天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

リアクション公開中!

嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回) 嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

リアクション


第5章 ジィグラ研究所

「……そろそろ出るぞ」
 ジィグラ研究所にて地下の部屋に戻った高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が、イル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)に言った。
 イルはいつものように、捕らえたハーフフェアリーイリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)の面倒を見ていた。
「どっか行くの〜? ボクおじちゃんと一緒にいく〜」
 イリィは随分とイルに懐いたようで、笑顔を浮かべている。
 玩具箱に、自分の携帯電話を入れると、イルは玩具と一緒にイリィに差し出した。
「……お前の大事な人にかけてみるがいい」
「ん〜? こぉ遊ぶんだよね〜?」
 この地下室には電波が届いていない。だけれど……。
「ニニちゃんがこうやって遊んでたんだよぉ〜」
 番号をぴぴっと押した後「もしもしぃもしもーし〜」と、コール音が響く携帯電話に向って言い、笑顔でイルに差し出す。
「おじちゃんも遊ぼぉ〜?」
『おい、なんか今、イリィの声がしたぞ!?』
 携帯電話の先から、男の声が流れてくる。
 イルは携帯電話に顔を寄せて、その人物と会話を始めた。
 そして最後に。
「……すまん。出来れば助けてやってほしい」
 そう電話先の相手に言って、イリィの手から携帯電話を回収し、通話を終了した。
 そのまま電源を切って、自分の携帯ケースに入れる。
「行くぞ」
 悠司は軽くイリィを見た後、ドアの方へと先に歩いていく。
 イルは手を伸ばして、イリィの小さな頭を撫でた。
 鞄の中から、飴とチョコレートを取り出して、イリィの手の上に乗せる。
「甘いよぉ〜?」
「そうだな」
 軽く微笑みを見せた後、まっすぐイリィの目を見て、真剣な目で言う。
「……すまん。だが俺はお前の味方だ。もし、また会うことが出来れば、必ず助けになることを誓う」
 不思議そうな顔をしているイリィから離れて、イルは悠司の後に続いた。
「トイレそっちじゃないよぉ〜?」
 イリィはきょとんとしていたが、すぐに手の中の飴を舐め始める。
 そして包み紙でリボンを作って、イルの帰りを待っていた……。

「おい、なんか今、イリィの声がしたぞ!?」
 番号非通知の電話に出た南 鮪(みなみ・まぐろ)は、攫われたパートナーのイリィの声が聞こえた気がして、とにかくもしもしの代わりにヒャッハーヒャッハーヒャッハーと声を上げてみる。
「ええい、おぬしではきりが無い。わしが話す!」
 織田 信長(おだ・のぶなが)が、鮪の腕をぐいっとひっぱって強引に携帯電話に出る。
 相手は男だった。
 ぼそぼそとした声で、イリィの居場所について説明をしてくる。
 信長はその説明を黙って頭の中に叩き込んでいく。
『……すまん。出来れば助けてやってほしい』
 男の最後のその言葉に。
「任せておけ。機会があれば返礼もさせてもらおう」
 そう答え、口元に笑みを浮かべて信長は携帯電話を切った。

 悠司とイルは研究所の所長から受け取ったいくらかのデータを手に、手配していた馬車に乗り込んだ。
 百合園生が見学に来るという話は噂で聞いていた。
 それが、ここを探ることが目的であることも、無論研究所側も理解していた。
「どんな理由で受けたのかは俺には知る必要ないことっすけど、念の為に顧客リストとか、データくらいは逃がしておいた方がいいんじゃないっすかねぇ」
 そう交渉をして、いくらかの研究データを預からせてもらったのだ。
 当然だが、データには厳重なパスワードが施されており、コンピューターを持っていたとしても悠司には見ることが出来ない。
 イルは見えなくなるまで、研究所の方をじっと見ていた。
 悠司は携帯電話を取り出して、連絡を密にしていた朱 黎明(しゅ・れいめい)に久しぶりに電話をかける。
 小声でこれまでのことを一通り話し、今後は連絡が取り難くなることを伝えて電話を切った。

〇     〇     〇


「いつか見つけてぶん殴る」
 馬車の中で、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)はそう呟きながら荒野を見ていた。
 そして窓ガラスをみながら、両手の人差し指と親指をあわせて、顔の前に持ってくる。ポーズを決めて、力を放出――!
「…………」
 何も起きはしない。やっぱ、イケメン誘惑光線は出ないようだ。
「いや、イケメンがいないだけって可能性も」
 1人、ぶつぶつ呟きながら腕を組む。
 魔女リーアが襲撃された際、テレサは身を挺して庇ったことで、リーアから神子の力を体に注ぎ込まれていた。
 リーアはあの時、死を覚悟したのだろう。
「撃った奴と攫った奴は必ずぶん殴る」
 そして、その後でなんだかよく分からないこの力より、いい男を引っ掛ける技を貰うんだと意気込む――。
 生きているかどうか分からないけれど、生きていて欲しいと強く願いながら……。

 神楽崎分校からジィグラ研究所まではそう距離はない。
 同じ馬車の中で、白百合団の団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)と百合園生、それから百合園生や関係者に扮した協力者達は最終的な相談を進めていた。
「私は最初から護衛として完全武装で向おうと思います」
 班長のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が鈴子に提案をする。
「組織の息がかかっている場所ということですし、戦闘になった場合を想定しまして、戦力のある優先排除対象と認識してもらえましたら、それだけ他の方への攻撃が減ると思います」
「無茶なことを考えるのですね」
 鈴子は少し困った表情をした。だけれど。
「無理のない範囲でお願いしたいと思います。他にも何人かの方に武装していただき、ロザリンドさんも決して1人にはならないようにして下さいね」
「はい。団長はライナさんとご一緒に中央で指揮や回復を行ってくださると思いますが」
 ロザリンドが窓際に座っているアレナに目を向ける。
「アレナさんには、団長の護衛兼弓での攻撃をお願いしたいのですが……」
 十二星華だから、とは言い難く、ロザリンドはそこで言葉を切った後、こう続ける。
「念のためアレナさんの攻撃力を危険視されて攻撃対象になった時のために、メリッサを援護として傍にいさせます」
 ロザリンドがパートナーのメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)に目を向けると、うんうんとメリッサは首を縦に振った。
「協力し合っていただければとは思いますが、ロザリンドさんのパートナーとはいえ、メリッサさんは一般の生徒ですから。アレナさんがメリッサさんの護衛という形になりますね。……と言っている状況では今回はないのかもしれませんけれど」
 鈴子の言葉に、ロザリンドが息をついて首を縦に振った。
「団長の護衛は小夜子さんがして下さるそうです」
「付き添わせていただきます」
「私も一緒に」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)とパートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)が護衛を申し出る。
「ありがとうございます。心強いですわ。何かの際には私はライナを抱えて移動することになりますから、今回は皆さんに守っていただく形になりそうです」
 小夜子とエノンは真剣な目で頷いた。
「俺は見学中に、避難経路になりそうなルートを割り出そうと思っている」
 百合園生の使用人に扮して同行する早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がそう言った。
「メモは誰に渡せばいい?」
「攻防は団員に任せることになりますから、誘導は私が行います。私か私の近くにいる百合園生へお願いします」
 呼雪の言葉に鈴子がそう答え、呼雪は頷いた。
「あと、一つ気になっているのですが」
 ロザリンドがちらりと窓の外、川の方へと目を向ける。
「私達が研究所に行くまでの時間に、証拠を隠されてしまう可能性があると思います。どこか別の拠点に持っていかれてしまう可能性や、船に積み込んでヴァイシャリーに入られる可能性もあるのではないでしょうか? 監視やヴァイシャリーへの入船チェックはできませか?」
「研究所の監視は難しいと思います。権限がありませんし、治安の悪い場所ですから、関係のないパラ実生に襲われる可能性さえもありますからお頼みできる方がいません。ヴァイシャリーへの入船につきましては、すぐにでも連絡を入れておきます」
 言って、鈴子は携帯の電波の状態を確かめて、繋がるようになり次第、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に電話を入れたのだった。

 途中で休憩をして、用意してあった弁当を食べ、昼過ぎに百合園生達はジィグラ研究所に到着を果たした。
「百合園女学院、生徒会執行部長の桜谷鈴子です。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
 対応に出た吸血鬼の男性に、鈴子は丁寧に頭を下げて挨拶をする。
「百合園生の警護を担当します、ロザリンド・セリナです」
 ロザリンドは武装した姿でそう挨拶をして印象付けておく。
「所長補佐のヒグザ・コルスディです。どうぞよろしく」
 差し出された手を握り、鈴子はヒグザと握手を交わした。
 開かれた扉の中に、百合園生達は招かれる。
「さ、楽しませていただきましょう。皆、きちんとついてきてくださいね。大きな施設だから迷子になってしまったら大変ですから」
 鈴子の言葉に百合園生達は「はい」といつもどおりの明るい返事をする。
「はいっ」
 ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)もちっちゃな手を上げて返事をした。
 鈴子は少し心配そうに微笑んで、ライナと手を繋いで中へと入っていく。
「当研究所では、薬剤や生物についての研究を主としております」
 コルスディが廊下を歩きながら、百合園生達に説明をしていく。
 白衣を着た女性研究員が彼の左右に付き添っている。
 1階の入り口近くのドアを女性研究員が開けて、百合園生を導く。
 鈴子は振り向いて呼雪に目配せをした。
 頷いて呼雪とパートナーのユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)最初にその部屋へ足を踏み入れた。
 続いてアレナとメリッサが入り、その後に一般の百合園生達が続いていく。
 一般の裏のない百合園生達が入った後に、小夜子が入り、鈴子が続いて、それから残りの白百合団員達が部屋へと入っていく。