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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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「地下道の幅はどれくらいだ?」
 優子は先遣調査隊のメンバーに問いかけた。
「暗くて分かりにくいですが……」
 ファルチェが地下道の映像を空中に映し出す。
「入り口の階段は大人2人が並んで歩ける程度じゃった」
「通路は、ずっと同じ広さかどうかはわからないけど、5人くらいは並んで歩けると思う」
 セシリアカレンがそれぞれそう答えた。
「石像が並んでいる場所は、3人くらいで限界かな」
 が付け加える。
「なるほど……」
「魔術的な罠に毒ガスの類の罠があるかもしれないんですよね」
「あと、地雷があるらしいじゃん。一番前を歩く人は10フィード棒で足元を探索してもらった方がいいじゃん」
 アリアイーディがそう意見し、優子が「そうだな」と頷く。
 そして睨むように編成表を眺めながら、各隊のメンバーを決めていく。
「陣に残ることを希望している者がかなり多い。陣での仕事も大切だが、私や戦闘員ではない百合園生が出来ることは任せてもらって、できるだけ本陣以外の場所のサポートの出てほしい。……寧ろ、自分が前線で指揮をした方がよさそうな……」
「ダメですよ」
 即、祥子がため息交じりに言う。
「前線には俺が出る。前にも言った通り、痛い事や苦しい事を引き受けるためにオレは離宮に来たんだ」
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)と合流を果たした国頭 武尊(くにがみ・たける)が優子にそう言った。
「頼りにしてる。だが、仲間が傷つくのもまた痛いということは、どうか忘れないでくれ。なんかお前は早死にしそうに見えるぞ」
 優子が武尊に心配気な目を向ける。
「俺は、罠の発見と解除に適した技術を持ってる。隊長って柄じゃないが、使用人居住区に向う隊の先頭に立ち調査する。死にに行くわけじゃない」
 武尊が今一番ほしいのは、神楽崎優子からの好意。好感度上昇だ。
 死んで好感度が上がっても意味はない。
「……わかった。神楽崎分校の国頭武尊。キミに先陣は任せる」
 優子は真っ直ぐな目で武尊を見て、頷きを確認した後、編成表にペンを走らせる。
「西の塔は宝物庫に向う隊、別邸は宮殿中心部に向う隊、東の塔は使用人居住区に向う隊のサポートを担う。ヴァイシャリー軍はほぼ使用人居住区に出れるよう東に向ってもらうことと、最も被害が出そうな地域であることから、百合園の救護班も東に待機してもらう。彼女達のことはクレア・シュミットに任せる」
「了解した」
「使用人居住区に向う隊の隊長は風見瑠奈に任せる」
「はい」
 白百合団の班長、風見瑠奈は声を抑えながらもはっきりと返事をする。
「宮殿に向う隊は隊長を樹月 刀真(きづき・とうま)とし、少人数の班2つとする。 一つは樹月刀真が率いる他校生中心の班。もう1つは四条輪廻と、白百合団員中心の班だ。こちらの班長はティリア・イリアーノに任せる」
「はい」
 同じく班長のティリア・イリアーノが拳を握り締めて返事をする。
「宝物庫に向う隊だが、こちらの隊長はグレイス・マラリィン先生と訪れた御堂晴海に任せたいのだが、できるか?」
 優子が目を向けた先に、獣人の青年と共にいる白百合団班長、御堂晴海の姿がある。
「出来れば私は副団長のお側で、救護を担当させていただきたいのですが」
 彼女は救護班を任されることの多い、魔法に長けた女生徒だ。
「こちらの人手は足りているからな。魔法的な罠が多いと思われることからも、キミが一番適任だ」
「わかりました。務めさせていただきます。皆様、よろしくお願いいたします」
 晴海が頭を下げる。
「宇都宮祥子には、主に宮殿に向う隊をサポートする別邸の救護班を任せたい。随時ついている必要はない」
「わかったわ」
「西の塔には救護班は置かない。宝物庫に向う隊は人数が多いし、魔法に長けているものも多いからな。治療が必要な負傷者が出た場合は、別邸の方に運んでくれ」
 それから、優子は3隊の暫定隊員の名前を発表する。
「少ない隊に入ると申し出た者は離宮中心部に向う隊に組み込ませてもらった」
 白百合団員がほぼ中心部に向うことになったため、人数的にはバランスが良い。
 ただ、白百合団員は陽動などにはあまり向いていないため若干不安でもある。
「では、隊ごとに集まって、作戦を立ててくれ」
 優子がそう言い、全体的な作戦会議はこれで終了した。

「はい、これ」
 ズィーベンが物資と一緒に持ってきたノートを優子に渡した。
 厳しい顔をしていた優子が、少しだけ表情を緩ませる。
「本部の者達……それから、部活動に勤しんでいる百合園生達か」
「うん。皆に応援メッセージを書いてもらったんだ」
「ありがとう。励みになる」
 言って、優子は寄せ書きのページを切り取って壁に飾ったのだった。
 新たに運び込まれた物資の中には、食料や防寒具の他、個人所有の小型飛空艇やフィーリア提案の小型発電機と、強力な指向性発信器も含まれていた。
 小型飛空艇や発電機は便利ではあるが、稼働中は無音というわけではないので、現時点では使用は控えた方がよさそうだった。

 北都は合流した白銀 昶(しろがね・あきら)と共に、東の塔の詳細調査に訪れていた。
 既に先遣調査隊が安全の確認は行っているが、塔の中に仕掛けや警報機の類がないとは限らない。
 最低限必要な物だけを携帯し、身軽な状態で東の塔の中を探っていく。
「風の流れも水の流れも感じられない。完全に閉ざされた場所のようだな」
 超感覚で周囲に警戒を払いながら昶は北都にそう報告をする。
 北都はこくりと頷く。禁猟区を発動しているが、特に反応はない。
 くまなく調査するが、東の塔内も西や南同様、特に罠や仕掛けはないようだった。
 地下道へ続く道は、危険が伴うため場所の確認とライトの光を向けて、地上から見える範囲だけチェックしておく。
「ここはヴァイシャリーの地下だってことだが、地上部分だけじゃなく古代の地下通路も封印されてんだよな。地下水とかはどうなってんだろうな。天井とか壁を掘っていけば現代のヴァイシャリーの地上に出られんだろうか」
 昶が疑問を口にしていく。
 閉ざされた空間――そして。
 東の塔には遺体などはなかったが、ここにくる途中の道では、遺骨を目にしていた。
 錆びた武器を携えている。服装からして、男性の遺体のようだった。
「封印されている存在は、時間が止まった状態になっていることが多いけど……。ここは時間が多少流れてたみたいだねぇ」
 塔の封印が解かれていくということは、緩やかだった時間の流れが正常に戻っていくこと、でもあるのだろうかと思い、北都は遺骨の状態や自然の状態なども書き記し、本陣へと戻ることにする。

 別宅では救護に特化した体制を築いていた。
 存在が知られた後も、ここに負傷者が集まっていることは知られない方がいいため、宮殿がある方向の北側は閉ざしたままで、南側の部屋を中心に整えられている。
「何かあったら、直ぐに駆けつけるからね」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、掃除をしながら、出発の準備を進める仲間達に声をかける。
 持ってきてもらった飛空艇は別宅の側にとめてある。
 暗く静かな今は走らせるわけにはいかないけれど、戦闘が発生した際には光も音もさほど気にすることなく、使うことができるだろう。
 パートナーのベアトリーチェは医療を手伝うために別宅に待機しており、コハクもこちらに移ってきて、通信機の管理を続けている。
「ここで管理する子機は6台。全体への通信と、仲間内での通信が出来るよ」
 コハクは仲間達に通信機の使い方について説明していく。
「こっちのボタンを押して喋ると全体。こっちを押すとこの通信機を利用している仲間間の通信になるんだ」
 通信機の本体は3台あり、別宅、東、南の三箇所で管理することになった。
 コハクが管理する通信機は主に宮殿に向う人達に貸し出すことになる。
「もうすぐ作戦開始だね……」
 美羽は掃除終えると、南の玄関から外に出て行く。
 そして別荘の脇に回って宮殿の方に目を向けた。
 まだ周囲はひっそりと静まり返っている。

 明子は、使用人居住区に向う隊に加わるため、パートナー達と共に東の塔へ訪れた。
 物資を運び込み、水を作り、急いで準備を進めていく。
「調査時は隊長の指揮に従って調査することになるけど、陣にいる時には2人1組を守ってね。見回り等少しのことでも、単独では動かないこと」
 明子は、フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)の傍らで、通信機を借りに来た者達にそう指示を出す。
「地下道も出入り口が近ければ繋がりそうだ」
 フラムベルクは東の塔の通信機を管理することになり、円滑な連絡が取れるよう、周波数の調整や、通信の不具合に繋がる要素を調べつつ、整備をしていく。
 サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)九條 静佳(くじょう・しずか)は塔の外で見張りを行っており、続々と訪れる契約者とヴァイシャリー軍の軍人達を迎え入れていく。
 既に塔には入りきれない程の人数が集まっていた。
「隊長を務める百合園女学院、生徒会執行部、白百合団班長の風見瑠奈です」
 風見瑠奈がヴァイシャリー軍の将校に挨拶をする。
「本部で説明は受けていると思いますが、私達契約者が調査を行います。ヴァイシャリー軍の方々は盾を構えて包囲し、後方への攻撃を防いでください。私が言うまでもありませんが、上空からの攻撃にも十分注意をしてください」
 瑠奈が軍人達に説明をしていく。
 前衛は他校生の精鋭、後衛に百合園生や前衛向きではない契約者。その後方にヴァイシャリー軍という配置だ。
 この塔の準備が整い次第、調査は開始される。

 軍人の多くが東の塔に向い、本陣となった南の塔の残留者は30人程度になっていた。
 通信機の通信は、全体への通信とグループ内で行う事が出来、特定の人物のみに発信することは出来ない。
 壮太は、管理している通信機の子機に届いた会話全てをノートにメモしていく。
 東の塔と別宅にそれぞれ通信機の管理をしている者が居るため、ここの通信機は西の塔に待機している者と、宮殿西の宝物庫の調査に向かう者に渡されている。
「壮ちゃん、さっきの通信、魔法隊の隊長あてよ」
「おっ、そうか」
 机に置かれたフリーダの指摘を受けて、メモに書き加えていく。
 重要そうな通信内容は全体的な記録をとっているエメに提出する予定だった。
 そのエメは、人手が足りないのなら書類作成を非戦闘員に任せて作戦部隊に加わってもいいと総指揮官に申し出たところ、是非出てほしいと返答があり、とりあえず別邸の方に向う予定だった。
「いってらっしゃいにゃう」
 エメのパートナーのアレクスはそれぞれの配置に向う人々に声をかけて見送っていく。
 こうして出迎え、見送りをしながら、出入りの記録も行っていた。

「一部、貰ってもいいか?」
 神楽崎優子が地図を作っている大岡 永谷(おおおか・とと)に尋ねる。
「もちろん。だが、他の者には渡さないでほしい」
 永谷の返答に、優子は軽く眉を寄せる。
「疑わしい人物でもいるか」
 永谷は首を左右に振る。
「今のところはいない……というか、解りませんが、作成した地図や資料は、必要以上のコピーは望ましくない。俺も疑いたくはないんだが、この中に妨害を行う勢力と繋がりがある者がいる可能性がないとはいえない。敵対者の手に渡ってしまうことは避けたい」
「残念な話だな」
 優子はそう呟いて、永谷が作った地図を眺めていく。
 建物は記号で表されており、絵で表されている他の地図とは随分と違う。
 距離や足場の状況なども書き込まれており、情報を得るために適した地図だった。
「ただ、北側の調査がまだ手付かずなようで、そのあたりが心配だ」
「そうだな、細かな状態もこちらに知らせてもらうことにしよう」
「援軍が必要な状態になったら俺も出るが、ここからでは少し遠いな」
 北へはここからでは走って駆けつけても、十数分くらいかかるだろう。
「キミは東の塔で待機してもらうと助かりそうだ。人数が多いから指揮をとれるような者も必要だしな」
「解った。少し様子を見て、必要なら東に向おう。ただ、敵が地下道を通って、ここを強襲する可能性も否めない。今のうちに埋めておいた方がいいだろう」
「確かに。鍵程度ではなく、土や不用品で完全に塞いでおこう」
 優子の返答に頷いて、永谷は資料の作成を手伝いに事務を担当している者達の元へ戻る。
「ええっと、それじゃ笹原乃羽、シーラ・フェルバート頼めるか?」
「ん? 何でしょう副団長!」
「お呼びですか〜」
 白百合団員の笹原 乃羽(ささはら・のわ)シーラ・フェルバート(しーら・ふぇるばーと)が歩み寄る。
 2人とも、物資の整理と管理を精力的に行っていた。
 怪我人は今のところ出てはいないが、気分が優れない者もおり、頭痛薬などの医薬品は多少減っていた。在庫や使用者についても、その都度メモをとっている。
「地下道への入り口があるのは知ってるよな?」
「知ってるよ」
「危険だから近づいたらダメな場所だよねぇ」
 優子の問いにそう答えて、乃羽とシーラは優子についていく。
「その入り口を塞いでしまおうってわけだ」
 優子は2人を引き連れて、地下道の入り口にたどり着く。
 押入れのような小さな扉の先が階段になっており、地下道へと続いている。
「陣に残っている者と協力をしてこの入り口に土や岩を落としていってくれ。こっちに向う通路は地下道を通る魔法隊に塞いでもらうつもりだが、念のためだ」
「でもこの通路利用できる可能性もあるよね?」
「援軍に駆けつける時も、地下から行った方が気付かれないかもぉ?」
 乃羽とシーラの言葉に、優子は少し考えてこう答える。
「地下の罠が解除できてればだな。爆弾を若干預かってるんで、必要な際は爆破して下りることにするさ」
「了解。じゃ、埋めちゃっていいんだね?」
 乃羽が問い、優子が頷く。
「体力には自身があるんだ。ちまちま書類を作ってるより、こっちの方が楽しいかも〜」
「張り切りすぎて、ぎっくり腰にならないでねぇ」
 やる気満々の乃羽に対し、シーラの方は少し面倒そうに作業を始めるのだった。

 およそ15分後。
 全ての配置場所にメンバーが揃ったと連絡が入る。