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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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第3章 到着

 先遣調査隊のエメは、最初の調査に出た後は西の塔に残り、書類作成に従事していた。
 東の塔、厩舎近くの地下道の入り口の調査を終えた調査隊のメンバーから、詳しい報告と映像を見せてもらい、更に別邸確保に向ったメンバーからも別邸の様子について報告を受け、それらを万年筆で用紙にまとめていく。同時に複写もしておく。
 先ほど訪れたソフィアに、原本を封筒に入れて封をしたものを「関係者以外の目に触れないようにお願いしますね」と言葉を添えて手渡した。
 試してみたいことがあったのだが、その為の道具などが揃っていない現段階ではこうするより他に方法がなかった。

 ソフィアが一度離宮を訪れてから1日後、本隊が南の塔周辺に到着を果たす。
 今回はソフィアは一緒に訪れなかったが、回復し次の封印が解かれ次第、物資を持ってまた訪れるそうだ。
 転送の負担は、封印が解かれるごとに軽くなるらしい。
「お電話でご指示のあったものを持って参りました」
 片倉 蒼(かたくら・そう)は、南の塔を訪れていたエメと合流し、依頼された『チェス10セット・南京錠・付箋・ブラックライトペン』を入れた鞄をエメに差し出した。
「お待ちしていました。ありがとうございます」
 エメは鞄の中からそっそくブラックライトペンを取り出して胸ポケットに挿す。
「到着にゃう」
 プレゼントボックスに入った、猫のぬいぐるみの姿の機晶姫、アレクス・イクス(あれくす・いくす)がエメに近づいて見上げる。
「お疲れ様です。さっそくですが、見張りを頼めますか?」
「はいにゃう」
 返事をして、アレクスは塔の近くに向っていった。
「こちらは、西の塔のアルフレートさんに」
 続いてエメは鞄の中から南京錠を取り出して、西の塔に向う者に預けるのだった。 倉庫番をしているアルフレートに頼まれたものだ。
「東の塔の調査に向かう者は直ぐに出発してくれ。会議に出る者は中へ」
 迎えに出ていた総指揮官の神楽崎優子がそう言い、補佐達と共に塔の中へ入っていく。
 大声は出せないため、小声で優子の言葉は契約者とヴァイシャリー軍を率いている若き将校達に伝達されていく。
 エメは地下に前線本部を設けることを提案したのだが、通信に影響が出る可能性があることなどから、設置は見送られ、今のところ全ての陣は地上に設けられている。
「何らかの生物がいるのなら、相手は全く光がない場所で活動している存在です。視力以外の聴覚・嗅覚が発達している事は確実ですから、探索時には全員音や匂いを出さないよう注意してください」
 新たに離宮に訪れた者達にもそう注意を呼びかけて、エメは調査に送り出していく。

「迅速に調査をしなければならないようだが」
 塔の中にて、真っ先に提案を始めたのは、百合園で銃の指導にあたっていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。
「訓練経験しかない百合園生らに、危険度の低い任務で実地の経験を積ませることが必要と考える」
「白百合団員以外の百合園生は本陣か救護所に止めておきたいんだが」
 クレアの提案に優子が懸念を示す。
「そこが前線になる可能性もあるということです」
 クレアは真剣な目で説明を続けていく。
「訓練と実戦は全くの別物。剣や銃の腕前は訓練で上達していても、張り詰めすぎず緩みすぎず、長時間の任務を遂行することは難しい。ここできちんと実地の経験を積ませておかねば、彼女たちはいざという時に足手まといにしかならない」
「私はあまり賛成できない。砦ではないここが前線になるようなことになったら、私達に逃げ場はない。全滅は必至だ」
 少し考えて、優子は言葉を続ける。
「だが、百合園生達も契約者だ。だからこそ、前線に近い場所で役立てるのなら、より味方の安全に繋がるだろう。志願者のみだが、東の塔の設営に向わせよう。彼女達はそのまま東の塔で救護を行うことになる。キミが責任持って面倒を見てほしい」
「了解しました」
 もとよりクレアは百合園生達をフォローし、安全確保に努めるつもりだった。
「作戦総指揮官の神楽崎優子さんですね?」
「先日の会議に出席していない者だが、会議に加わってもいいだろうか?」
 薔薇の学舎の香住 火藍(かすみ・からん)久途 侘助(くず・わびすけ)が優子に問いかけた。
「構わない。よろしく頼む」
「では、自己紹介を兼ねて、自分達に出来ることを言っておこう」
 侘助はまず、名前を名乗ってから、語り始める。
「俺は普段は刀を振るっている。しかし今回は探索・索敵・危険回避の役割として動きたいと思う。まず『敵に出会わない、戦わない、怪我を負わない』禁猟区や女王の加護、隠れ身を使って、敵がいないか察知できるよう動きたい。後は、俺達が離宮にいるという跡を残さないこと。拠点にする場所は無理だろうが、離宮内を動いたことを敵には察知されたくない。暗くて何も見えないとしても、目が利いたり匂いに敏感なのもいるだろう。空間に細かい氷術を使用することで、匂いに対しては少しでも軽減できるかもしれない」
 侘助は、東の塔の調査の必要性なども説いていくが、それら全て優子は肯定した後、こう言った。
「確かにその通りだが、そういった先遣調査は既に実行しており、本隊では本格的な調査を行う予定だ。もちろん、見つからないに越したことはないが、既に知られている可能性もある。大人数で動くからにはそう隠密な調査は不可能とも思える。
「俺は、パートナーの久途とは逆に、敵と遭遇した時のためのスキルが多いです」
 次に、火藍が自分の能力について語る。
「ディフェンスシフトで、後衛の仲間への負担を軽減することができそうです。女王の加護もあるので、ある程度なら前へ出ることも可能です。あまり血は流して、敵が群がってくるのも困りますし、もちろん、戦うのはあくまでも想定、ということで。仰るとおり、敵に出会わないのが一番だと思いますので」
「そうだな。2人の連携も期待できそうだし、聞いた限りでは使用人居住区の調査を任せられれば助かるのだが……」
 優子の言葉に、侘助も火藍も深く頷いた。
「西の地下道についてなのだが……宝物庫に別に出入り口はあるのか?」
 続いて、四条 輪廻(しじょう・りんね)が質問をする。
「それは気になるでござるな」
 隣には合流をしたパートナー大神 白矢(おおかみ・びゃくや)の姿がある。
「宝物庫の入り口は一箇所のようだ。入り口は地上にあるはずだが、近くまで地下道を利用する予定だ」
「しかし、それだと地下道に閉じ込められてしまったら、たどり着けないのでは? 別働する少数の部隊を作り、退路の確保や見張り、偵察、連絡役などを臨機応変に担ったほうが良いのではないか」
「宝物庫というか、敵がいるのなら宮殿に向う隊に目が行くと思う。宝物庫に向う部隊は接近に気付かれないための地下道利用と考えている。宝物庫を狙っていることに気付かれないようにな。別働隊を設けて、宝物庫に向わせたら、その狙いが敵側に判明してしまう可能性が高まる。それから、設けるのだとしたら宮殿側に志願した者の中から、向わせたいところだが――今のところ宮殿に向う隊に志願した契約者は殆どいないという状態なんで、無理だな」
 優子は軽く息をついた。
 離宮に下りてきた契約者の数は、非戦闘員の百合園生を除き100人程だが、宮殿に向う隊に志願した者の数は僅か5名程度だった。
「俺達は宮殿でも構わないが?」
 侘助が言うが、優子は首を左右に振った。
「使用人居住区に向う契約者の数も多くはない。キミ達にはそちらを頼みたい」
 宝物庫への志願者が多いのだが、元々古代の宝などに興味があって今回の作戦に参加している者も多いため、他校生に激戦区となりそうな場所に出てくれとは強くは言えない。
「適任者がいたら任せたいんだが、いないようなら、俺とパートナーがその役目を担うことが出来る。戦闘になりそうになったら、撤退して本隊に合流予定だ」
 輪廻がそう言った。
「その案も検討に値すると思うんだが、今から志願者を募って編成を変更するほどの時間はない。方針を変更することになってしまうからな。白百合団員を宮殿側に向わせる予定だから、キミ達も一緒に行動をして、状況によっては、宝物庫の方に向ってくれると助かる」
「地下道の出口で待ち伏せられていたらひとたまりもないでござる。敵には判らぬよう注意しておくでござるよ」
 白矢の言葉に優子は頷いた。
「使用人居住区や宮殿中心部が陽動としての役割があるのなら、火器や爆薬を使用した『派手』な装備はそっちの隊が主に使ってもらった方がいいんじゃないかな?」
 そう提案するのは、火器の管理を担当している琳 鳳明(りん・ほうめい)だ。
「逆に多少の隠密性を求められる宝物庫に潜入する隊は、火器は必要最低限に抑えるべきだと思います」
 皆の注目を受け、鳳明は緊張で赤くなりながらも提案を続けていく。
「……あ、あの出過ぎた事だったらごめんなさい。でも、ここで主力で使われるだろう火器はアサルトライフルだって聞いてます。ならサイレンサーなんて役に立たないですし……。あと地下道ってあまり広くないですよね? それだと兆弾や爆破の余波っていう危険性もあるから、宝物庫の隊向きじゃないかな……と」
「出過ぎた事だなんてことはない、意見はどんどん出してくれると助かる」
 優子はそう言った後、頷きながら言葉を続けていく。
「爆弾はヴァイシャリー軍が少しだけもってきているはずだが、そのままヴァイシャリー軍に管理を任せることになる。そのヴァイシャリー軍の殆どは使用人居住区に向ってもらう予定だ。地下道での銃器の取り扱いについては、琳鳳明のいう通りだと思う。極力使用を控えるよう伝えておこう」
「はい。私も、その隊に入りたいと思います。魔法は苦手だけど物理的な攻撃になら結構頑丈にできてますから! あとは基本的に接近戦を主体としてるので、魔法が主体となる隊の穴埋めにもなると思いますよっ」
「うん。隊長のサポートを頼みたい。無理なしないようにな」
 優子の言葉に、鳳明は「はい」ともう一度返事をした。
「神楽崎指揮官、こちらは私の友人の瀬島壮太君です。サポートに駆けつけて下さいました」
 エメが瀬島 壮太(せじま・そうた)を優子に紹介する。
「よろしくな」
 壮太の指にはパートナーで小型の機晶姫であるフリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)が装着されている。
「よろしく。助かるよ」
「資料を読んだ程度で、状況がよく分かってねえし、俺はエメのさぽーとってことで。通信機の管理でもやらせてもらおうかな」
「通信機の管理希望者が結構いるな……。大事な役割ではあるんだが、百合園生に任せられそうなら、彼女達に振って、防衛などにも気を配ってくれると助かる」
「今のところ調査に出るつもりなねえが、攻められたら応戦ぐらいするさ」
 壮太の返答に優子は首を縦に振った。
「隊1組につき、1人はパートナーを本陣に残していただけないでしょうか?」
 そう提案するのは、フィルだ。彼女のパートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)も本隊メンバーと共に訪れている。
「通信のためにか?」
「はい。今回は特に危険な任務なため各方面の状況を把握して状況把握に努めなければなりません。通信機もありますが、本体が故障したり、場所によっては電波が繋がらない可能性もあります。パートナーを本陣に待機させ携帯電話で報告をしてもらうようにすれば、非常事態が起きたときでも迅速な対応ができるはずです」
「そうだな」
 フィルの言葉に頷きながら、優子は編成票に目を移して検討していく。
「私は宝物庫に向いたいと思います」
 言って、フィルはセラに目を向ける。
「私が本陣に残り、状況を知らせるわ」
「わしはフィルといくぞ」
 魔法の研究が趣味な魔女のシェリスは、にこにこ笑みを浮かべている。
 魔法的な罠にも、宝物庫に眠っていると思われる古代のアイテムにも好奇心をくすぐられていた。
「ぜひ自分で行き、古代の技術や道具がどのようなものか確かめてみたいのう」
「そうか……うん……ま、そうだな。フィルから離れないように」
 優子は苦笑したが、シェリスは白百合団員ではないので、それ以上なにも言われなかった。