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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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第2章 職業斡旋所オープン

「これまではパラ実生の溜まり場だったみたいですけどぉ、正式に職業斡旋所としてオープンしたんですってねぇ〜。新たなオーナーが現れたのでしょうかぁ〜」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)ことキャラ・宋は、キマクにあるとある店の近くまで来ていた。
 酒場を兼ねた職業斡旋所から出てきた者のうち、単なるチンピラではなく、多少身分がありそうな人物に近づいて声をかけて、情報を集めていた。
「オーナーはどんな人ですぅ? 以前の酒場から改装はされたのでしょうかぁ〜」
 情報コンサルタントとしての名刺を見せて、粗品をちらつかせながらアンケートをとってみたり、巧みに話を聞いていくのだった。
「それがしのような者も入れるでござろうか?」
 護衛としてついてきたうんちょう タン(うんちょう・たん)が尋ねる。
「ゆる族もいましたよ。でも裏の仕事には向かなそうですよね」
「裏の仕事でござりますか」
 皇甫 嵩(こうほ・すう)が興味を示す。
「この地に相応しい施設のようですね」
 劉 協(りゅう・きょう)がそう言うと、アンケートに答えていた青年がにやりと笑みを浮かべる。
「ありがたい場所ですよ、こういう店があってくれると、地元の人も助かるんじゃないでそうか。仕事があれば、強盗の類が減りますから」
「ご協力ありがとうございました〜」
 キャラは粗品をプレゼントして、愛想よくその青年と別れる。
「それにしても、盛況ですねぇ……」
 口コミだけで広まったらしいが、店には入りきれないほどの男女が押し寄せている。
 店の周囲でなにやらパラ実生に指導をしている男――マルコ・ヴォランテ(まるこ・う゛ぉらんて)の姿もあった。声までは聞こえない。
 入り口に目を向けると、入り口側で佇んでいるゆる族の少女と目が合った。
 竹芝 千佳(たけしば・ちか)だ。神楽崎分校で教師を務めている高木 圭一(たかぎ・けいいち)のパートナーだ。
 軽く会釈をし合ってから、キャラはその場から離れる。
 千佳は時折店内に目を向けるも、中に入るために並ぼうとはしなかった。
 圭一に『大人の行くところだし、怖いお兄さん達が沢山いるだろうから入らない方がいい』と止められたからでもあるし、空気も悪そうなので、自分自身あまり入りたいとも思わなかった。
 千佳を待たせて、圭一は1人で店内に入っている。
(早く帰りたいな……何も起きませんように)
 だけど、やっぱり千佳は圭一のことが心配で、何か事件が起きたら、いつでも駆けつけることが出来るようにと、圭一の身を案じながらこうしてすぐ近くで待っているのだった。

「ボスからの伝言。お前たちには部下を持つ人間になってほしいらしい。見所のある奴がいたら部下に抜擢するぜ」
 店の周囲にて、マルコはサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)に従って共に組織に入ったパラ実生達の指導を行っていた。
 まずは、侵入者を捕らえるための罠について教えている。
「侵入者を捕まえた奴がいたら酒場でワインをおごるぜ!」
「おおー」
「罠にかけんのっておもしれぇよな」
 パラ実生達は楽しげに教えられるまま、落とし穴を掘っていく。
 ただ、来店客も多く、神楽崎分校関係者も調査に沢山訪れていたので、この罠が仕掛けられているという情報は、普通に広まってしまっていた。
 無論、その罠が仕掛けられている情報が、そこからの侵入を防ぐことに繋がるので問題はないのだが。

〇     〇     〇


 店の中に入った圭一は、店内を見回した後、普通に空いた席に腰掛けた。
 改装工事がなされ、テーブルや椅子が用意されたその店には大きな掲示板があった。
 いくつかの依頼が直筆のコメント付きで掲示されている。

・賞金首の殺害
※新規オープン記念として、キャンペーン人物の殺害に成功した場合はなんと今までの1.5倍の賞金が! 詳しくは店長にお尋ねください!

・リーア・エルレンの捕縛もしくは殺害
※謎のバイク男との戦闘が予想されますのでご注意下さい。尚、バイク男の死体は特に必要としません。

・シッター殺害犯の捕縛もしくは殺害
※先日、ある研究所付近でシッターと呼ばれる男性が身代金目当てに誘拐殺害されました。百合園生の社会科見学前に同様の事件を防ぐ必要があります。



「こちらの仕事が今一番のお勧めです」
 店長の三井 八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)が、客達に進めているのはリーア・エルレンの捕縛についての依頼だった。
「居場所がわかんねーんじゃ、捕まえようがないが、偶然見かけたら捕まえて連れて来るな」
「よろしくお願いします」
 八郎右衛門はぺこぺこと頭を下げる。
「なんかヤバくない仕事はないの?」
 化粧の濃い女性が尋ねる。
「お客様にはこちらの仕事がお似合いです」
 すぐに、八郎右衛門は女性に近づいて、別の掲示板の広告を指した。
 そちらの掲示板には、一般人からの無難な依頼も貼られている。
 迷子のペット探しや土木作業員、喫茶店の店員などだ。
 ……まあ、仕事の内容は迷子虎探しだったり、対立分校の破壊だったり、風俗店だったりするわけだが。
 この店自体の、バーテンダー、キャバクラ嬢、用心棒も募集しているようだった。
「色々あるのね……」
 依頼全てに目を通した後、葛葉 明(くずのは・めい)は腕を組んで考え込む。
 気になったのは、リーア・エルレンという占い師だ。
 最近不自然なほどにキマクで話題に上がっていた人物だから。
 襲撃があったこと、バイクで連れ去られたという噂くらいは、キマクにも届いていた。
(誘拐されたのね。まだ間もないし、生きているかもしれないわね)
 リーアと会ったこともなく、単に気になっただけだけれど。
(仲間と合流されると厄介だから、その前に何とかしたいわね)
 密かにそう思いながら、急いで店を後にする。

 店内の椅子の数は50脚くらいだろうか。カウンター席には8人座れるようになっている。
 その店の隅、入り口からさほど遠くない位置には、少女が2人、座っていた。
 ジーパンにトレーナー、野球帽。そして大きな鞄を所持している少女は、家出娘らしい。帽子を目深に被って、俯き、ときどきちらちらと辺りを伺っていた。
 もう1人の少女は、ラフな服装で、明るい印象のこの辺りでもよく見かけるタイプの少女だった。
「安くてもいい。即金が入る仕事ないかな?」
「そっちの子売りゃあ、手に入んじゃね?」
 酒を飲みながら下品な声をあげて、周りの男達が笑った。
 家出娘――に扮している鳥丘 ヨル(とりおか・よる)の格好は、ラフだが仕立ては良い。
「この子は売るつもりはない。それなりの家のオジョウサマらしんで、適当に面倒見た後家に帰して、謝礼金をたっぷりもらう予定だ」
 にやにやと笑みを浮かべながら、少女――カティ・レイ(かてぃ・れい)は、男達と打ち解けていく。
「そういえばさ、有名な占い師が誘拐されたんだって? 怪獣なんかも召喚できるような魔女だって話なのに、変な話だよな」
「ここらで仲間を募ってる奴がいたからな、大人数で襲撃したんじゃねぇ?」
「そうなのかー。捕らえたのか? 召喚魔法みたいよな〜」
「逃がしたって話だ。その魔女の殺害依頼もこの店で出てるみたいだぜ。魔女の家と似顔絵以外の情報は載ってねぇけど」
 男たちの言葉に、それじゃ後で見てみると答えた後、更に質問をしてみる。
「あと最近、ハーフフェアリーとかいう、見かけない種族を目にすること増えたよな? あれってさ、キメラみたいなもん? まだ研究段階なのかな。これから進化を遂げる、とか」
「フェアリーと人間じゃ、合成できなくないか?」
「細胞段階で合成しねぇとなー。良くわかんねーけど〜」
「ペットに欲しいよな、アレ」
「俺もそう思ってた!」
 男達はハーフフェアリーの話題で盛り上がっていくが、特にそれ以上の情報はつかめなかった。
 それから。食事を終えて全ての依頼書の内容を確認した後、ねぐら探しに行くといい、カティはヨルを連れて店を出る。
 得た情報は店から出た後すぐにメモに記し、追っ手に注意をして他の街へと急ぐのだった。

 ゆっくりと酒を飲みながら、圭一は店の様子に目を光らせていた。
 髪はワックスで固めて、服は着崩し、サングラスをかけていつもとは違う――不良のような雰囲気を醸し出していた。
 荒れていた頃のある圭一には、この店はなんだか懐かしさも感じる場所だった。
 集まっている人々の年齢層は若く、大半はパラ実生のようだ。
(教え子達が道を踏み外さないようにしたい)
 そう強く思うものの、パラ実生達の就職先は賊などが一般的な現状に変わりはない。
 掲示されている依頼も、キマクでは普通の内容だ。
(もっと普通の。例えば飲食店の店員などの求人を集めてくれれば……)
 この施設を認めることも出来ただろうが。
(変な仕事に就かないよう、注意して見守りたいものだ)
 分校に戻ったら、教師として生徒達の就職先についても考えていかねばならないと、圭一は強く思うのだった。
 ゆっくりと酒を飲み、酔った客達と軽く会話をしたり、求人広告を何気なく眺めてみたり。
 目立たず時を過ごし、心配で我慢が出来なくなった千佳が窓から覗き込む様子を確認後、淡い笑みを浮かべて店を出て共に帰路についたのだった。