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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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(今まで、亜璃珠のためを想って、分校の事に協力してきましたけれど……)
 外では、相変わらずロザリィヌがホールの側に佇んでいた。話し合いが聞こえる場所で。
(でも、日に日に亜璃珠が他の事を顧みることが少なくなってきたような、気がして)
 ロザリィヌは1人、強い不安を抱えていた。
 だけれど、亜璃珠本人には何も言わない。
 分校長としての責任が亜璃珠をそうさせているのか。
 優子への想いがそうさせるのか。
 わからない。
 だけれど、このままでは彼女が何もかもを犠牲にしてまで、任を果たそうとするのではないかと。
(優子様が憎いとか、そういうのではございませんの……)
 顔を上げて、窓の方を見る。
 しかし、中は見えない。亜璃珠の顔は見えなかった。
(わたくしも、優子様の事は好きですし……想いは認めておりますわ)
 ロザリィヌは唇を噛んで、首を左右に振った。
(ですけれど……わたくしだって……亜璃珠の事を同じくらい大切に思って……ええ、愛しておりますのよ)
 壁を……彼女の声が聞こえる方向に強く、そして哀しげな目をロザリィヌは向けた。
(だからっ! もし、分校の事で更にあなたが顧みなくなっていくのなら……あなたのする事を止めにいかずにはいられなくなる……)
 会議が終わり、メンバー達の立ち上がる音が聞こえる。
 ロザリィヌはそのまま、静かにその場を離れた。

○    ○    ○    ○


「そして結局おいていかれるのね」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)のパートナー、悲しきモヒカンアリスニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は、ふらふらと分校の側を飛んでいた。
 イリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)が行方不明となりもう数日が経っている。
 鮪は優子にミンチにされると青ざめてスパイクバイクで分校を飛び出し、ニニには上空から探せと指示を出したけれど。
 アリスの飛行速度じゃスパイクバイクぶっとばしてる鮪に追いつけるわけもなく。
『ワタシが攫われても同じ様に助けてくれるよねっ?』
 という問いの返答は。
『ぺっ、助ける訳ねえ』
 といった、嘘偽りなさそうな言葉だったし。
「とりあえず……」
 かぽっと、鬘を被る。
「そう、そうだ! 助けた恩をイリィに売って、モヒカンヘアーにしてしまおう!」
 多少なりとも探索の目的がニニの中で出来てきたので、少しやる気を出して地上を見回していく。
「あ、確かあれは、先生」
 そして知り合いの姿を見つけたニニは鬘が落ちないよう押さえながら降下していくのだった。

「イリィちゃん、お腹空いていないかな?」
 ぺたぺたと竹芝 千佳(たけしば・ちか)は街路樹にイリィの似顔絵が描かれた尋ね人のポスターを貼り付りつけていく。
「……一人寂しくて泣いていないかな?」
 千佳はゆる族なのでその表情には現れていなかったけれど、とても不安な気持ちを抱えていた。
 もし、自分だったら……。
 悪い人に捕まったのだとしても、崖から落ちて帰られなうなってしまったのだとしても。
 とても寂しくて、不安で、どうしようもなく怖いだろうから。
 絵を貼り付け終わった途端、千佳はぱたぱた高木 圭一(たかぎ・けいいち)に駆け寄って、その足にぎゅっと抱きついた。
「大丈夫だ」
 圭一は彼女の心中を察して、頭を優しく撫でる。
「うわっ、上手な絵だね」
 そこに、空から下りてきたニニが合流する。それはマジックも持っていたらモヒカンに書き直したいくらい可愛い絵だった。
「おい、竜司!」
 突如圭一が声を上げる。
 分校が見える場所でうろうろしている巨漢を見つけたのだ。
「あ、戻ってきてくれたのね」
 千佳がほっと息をつく。
「分校に戻ってくる気になったか。舎弟達も皆待って……」
「竜司なんてイケメンはいねぇよ!」
 その、額にの刺繍があるプロレスマスクを被った男が圭一の言葉を遮る。
「ご、ごめんなさい……。どうみても神楽崎分校の元番長吉永竜司さんにしか見えないので」
「くぅぅうう……このイカスマスクいけねぇのか。いいか、鼻の穴かっぽじって聞け! オレの名はドラゴンマスクだ! しっかり耳に焼き付けておけよ!
 立ち振る舞いも口調も、服装も体格も竜司そのもののその男がそう言った。
「ええええ……」
 千佳は目をぱちぱち瞬かせ、ニニは「鼻じゃなくて」と言いかけて自分の口を両手で押さえる。
「まあ、誰でもいいさ。イリィの捜索に協力してくれるんだろ?」
「ハア? 誰だそりゃ? たまたま通りかかっただけだっての。けど、このてめぇらが探してるこの絵のヤツら見つけたら連絡してやってもいいぜ」
 素直じゃない言葉に、圭一は笑みを浮かべて頷いて、その自称ドラゴンマスクと電話番等とメールアドレスの交換をする。
「じゃあ、ワタシも。一番に教えてくれると嬉しい!」
 モヒカンにするために! と思いながら、ニニもドラゴンマスクと連絡先を交換する。
「じゃあな、せいぜい頑張れよ!」
 そう言うと、ドラゴンマスクはどたどたと走り去っていく。
 圭一は軽く笑みを浮かべる。
「よし、オアシスの方にいくぞ。見かけた者がいるかもしれないからな」
「うん」
 千佳が下ろしていたリュックを背負う。
 リュックの中には張り紙のほかに、弁当と飲み物が入った水筒が入っている。
 イリィがお腹を空かせているかもしれないから。
「皆で探せばきっと見つかるよね?」
 千佳の問いに圭一は強く頷く。
「走れるか、千佳。一刻も早く見つけ出すぞ」
「うん」
 圭一と千佳が走り出す。
「ワタシもお兄ちゃん達に追いつかないと!」
 ニニも報告のメールを織田 信長(おだ・のぶなが)に打ちながら、飛び始める。
「……あ、でもここ電波通じない」
 鮪より信長への連絡を優先しろと信長に言われていたニニだけれど、神楽崎分校周辺からは鮪にしか連絡することが出来ない。
 寧ろ、あのお兄ちゃんより、信長と契約した方が幸せだったよなあなどと思いながら、ニニはぱたぱたと飛ぶ。それは無理なことだけど。

 竜司は1人、スパイクバイクを走らせる。
 分校に残してきた舎弟のことをすごく心配しているのだが、番長を辞めると宣言したため、面子の手前簡単には分校に戻れなかった。
 とにかく、さっさと犯人を見つけてぶちのめしたかった。
 分校役員とは連絡先を交換してあり、電波の届く場所で伝言メッセージやメールの送受信をしているのだが、分校長の亜璃珠からは、情報と共にこんな言葉が添えられていた。
『全くどの面下げるつもりだか。あなたは誘拐犯を捕まえるまで帰ってこなくていいわ』
 ニュアンスから、捕まえて戻ってこい、そんな風に竜司はその言葉を感じ取り、この事件を解決して戻ることが彼の目標になっていく……。

 鮪と信長もスパイクバイクを街の方へと走らせていく。
 鮪の方は木や田畑に突っ込みそうになる慌てっぷりだ。
 信長はいつもと変わらぬ様子でバイクを運転し、すれ違うパラ実生に声をかけていく。
 それは情報収集ではなく、偽情報の流布でもある。
「ハーフフェアリーの子供の売買やトレードをしている変質者がいるようだが、知らぬか?」
「ハーフフェアリーなんだそりゃ? 妖精トレードなら聞いたことあるよな」
「俺もペットにほしいぜ〜♪」
 その男達からはそんな情報が得られた。
「なんだと、その店の場所、いいやがれ!!」
 バイクから降りて接近した鮪が突如男達に掴みかかる。
「なんだてめぇ!?」
「こっちは命がかかってんだ! ドンの桜谷団長の耳にまで入っちまったんだ! 殺されて埋められう前に仕置きが待ってるんだぜ! やばいぜ、お仕置きされたい、じゃなかった口が滑った」
 思い切り混乱しながら、鮪は男の身体を強く揺さぶっていく。
 落ち着け、と言っても無駄なのは解っているので、信長は無言で鮪を引き離す。
「……その妖精売買はどこで行われてる?」
「知らねぇよ、各地の盗賊ギルドとかで時々売買やトレードが行われてるらしいぜ。ツテがねぇと情報入らねぇだろうけどな!」
 不機嫌そうにそう言うと、男達はバイクに乗って走り去っていった。
「っと、あっちはイルミンスールの方面だな」
 男達が走り去った方向に、鮪もバイクを走らせていく
「ヒャッハァー! 早速エリザベートの拉致に行くかァ〜! じゃなかった探さねえと、イリィを探さねえとやべえ!」
 再び田んぼに突っ込む勢いで、鮪はバイクを乱暴に走らせていく。
「各地か、最悪そこまで調べねばならぬか」
 そして、携帯電話を取り出す。
「ふぅむ、しかし、この携帯とやらは非常に便利であるな。戦の運びも随分と変わるのであろうな」
 パラミタではまだ電波が届く場所が少ないのだが、パートナー間ではいつでも連絡が出来るため非常に役に立っている。
「このメール機能とやら、驚愕よな。即時確認できぬ時であろうが迅速な伝達を可能としよるわ!」
 確認してみるが、今のところメールは届いていないようだ。
 捜索隊や白百合団にも連絡先を教えてあるので、相手が電波の届く場所に着いた際には信長の携帯にも連絡が入るだろう。

「あの、すみません。このあたりで小さな女の子見ませんでした? あたしと同じ種族なんですけど」
 ハーフフェアリーの少女が昆虫のような羽をぱたぱたと羽ばたかせながら、柄の悪い少年達に尋ねる。
「ん? 見たこともねぇ種族だな」
「知らねぇよ。あ、いや見たことあるかもな。ゲーセンで遊ばねぇ?」
 少年達がにやにやと少女――パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)に近づいてくる。
 結構、と断って去ろうとしたパオラだが次の男の言葉で思いとどまる。
「あ、でもなんか売買やトレードしてるって話をさっき聞いたよな」
「ああそうそう、ハーフフェアリーだ」
 そう言って、少年達は今度は見定めるような目でパオラを眺め回す。
 不快だと思いながらもパオラはにこにこ笑みを浮かべる。
「聞いた奴等が、溜まり場に話を持ち込んでたぜ」
「しかし、アンタみたにでかくちゃ、虫かごにも入んねーし、それなりの組織じゃなきゃ売買は無理だよなー」
「溜まり場ってどこかしら?」
「あそこの元酒場。パラ実生達の溜まり場になってるんだぜ」
「俺らも行くかー。へっへっへ」
 肩に手を回してくる少年の手をパオラが抓ろうとしたその時。
「すみません、この娘俺の連れなんで!」
 言って、少年の腕を駆けつけたアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が捻りあげたのだった。
「遅くなってごめんなさーい」
 続いて走り寄ったクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)が、パオラの腕にぎゅっと抱きつく。
「……というわけで、ごめんなさいね」
 おもむろに近づいたアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は、笑みを浮かべながら目だけ鋭く光らせる。
「な、なんだよ、ガキには元々興味ねぇんだよ」
「ゲーセン行くぞ、ゲーセン!」
 アクィラが手を離すと、少年達はばたばたとその場から走り去っていった。
「やっぱり危ないよ……」
 アクィラが大きく息をつく。
「全然平気よ、今の子くらいなら自分1人で追い払えたわ」
 パオラは余裕の笑みを浮かべている。
 同族の危機は見捨てておけないと、この囮作戦を提案したのはパオラ自身だった。 
 敵の狙いがハーフフェアリーである可能性があると考え、それなら自分が動けば何か手掛かりが得られるかもしれないと。
 アクィラもクリスティーナもアカリも最初は止めたのだけれど、パオラの強い意思と試す価値のある作戦に、まずアカリが条件付で賛意を示し、アクィラとクリスティーナも心配しながら協力することにしたのだ。
「でもここからは、一緒に行動しよう。あの酒場についてまず聞いてみて、分校に連絡だ」
 アクィラはパオラや友人達の伝で、分校で行われていた会議に出席し、分校で取り決められた作戦に従って動いている。
「そうね、行動は慎重に、外部からの視線が通らない場所には行ってはいけない、それはあたしが囮作戦をするといったパオラに言った台詞でもあるしね」
 アカリがそう言い、パオラが微笑する。
「はわわわわわ、敵がいっぱいいるところに、1人で行ったらダメですよぉ。4人で行っても危なそうですぅ」
 クリスティーナは酒場風の建物の前に座り込んでいる柄の悪い男達の姿に動揺しながら、パオラに訴えかける。
「そうね」
 パオラは3人の言葉に首を縦に振った。
 荒くれ者の溜まり場となっているような場所に、パオラを連れて行くことはかなり危険とも思われるため、アクィラ達は深入りはせず、酒場についての情報を集めた後、一旦分校に戻ることにする。