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まほろば大奥譚 第一回/全四回

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まほろば大奥譚 第一回/全四回
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第三章 大奥茶会1


 大奥の朝は早い。そして忙しい。
 姫たちが起床する六ツ半時(午前7時)までに準備を済ませ、姫たちが目覚めると「六ッ半時(7時)お目覚め、おめでとうございます」と大奥内をふれ回る。
 朝は必ず入浴する決まりとなっているため、急いで湯を沸かし入浴させた後は、五ツ時(午前8時)ごろ朝食。
 朝食がすむとまた姫たちは洗面、口すすぎ、お化粧、そしてお召し替えがある。
 四ツ時(午前10時)に将軍が大奥にお成りになり、朝の総触れがあるため着飾った正装でお待ちする。
 このときは朝でもっとも気が抜けない時間だった。
 将軍から名前を呼ばれたものは、今夜のお相手を務めることになるためである。
 そして、歴代の将軍の御位牌に礼拝を行い、これが1時間から2時間。
 将軍が中奥へ戻るとようやく朝のスケジュールが終わり、午後にはまたお召し替えで昼食。
 そして八ツ時(午後2時)ごろ再び将軍がお成りなればお茶のご用意などと、目も回る忙しさだった。
 しかし、芦原房姫の輿入れが無事になされたあとも、将軍は体調を理由に朝の総触れはもちろん、将軍からの夜伽の命じはなかった。
 大奥では前代未聞の非常事態である。
 大奥取締役と老中は互いに相談し、大奥の中庭で茶会を設けることにした。


「茶会は大奥の姫君たちとの親交も兼ねております。そうぞ御取り計らいませ」
 房付姫の女官として大奥入りした富永 佐那(とみなが・さな)がそう進言する。
「もちろん、万が一に備え我らが控えておる。一肌脱がせてくれ」
 奥医師となった今川 義元(いまがわ・よしもと)が剃髪したつるりとした頭を叩いた。
 彼はこの茶会が成功するように祈祷するという。
「私たちもお庭で警護いたします。どうぞご安心を」
 吉川 元春(きっかわ・もとはる)も将軍付きとなって守るという。
「異論はござらんな?」
 足利 義輝(あしかが・よしてる)は佐那を補佐するように強引に取り付け、茶会を宣言した。
 この告げに大奥全体がわっと色めき立った。