには思い浮かばないが……」
 優子は腕を組んで考え込む。
「また、離宮の調査についても今のうちに白百合の後方支援……怪我人の救護、物資の支援など態勢を整えておけば、実際に調査が始まってからああだこうだするより、良いんじゃないかな……?」
「仰るとおりです。白百合団は必要に応じて武器を取ることもありますが、本来救護活動に重点をおいた活動が望ましいのです。団員が中心となり、団員以外の百合園生であっても志願者には救護、物資の手配を手伝っていただこうと思います」
 鈴子のその言葉に、アルフレートは強く頷き、1人離宮をイメージしていく。
(離宮に眠る鏖殺寺院の負の遺産、か……どれほどのものがあるのか、知らないが……全て、叩き潰してやる……)
「相当に危険な所の様ですね。ボク達の訓練や他校の皆様の協力も欠かせない所だと思います。……と、済みません月並みでっ」
 白百合団員の真口 悠希(まぐち・ゆき)がぺこりと頭をさげて、言葉を続ける。
「戦いは敵を知り己を知れば百戦危うからずと言います。出向いて戦う前に出来る限りの調査は行っておきたいですね……。あと」
 悠希が静香に目を向ける。
「……よかったら静香さまも、ボク達と一緒に訓練しませんか? 無理をする必要はないのですけど、校長の静香さまが頑張っている姿が伝われば、みなさまもやる気が出ると思いますし、静香さまにとっても……良い気がするのです」
 悠希は、静香が皆を守るために自分自身もっとしっかりしなければならないと思っていることを、知っていた。
 傷ついていく皆を前に、何も出来ないでいたら、優しい静香もまた傷つくだろうから……。
 真剣な会議の場であるここでは言えないけれど、悠希は静香と出来る限りいつでも一緒にいたいから、離れ離れになってしまうかもしれないという不安があるから。そんな思いもあっての提案だった。
「僕は僕の必要性というのが、ちょっとよく分からないけれど……ラズィーヤさんが僕を選んだのにはラズィーヤさんなりの理由があると思うし」
 そう、静香がラズィーヤを見ると、ラズィーヤはにっこり微笑みながら頷く。
「静香さんはそのままでいて下さった方が嬉しいですわ☆」
「で、でも……。皆と一緒に強さについて学ぶことくらい、いいよね?」
「校長はまず、護身術から学ばれればよろしいかと。武具の扱いよりは、スタンガンなどの護身用の道具の使用方法や扱いについて調べておくべきでしょう」
 優子がそう提案し、静香は首を縦に振った。
「それじゃ、護身術とか、受身、からかな?」
 そして悠希を見て、頷きあう。
「静香さまはボクが命に代えても必ず守る……なんておこがましいかもですね」
 そっと、悠希は目を伏せる。
 今はまだ、会議室で隣に座れる程、生徒会に認められてはいないけれど、
(でも……ボクは静香さまと、どんな困難も乗り越えていきたい……二人でならきっと乗り越えていける)
 そう思うのだった。
「命に……とか言わないでほしいな」
 静香の優しくて心配げな声が響いた。