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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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第4章 組織に関わる者達

「いたいた。あの方ですよ〜」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、帽子を目深に被り、マスクをした青年「マスク」を茶屋の方へと導く。
 茶屋の外にはベンチが並べられているが、客は1人しかいない。
「あ、あれは……」
 途端、マスクが腰の銃に手を伸ばした。
「おおっと、アレは今はターゲットではないのですよっ。今は手を出さないでくださいね〜」
 マスクの利き腕を掴んで、ひなはぐいぐいと引っ張っていく。
「ちょいーす」
 ベンチ端に座っていた人物が、ひな達に気付きにやりと笑みを浮かべる。ピエロの格好をしたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だ。
「襲ったり逃げたりしないでくださいねー? こう見えても私とナガンには、ちょっとした繋がりがあるのですよ〜」
「なるほどね」
 マスクは目を煌かせながら、ひなと共にナガンの元にたどり着く。
「座りましょうね〜」
 ひなに指示されるまま、ナガンと向かい合ってマスクはベンチに腰掛けた。
「自己紹介の必要はあるかァ?」
 ナガンの明るい声に対し、マスクは警戒心を露にしていた。
「キミ達が繋がってたってことは、こっちの情報知ってるってことだよな? 何が目的だ」
 マスクがナガンに問う。
「死んでやろうかァ?」
 そうナガンは笑う。
「マスクさんは組織でのし上がるのが目的なんですよね? なので、魔女を襲撃するのが困難なら、ナガンを殺っちゃえば良い作戦ですー♪」
 ひなの説明に、マスクが眉を寄せた。
「死にたい、のか……」
 低く言い、銃にまた手を伸ばすマスクの前で、ナガンは変わらずにやけた笑みを浮かべている。
「んとですね〜。殺すといっても偽装死です〜」
 小声で、ひなはマスクに説明をしていく。
「この子はピエロ的な外見特徴が先行してるのがポイントですー。背丈と格好さえ合ってれば、本人がメイクさせれば偽装死も容易ってやつですよ?」
「その後はちったあ、活動を抑えてやるぜ?」
「別の死者をナガンに仕立て上げて、組織を騙すってことか……。そりゃ、協力が得られれば助かるけど」
 マスクはふうと息をつく。
「目的は何? 俺らがのし上がることで何の利益があるんだよ。組織と対立してんだろ?」
「それは、マスクが組織が気に入って仲間になろうとしてるんじゃないってことが分かるからです〜」
 マスクの疑問に、ひながそう答える。
「手を組むことが出来ると思いますよ〜」
「……」
 ひなの言葉にしばらく沈黙した後、マスクは首を縦に振った。
「相応の死体があがって、ナガンが全く姿を現さなくなれば、俺とひなの功績になると思う。地球人で背格好が似ていて、死んだばかりの確実に組織の目を欺ける死体が必要だ。けど、俺は死んで当然のヤツ以外は……撃ちたくはない」
 死体の確保が難しいようだった。
「生きたまま、捕縛して連れて行くって手もある、かも。組織で殺されるだろうけど」
 腕を組んでまたしばらく考え込む。
「生かしておくメリットがあれば、いいんですけどね〜」
 といって、ひなはナガンを見る。
「ないだろうなァ。互いに」
 ナガンはワハハと笑い声を上げる。
「ん〜、検討が必要なようですね〜。とりあえず魔女については襲撃のフリくらいしておきます〜?」
「いや、今日はいいよ。百合園生が来てるみたいだし……。というか、百合園が関係することが多い、よな」
 マスクはそれ以上何も語らなかったが、思いつめたような目をしていた。
「必要なのは、地球人の死体かァ。それか組織が『ナガン』を生かしておくメリットだな」
 ナガンの言葉に、ただマスクは頷く。
 ひなはうーんと考え込むがその場では良案は浮かばなかった。

「ふむ、話は纏まったようじゃの」
 少し離れた場所で待機していたひなのパートナーナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は、早速携帯電話を取り出す。
 ナガンへの呼び出しメールを送ったのはナリュキだった。ひなとちょっと距離を置いて行動をしつつ、多方面の人々と情報交換をしている。
 今回は、 亜璃珠には特に送る情報がないので『ぷにぷにありすー』とだけ送っておく。
 それから、朱 黎明(しゅ・れいめい)にはありのままをラブまみれの内容で。
 久多 隆光(くた・たかみつ)には、襲撃は行わずにマスク達はキマクへ戻っていった旨連絡をいれるのだった。

○    ○    ○    ○


「ミ、ルミちゃん♪」
 アルコリアは、ログハウスの裏でしゃがんで携帯電話をいじっていたミルミに近づいた。
「迎えにきちゃいましたよぅ。ついんてついんて、これぱたぱたさせて空飛んだのかな〜。んふふ」
 ミルミの髪を掴んで、アルコリアはゆらゆらと揺らして遊ぶ。
「髪じゃ飛べないよ」
 ミルミから返ってきたのは暗く面白みのない言葉だった。
「……ひくっ」
 顔を上げようとしないので気付かなかったが、泣いているようだった。
 メールの送信を終えると、ミルミはそのまま蹲る。
「どーしたのかなー。ミルミちゃんらしくないぞ〜」
 アルコリアはぎゅっと抱き締めてみたり、頭をなでなでしてみるが、いつものような反応は返ってこなかった。
「いいよー、ライナちゃん達と遊んでて。ミルミよく分かってるから。ライナちゃんの方が小さくて可愛いし。ミルミはすごくわがままだから、ホントはミルミのこと誰も好きじゃないだってこともね。……鈴子ちゃんだけは、ミルミが一番だって思ってたけど、ライナちゃんと契約してあんまりミルミのこと見てくれなくなったしね。やっぱりミルミの家柄とかが目的で契約したんだろうなあ……。大の仲良しだと思ってた、ミクルちゃんもそうだったしね。わかってるけど、わかってても、ミルミはミルミらしく楽しく生きたいんだもん! だからちゃんと我慢する、我慢するよ……」
 アルコリアの行動は、親友と思っていた人物に騙されたと感じ、鈴子をライナにとられたとも感じているミルミにとっては、かなり辛かったらしい。
「ミルミちゃんが可愛くて可愛くて仕方ないのでちょっぴりぢめられたらなぁという悪い心の疼きなのですよぅ」
 泣いているミルミも可愛いなあと思いながらもそれは口には出さず、アルコリアはぎゅうっと抱きしめて、ごめんねごめんねと撫でていく。
「いつも遊んでくれるミルミちゃんにお礼がしたいな、何か望みはある?」
 そんな風に、言葉にすると自分までシリアスになってしまう。
 そういうのは少し――かなり苦手だから。
 アルコリアはそれ以上は何も言わずに、ミルミを喜ばせる方法を考えていくのだった。
(鈴子さんのお手伝いをして、鈴子さんのお仕事が減ればいいのかな〜。でも、鈴子さんがミルミちゃんを可愛がりだしたら、私がミルミちゃんを可愛がる時間が減るじゃないですか!)
 そんな感じで答えは直ぐに出ないのだが。
「ん? ミルミちゃん、携帯電話おっこちちゃいましたよー。メールは誰に打ってたのですか〜?」
 ぽとんと落ちた携帯電話を拾って、アルコリアはミルミに渡した。
「ありがと。この間できたお友達に、話聞いてもらいたくなって。ミルミが超お金持ちでスゴイ人だってこと知らないで、友達になってくれようとした子だからね!」
 携帯電話を受け取った後、ミルミは涙をぬぐって、ちょっとだけ笑みを浮かべた。
「お腹すいたー! ごはんごはんっ!」
 続いて、元気な声を上げる。
「おー! ご飯食べましょう〜。私はミルミちゃんが食べたいです〜」
「もー、食べられたらなくなっちゃうんだからねーっ」
 2人はいつものように笑いあって、テントの方へと歩き始めた。
 ――異変が起きたのはその直後だった。

「あれ?」
 は、使い魔と思われるカラスが飛んできたことに気付く。
 カラスは上空をぐるりと回っていく。
 続いて、近づいてくる害意のある存在の気配を感じる。
 カラスがログハウスの屋根に止まった途端、葵は警戒を呼びかけるためにドアを開けて、「悪い人が来る!」と叫んだ。
 次の瞬間。
 カラスが大きな声で鳴いた。
 続いて、激しい銃弾がログハウスを襲う。スプレーショットの嵐だった。
 森の中から飛び出た獣人の男、ヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が走り込んでくる。
「うっ。中に入ってて……」
 葵は庇護者を使い玄関に立ち、敵の攻撃が中には飛ばないよう身を挺する。
 百合園生達が叫び声を上げて、蹲る。
 銃弾は窓から室内にも飛んでいた。
 そしてそれだけでは終わらず、次々に派手な音を立てて弾丸が放たれる。
「ヒヤッハー!」
「ぶっこわしてやるぜ!」
 銃を撃ちながら迫るのは、迷彩服姿のパラ実生達とサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)。サルヴァトーレは前に出て、トミーガンで窓を狙う。だが、全ての窓にカーテンが引かれていて、中は見えなかった。
 パラ実生は今回の仕事の為にサルヴァトーレに勧誘され、組織に与しだした者達だ。
 サルヴァトーレはキマクの噂――リーアに関する情報操作から組織の狙いを感じ取り、使えそうなパラ実生を有効活用し、更に組織へ組み入れることを考えた。