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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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第3章 悲恋のカルロ

 悲恋のカルロが眠っている場所は、魔女リーアが把握していた。
 リーアから場所を聞き出して、マリルと桜谷鈴子。それから鈴子から離れない方がいいということで、静香も現地に同行することになった。
「僕だけ護衛の役目でもなんでもない気がする……」
 呟く静香だが、特に何の役にも立ちそうもない、それは紛れもない事実だ。
 その他、護衛志願者の百合園生と他校の協力者も数名同行していた。
「マリルさん」
 道中、高月 芳樹(たかつき・よしき)は護衛としてマリルの隣についていた。
 馬車の中で、他愛もない話の合間に、芳樹はマリルに語りかける。
「あなたは騎士としてだけではなく、1人の女性としても魅力的な人だ」
「ありがとうございます」
 マリルは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「僕は君の力になりたいと思う。正式にパートナー契約をしないか?」
「……私もお願いするのなら、芳樹さんしかいないかな、と最近考えていました」
 マリルはそう答えて、芳樹と微笑み合う。
 双子の姉妹や他の騎士達も復活しつつあるとはいえ、やはり生まれ育った時代とは違うのだから寂しさをも感じているだろうと。芳樹はマリルに力を貸し、支えてあげたいと思っていた。
 そして、芳樹はマリルに手を差し出して。
 マリルは彼の手に自分の手を重ねて。
 契約の言葉を交わしたのだった。

 現地まではそう離れておらず、出発して数分で馬車は目的地に到着をした。
「封印を妨害しようとしたわけじゃないようだけれど、この間も襲撃があったし、今回も襲撃があることを前提として慎重な行動が必要ね」
 馬車から降り立ったアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、周囲に警戒を払う。今のところ自分達以外の気配はないようだ。
「ここはイルミンスールのようですじゃの。これまでの封印はヴァイシャリーの北側に位置しておるようですじゃの」
「そうですね、ヴァイシャリーからさほど離れていない、北側が多いかと思います。それぞれの縁の地がこちら方面が多かったということなのですが」
 伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)の言葉に、マリルがそう答えた。
「ふむ、興味深いことですじゃ」
 金烏玉兎集は、現在地を地図に記して覚えておくことにする。
 既に賢しきソフィアは目覚めており、激昂のジュリオは離宮で眠りについているという話は、白百合団から説明を受けてある。
 封印を全て解除したら、ヴァイシャリーに被害が出るかもしれないという話も。
 慎重に見定めていかなければならないと、金烏玉兎集は思うのだった。この解除を切っ掛けに、被害者が出てしまうようなことは避けたい。
「この空家の地下倉庫のようです」
 そこには、棘のついたロープや鎖で封鎖された空家があった。
「ボクに任せて」
 と、光学迷彩で姿を見えにくくしているレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、ロープや鎖をトラッパー、ピッキングの知識で外していく。
 人が通れるだけの空間を確保すると、レキは潜り抜けて敷地に入り、罠がないことを確認する。
「今回は襲撃とかなさそうじゃのう。油断は出来ぬが」
 続いて、パートナーのミア・マハ(みあ・まは)がレキに続く。
「校長、気をつけて下さいね」
 声をかけた後、鈴子が。その後に静香が続き、百合園生、マリル、他校生と続いていく。
「開けるよ」
 レキは振り向いて鈴子の頷きを確認した後、ピッキングでドアの鍵を開ける。
 ひっぱってもドアが開かないため、鈴子も手伝って、引き抜くようにドアを力任せに引っ張る。
「うわっ、自然と化している」
 剥がれるように開いたドアの先を見て、レキはそう感想を漏らした。
 中には草木が生えており、自然と同化しつつあった。
「ふむ、何もおらぬようじゃの」
 ミアは、空家の中、敷地内を小柄な身体で雑草をすり抜けて調べてみるが、特に生物の気配は感じられない。物音もなく、近づく者も今のところいない。
 今回は何事もなく、ことを済ますことが出来そうだった。
「キッチンからいける床下倉庫の先だそうですが……」
 マリルが中を見回して、草木を避けながらキッチンであったと思われる場所へと歩き、床を探して倉庫への扉を発見する。
「大丈夫かな、中」
 心配しながら、レキはマリルを手伝って扉をこじ開けた。
「地下は大丈夫そうです」
 マリルが開いた空間にライトを向けながら言い、皆の方に目を向ける。
 地下への階段はないが、梯子がかけられているようだ。
「私達の封印は地球人との接触で解けるようになっています。封印を解いた方がそのまま契約をする流れになる可能性が高いので、それでもいいという方がいましたら、その方にお願いしたいのですが……。カルロは誠実な守護天使の魔術師系の男性です。パートナーをとても大切にすると思います」
「んー、ボクは適任者がいなかったら、かな」
 ちょっと考えてレキはそう言う。目立つことはあまり好きではないし、サポートが自分のポジションだと思っていた。
「私、行きます。ここイルミンスールですし、波長が合うかもしれませんから」
 そう申し出たのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。
「ありがとうございます。お願いします」
 微笑んで、マリルが先に梯子を下りていく。
 その後に明日香が続き、残りの者達はその場で待って、周囲の警戒に務めることにする。

 倉庫はとても狭かった。
 マリルはライトで壁を照らして、壁に描かれた魔法陣を見つけ出す。
 明日香の手を取ると、その壁の魔法陣に触れ呪文を唱えて――壁をすり抜けてその先の空間へと出た。
「良かった……」
 マリルが光を当てた先に、水晶の中で眠る銀髪の男性の姿があった。
「お願いします」
 明日香はこくりと頷いて、その男性――カルロの元へ歩いた。
「目覚めの時がやってきました」
 言って、明日香は水晶に触れた。
 途端、水晶が融けて、そして消えていく。
 倒れ掛かる男性を、明日香は両手を伸ばして抱きとめて支える。
「私と契約をしましょう。あなたが契約者となることで助かる人々がきっと増えると思いますから〜」
 明日香は優しく、カルロに囁きかけた。
 契約をすれば、体力、身体能力が上がるから。狙われる可能性があり、必要な人と思われる彼は直ぐにでも契約した方がいいから。
 そして、彼に好感も持てたから。迷うことなく、明日香は契約を申し出る。
「ありがとございます……姫」
 意識を取り戻した彼は、自分の足で立ち、少し呆然とした顔で微笑んで明日香の手をとって、キスをした。
「私のこと分かりますか?」
 マリルがそう問いかけると、カルロは首を縦に振った。
「マリル・システルース。……マリザは元気ですか?」
「ええ、元気です」
 カルロの返事にマリルは微笑みを浮かべる。
「あれから5000年以上時間が経っています。離宮の封印を解く時が訪れました」
 マリルは掻い摘んで今の状況をカルロに説明をしていく。
「――封印、直ぐに解くことできますか?」
 簡単な説明を終えて、マリルが訪ねると、カルロは明日香に顔を向けて微笑んだ後、首を縦に振った。
 彼の封印はこの部屋の更に先に存在していた。

「今のところ異常もないし、悪意のある者の接近、尾行なんかもないようだけれど、長居はよくないわよね」
 外を見回っていたアメリアが、ドアからそう報告をする。
「そうだな」
 地下への入り口側で、静香を護衛していた芳樹が暗闇へと目を向ける。
 マリルが持つライトの光が見えなくなってから数分が過ぎていた。
「2人……いやカルロも含めた3人が戻り次第、直ぐに撤収しよう」
 芳樹の言葉に一同頷き、3人を待つ――。
 さらに数分後、カルロの両腕を抱えたマリルとアメリアが姿を現す。
 男性の芳樹が中心となりカルロを引き上げ、即、彼を馬車に乗せてその場を去ることにした。
 今回は何事もなく、カルロ自身とカルロが施した封印を解くことが出来たようだ、が……。