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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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○    ○    ○    ○


 イルミンスールのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、空飛ぶ箒に乗って、農家の喫茶店を目指していた。
『占拠してるパラ実生をボッコボコに完膚なきまでに叩きのめす』
 というミルミの言葉を聞き、カレンの脳裏に蘇ったのは瓦礫の山。
「またか? またなのか!?」
 激しい戦闘、充満するガス。そして、倒壊した別荘。
「あの子に任せておいたら、折角計画に上がった農園開発が軌道に乗るどころか、喫茶店も家も厩舎も倉庫さえも全壊してパラ実生はおるか、罪の無い農家の人々や家畜も全て生き埋めに生き埋めになっちゃうよ!」
 それだけは避けなければと、必死にカレンは箒を操って農家を目指していた。

 同時刻。
 サルヴィン側の辺、人道の近くに存在する新鮮な野菜ジュースやスープが自慢の喫茶店に、柄の悪い男女が集まっていた。
 彼等は金を殆ど払いもせず、脅して軽食やスープを作らせ散々営業妨害をして帰っていく。
 農家の家長である店主は、店を閉めることも考えたのだが、そうすると今度は家の方へと彼等は押し寄せて子供達を脅していくのだ。
 幸い大した暴力は振るわれていないのだが、了承してはいないものの、店は既に完全に彼等の溜まり場になってしまっていた。
 しかし、その日は少し状況が違った……。
「……というわけで、じきに四天王である神楽崎優子の軍がこちらを訪れるでしょう。兵力に大きな開きがあるため、戦闘は得策ではありません。逃走するのであれば協力します」
 パラ実のヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が、喫茶店を占拠する者達のリーダーである青年にそう説明をした。
「その神楽崎ってのは、百合園の女なんだろ? オジョウサマ学校のあそこに軍なんかねぇだろ。可愛い女の子達が来るってんなら、喜んで相手してやるぜ〜。ヒャッハー!」
「俺にも分けてくれよ、大将。ヒャッハー!」
「男がいたら、アタシが貰うよ!」
 柄の悪い男達は下品な笑い声を響かせる。
「リーダー、ジュースが入りましたぜ」
 パラ実の南 鮪(みなみ・まぐろ)が、オレンジ色の野菜ジュースが入ったグラスを、リーダーの青年に渡した。
「新入り、気が利くじゃねぇか。ちょうどコイツが飲みたかったんだ」
「どうぞ」
 少女が他のメンバーにも、ジュースを配っていく。
 その鮪パートナーのニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は、哀れなモヒカンアリスだが、今日は鮪と交渉の上、ぼさぼさセミロングの鬘を被ることを許された。
「楽しみですなぁ、百合園女。ヒャッハー!」
 鮪は四天王がジュースを飲む様子を見た後、ちらりとサルヴァトーレに目を向ける。
「逃走経路は確保しますので、いざという時にはご利用下さい」
 サルヴァトーレは軽く礼をしてその場を後にした。
 ガチャン
 突如、グラスが割れた音が響いた。
「お客様、そんな事をされては困ります」
 即座に駆けつけたのは、百合園のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だった。
 レキは「店主に事情を話し、アルバイトのフリをして様子を見ていた。
「わりぃわりぃ。お嬢ちゃん呼びたくて、わざと割っちまった〜」
 男がレキの腕を掴む。
「俺等のチームに入れよ。女が足りなくてつまんねー思いしてんだ」
 ぐいっと腕を引かれるが、レキは抵抗して動かない。
「グラスも、中のジュースも無駄にしていいものではありません。あなた方の理不尽な行動で、ここの人達が困ってるんですよ?」
「一緒に楽しめばいいじゃんかよー、ぎゃははははっ」
 男が大声で笑い、つられるように周囲からも笑いが起こる。
 レキは男の手を乱暴に振り解いた。
「今は脅して好き勝手やらせてもらってるけどさ、もし農家の人達が嫌気をさして逃げたらどうするんです? 美味しいジュースが飲めなくなるし、料理も食べられなくなる。そんな何もない喫茶店に誰が来るっていうのですか?」
「なんだ? ウゼェ女だな。逃げたら野菜も果物も採り放題だろが。なくなったら場所変えればいいだけだ」
「川で釣りも出来るし、べつにここ拠点のままでもいいんじゃねぇ?」
「それもそうだな。ぎゃはははははっ」
 下品な笑い声を上げ続けるパラ実生達に、レキの眉間がピクリと動いた。
「レキちゃん、ジュース作り手伝って」
 不穏な空気を察した店主がレキに声をかける。レキは拳を握り締めて厨房へと戻っていく。

○    ○    ○    ○


「おっまたせ〜。農家の人との交渉は順調だよ。ミルミとっても頑張ったし!」
 殆ど何も頑張ってないミルミ・ルリマーレンが喫茶店近くで待機をする仲間達と合流をする。
「たった今、潜入しているパートナーの佐野 亮司(さの・りょうじ)から連絡が入りました」
 教導団の向山 綾乃(むこうやま・あやの)が、携帯電話を手にミルミに近付く。
 パートナーの亮司は、光学迷彩を使い喫茶店に接近し、偵察をしている。
「占拠しているパラ実生の人数はおよそ15人くらいとのことです。派手な装いですが、全身鎧などの鎧をまとっている人物はいないようです。彼等は店内で固まってはおらず、貸切状態で騒いでいるそうです。あと、こちら側の味方か敵か判断つきかねますが、パラ実生の中に入り込み、説得や工作に動いている人物もいるようです」
「店長とか農家の人は無事? 喫茶店で店長してるのが、農家の家長さんみたいなの」
「店主は時々絡まれるものの、料理と飲み物の用意に忙しなく動き回っているとのことです。その他、厨房で料理を行なっている人物が恐らく1人いるみたいです」
「それじゃ、店長さん助けたら、占拠してるパラ実生ボッコボコに倒して、四天王ぶっ倒して、俺についてこーいって言えばいいんだね! 簡単簡単」
 ぐっと拳をにぎって気合を入れるミルミに綾乃は吐息を漏らして首を左右に振る。
「それが、既に工作に動いている人物もいるようですから。詳しい会話までは聞き取れないようですが」
「それなら下手に他勢力に奴等が丸め込まれる前に、引きずり出さねぇとな」
 パラ実の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が、喫茶店の方に目を向ける。出入りがあるが、殆ど占拠しているパラ実生の仲間のようだ。
「店主にも聞いてみねばならぬが、どの程度やってしまっても構わないのだろうか?」
 イルミンスールの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がミルミに問う。
「徹底的に。力でズタボロにするんだよ! パラ実流の方法で感服させるの!」
「喫茶店に被害が出ると思うが?」
「ミルミとしては喫茶店ごと破壊しちゃってもいいと思うんだけどね。もっと立派な校舎建てられたら一番だし」
 平然というミルミに、ラザンが苦笑をする。
「今件ではルリマーレン家は建設費を負担できませんよ。神楽崎様ご自身は学生ですから、校舎を建てるほどの出資は難しいでしょうし、それが出来るのなら、最初から別の場所に建てればよろしかったのではないかと」
「……細かいことはいいの! 相手はパラ実だし〜! さー、皆、やっちゃおう☆」
 ミルミが拳を振り上げる。
「もうっ、ミルミちゃん」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が手を腰に当てて、ミルミの前に歩み寄る。
「あんまり失礼なこと言わないようにしよう? この前だって、もうちょっと平和的に話せてたらあんなことにならなかったんだし、鈴子さんだってホントのこと知ったら怒ると思うよ?」
「うん、失礼なことは言わないよ。言ったことないし!」
 ミルミの言葉に歩はちょっと呆れた。
「交渉に行く人をあんまり煽り過ぎないで下さいね? ミルミちゃんは言わなくても、交渉に行く人の中で失礼なことを言って、事態をややこしくしてしまう人もいるかもしれませんから」
 蒼空学園の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、超感覚を発動し、猫耳ぴこぴこしっぽぱたぱた、飛びつき速度120%(当社比)でミルミに飛びついて、頭をなでなでなでなでしてく。ミルミは笑みを浮かべながら大きく首を縦に振った。
「そだね。わかった、ミルミ皆に任せるよ〜」
「それじゃ、姫だっこ? 姫抱っこで行く!?」
「えええっ、ミルミそんなに軽くないよ」
「大丈夫大丈夫〜っ。むぎゅーっ」
 アルコリアはミルミを抱き上げてぎゅっと抱きしめる。
 きゃあと小さな声を上げて、ミルミは笑みを浮かべた。
「……じゃ、合図するぜ?」
 皆の頷きを確認すると、魅世瑠は手を上げてパートナーのアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)に合図を送る。
 アルダトには、四天王宛の手紙を持たせてある。仲間達には確認してもらったが、諸事情により優子には見せてはいない。
 弓の名手である優子のパートナーアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)に、矢文の打ち込みをお願いしたかったのだが、優子の傍にいたいという本人の意思と、人質にとられたり、もしものことがあった際の優子への影響を考えアレナの同行は諦めた。
「うまくやってくれよ」
 バイクで喫茶店に向かうアルダトを見送った後、メンバー達は2グループに分かれることにした。