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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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陸路 6
国境
 
 
 各地域との交渉は、優秀な使者らの行動により無事成功したこととなる。
 これにより、ヴァイシャリーに滞在する帝国の使節団、イルミンスールの過激派、キマクの勢力等を刺激することなく、進むことができるようになった。
 陸路行軍が開始され、シャンバラ大荒野に入った辺りで、各方面に交渉に向かっていた者たちも順次合流してくる。
「騎凛師団長。ご無事で戻られ何よりです」
 行軍を警備していた隊のなかから、ケーニッヒが出てくる。
「どうでしたか? 行軍の方では何か」
「通過する各地域では、あらかじめ行軍ルートを地元当局者に通告。
 通過までは、彼らの同行を受け入れることをきちんと申し出てまいりました」
 実質的には監視を受け入れる、ということである。教導団をよく思っていない連中のなかには出兵に対し皮肉混じりの言葉を述べてくる者もいたが……ケーニッヒはそのことを思い出し、額に青筋を浮かべる。が、そこは我慢。ひたすら我慢で無事ここまでの行軍を行ってきた。
 このように、通過する地元との接触は、各隊から担当者が出て行ってきていたのだ。龍雷連隊ではまだ若く対話に不慣れなトマスを、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)がよくサポートした。魯粛の言葉は、人々の胸に響くものがあった。――「この度の、教導団の陸路進軍を通してくれることで、短絡的な利益にはならない」だが、と魯粛は強調する。「エリュシオン帝国が、コンロン動乱の背後に見え隠れしている。この後にシャンバラを版図としようと狙っていることを考えれば、コンロン地方の動乱を治めることが、シャンバラ地方の平穏につながるだろうと」長期的に捉えてほしいと魯粛は言ったのだった。
 教導団の今般の出兵も、将来的なシャンバラの平和と実際の東西シャンバラ統一への布石であるのだ、と。「教導団としては譲れない道義によっての派兵です」――
 魯粛は、これについてどう罵られることがあっても、怒らない、へこまない、ことだとトマスに諭した。トマスはケーニッヒのように青筋浮かべたり、松平隊長のようにたまに怒りをあらわにしたりするよりは、どちらかと言うと相手の言葉にへこむようなことが多かったのだが、魯粛に励まされ、また甲賀らのような先輩にも囲まれ、少しずつ打たれ強さを身に付けていった。
 
 さて大荒野に入ると、魔物や、人語の通じない蛮族以下等に遭遇することはあったが、それらは戦力的に部隊の敵ではなく、あえて攻撃を仕向けてくるものも少なかった。ということであった。
 この間、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が中心となって、行軍中の兵の訓練を受け持った。
 また、ケーニッヒはここで、ヴァイシャリーから戻ってきた騎凛や交渉組と共に、百合園からのロザリンド・セリナ、イルミンスールからの魔王軍を、本隊に迎え入れたわけであった。ロザリンドは東側のロイヤルガードでもある。彼女を受け入れることで、東側の監視を受け入れていることになる? と思えば、これからの行軍もやりやすい面が出てくるだろう、とも。あるいは逆に、教導団の行軍に同行したことが進んで人質に志願した、等とは思われない誇り高さがロザリンドにはあったしそのことはロザリンドにまみえた道満が高く称えた通りのことであった。
 シャンバラ大荒野を渡ると、サルヴィン川が見えてくる。これを早々渡ってしまうより、船で国境付近まで行くのがよいだろう。おおよそ、そういう話にまとまっていた。
 松平は、交易船を借りることを進言した。これはもっともなことと言えた。
「ところで、松平さんの姿が見えませんね。松平岩造は何処?」
 騎凛は辺りを見渡すが、龍雷連隊ごとごっそり姿が見えない。
「騎凛隊長。松平殿はあちらにございます」
 見ると、サルヴィン川に、二隻の筏が浮かんでおりそこに龍雷連隊が乗っていた。
 その先頭には、ロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)が警戒の任に就いている。
「何でこんなことせにゃーならんのー?」
 龍雷連隊の参謀、甲賀 三郎(こうが・さぶろう)はサルヴィン川に着くや、隊の兵十五人を動員し筏を造らせた。
「筏は最低でも二隻造る!
 物資の輸送や兵員の輸送も我らに任せろ!!」
 筏は、本隊すべてを運ぶことは困難であったので、龍雷連隊はこの甲賀の策に従い水路を行き、障害を排除するとともに、本隊の乗れる交易船をチャーター後も、水戦力としてその警備に就く、ということになった。
 今、松平やトマスが、筏上で、早速襲いくるサルヴィン川の魔物と必死で戦っている様子が窺えた。尚、この最中に甲賀のパートナー二のフィリッパ・グロスター(ふぃりっぱ・ぐろすたー)は隊を無視して先へ行ってしまったという――「パラミタイカのコンロン焼きっつうたら有名じゃん」と言い残して。
 ともあれ、交易船については、出ている本数自体が、現在は多くない。
 そこで船については、交易船を借りる以外に、ロザリンドが根回しを行ったヴァイシャリー近郊の友好的なグループから出してもらう方向で決まった。
 ヴァイシャリーには、交渉に同行した者のパートナーの内、魏 恵琳の兵法書 『孫子』(へいほうしょ・そんし)、軍師マリーのパートナーカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)、また、龍雷連隊トマスのパートナーからミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が残り、商家との取引やその後の必要なやり取りを受け持つこととなった。
 危険も多いだろうコンロン国境付近にまで船を出させることについて兵法書孫子は、後、コンロンとの外交が成立する際に商売優先権を与える、護衛は教導団が行うこと、輸送業を斡旋することなどを約束することで了承をもらえるだろうと述べた。
 ミカエラは彼らとの交流を積極的に持ち、高圧的や高飛車でもなければ、卑屈でもない態度で接することに努めた。難しいことではない、よき友人であるように、とだ。
 このメンバーらのおかげで、早々、ヴァイシャリー近郊の中立・友好勢力との関係は、いい方向になりつつあった。
 カナリーは行軍の規模・人数を調べ上げた上で、必要になる商船の規模・量を申し伝えた。更にカナリーは引き続き、補給のため、彼等との間の今後の取り引きを続ける上で必要になってくる食糧・物資の量や相場の調査を行った。
「あれ、なんでどーまんせーまんくんここにいるの?」
「……フ」
 マリーの相棒その二となった蘆屋 道満(あしや・どうまん)を、元祖相棒のカナリーは、大キライッ、なのだった。道満は、教導団の交渉関係の者が、荒事に巻き込まれないように、この地に残り目を光らせているのであった。そんな道満は、カナリーが苦手だ。そそくさ。
「何。目を光らせてって……それってこのカナリーちゃんも含まれているわけ? いらないんだからねっ」
 カナリーは道満にかなりきつく言うと、外には可愛い笑顔を振りまきながら調査に戻っていった。「……マリちゃんせつないよ。オレ」
 

 
 サルヴィン川遡上。
 船からこっそり顔を出す、騎凛に魏 恵琳(うぇい・へりむ)プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)
「あぁ。せっかく水着を着てきたのに、泳げないなんて」
「そりゃそうだよ先生。交易船ってことになってるんだから。おかしいでしょ。
 サルヴィン川の流域は、東側の各地域につながっているんだし」
 と、至極まっとうなことを述べるプリモも、水着だ。
 その隣で、恵琳は、教導団水着が男子のもボディスーツ型になっていたのは、サルヴィン川での移動や戦闘を考えて、保温性の高いタイプを選んでいたのかしら……と、団長に尊敬の想いを馳せているのだった。そんな恵琳は、「麒麟師団長。船の上で鎧は危険です。戦闘時は教導団水着がいいのではないでしょうか?」と進言し、自らも実行していた。もっとも、騎凛はそう言えばずっと水着だった。
 そういうわけで皆、何かあったときのため、水着に着替えてサルヴィン川を遡上していた、のである。
 プリモは、いざ戦闘になったら隣にいるこの戦闘バ……いやいや、きりんてんて〜に引っ付いて援護射撃に徹することで身の安全を図るつもりだったが。
 プリモはまた、コンロン側のベースに付いたときのために、造船技師等を同行させる提案も行っていた。実際には、飛空艇と船を兼ねる空路の方に、技師の多くは乗っていることになるが。プリモはまた開発のことに頭を悩ませつつあった。
 それぞれの思いをいだいて、水着で水面を見つめる三人。